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58話 ハイン、村へと到着する

「初めまして。今回、施設より紹介を受けこちらに派遣されたハイン=ディアンです。よろしくお願いします」


 無事に目的の村へと辿り着き、村長の家へと案内される。家の中には村長と思われる老人と、その横に若い男が二人立っていた。


「ようこそおいでくださいました。この度は救援のご依頼をお引き受けいただき、誠に感謝しております」


 そう言って立ち上がり、こちらに頭を下げる村長。物腰の柔らかい、温和そうな顔をしている。


「しかし……随分と若いな。しかも一人とは。話では、屈強な連中を助っ人に依頼すると聞いていたのだが」


 村長の横に立つ男の一人がぼそりと言う。声のトーンこそ抑えているが、隠す様子はまるでないようだ。


「おい!失礼だろうが!……すみません。こいつ、先日の襲撃で息子が襲われてしまい、気が立っておりまして……」


 慌ててもう一人が声を上げるのを手で制し、自分も話し始める。


「構いません。見た目でそう思われても仕方ないでしょうし、こちらの事情もあり、急遽自分がこちらに伺う事になりましたので。口であれこれ言っても信用して頂くのは難しいと思いますし、働きで証明させていただきたいと思います」


 そう言って恐縮しきりの男を宥める。その様子を見て、まだ何か言いたげであった先程の男も口を閉ざす。


 まぁ、こんな事は過去に幾度となく経験しているので今更腹を立てる事でもない。


 困窮して助けを求めて依頼する側なのに、こちらをはなから信用していない態度で依頼をふってくる連中は珍しくないのだ。ともあれ、静かになったので村長に詳細を尋ねることにする。


「……さて、それでは詳しい話をお聞かせいただけますでしょうか?勿論、分かる範囲で結構です。こちらは、異なる種族の魔物に襲撃されているという事しか伺っていないもので」


 そう自分が言うと、村長が口を開く。


「……はい。連中は村の北と南の方角からそれぞれ現れ、互いに争いあっております。その中間地点に我々の村があり、その争いに巻き込まれているというのが現状であります」


 村長がそう言うと、最初に自分に絡んできた方の男が言葉を続ける。


「……北の方から現れるのは主に魔犬の類だ。逆に、南の方は魔猿だ。どちらも、姿や大きさも様々な奴らがいる。犬猿の仲、という言葉通りに縄張り争いにうちの村が巻き込まれた形だろう。水場があり、畑も牧場もあるこの村を確保すればかなり優位に立てる。互いにうちの村を中心に争いつつ、ついでの感覚で我々も襲っている感じだろうな」


 なるほど。種族同士での争いが起き、この村を拠点とすべく双方で争いあっているという事か。連中にとっては餌場程度の扱いなのだろうが、巻き込まれた側としてはたまったものではない。


「……なるほど、分かりました。双方の種族から狙われているというよりも、巻き込まれているという事ですね。では、どちらかの根城を突き止め、まず片方を仕留めます。続けて、もう片方を殲滅する形が良さそうですね。村長、村に来る頻度はどちらの方が多いですか?あと、襲撃時の連中の数や様子を覚えている範囲で教えてください。実際にそいつらと対峙した村人からも話を聞いておきたいので、心当たりがあるなら今のうちにその方を集めておいて貰えますか?」


 そうさらっと話す自分に、男達はもちろん、村長も驚いた反応を見せる。


「ほ、本当に……大丈夫なのか?それなりに腕に覚えがある者がいたにも関わらず、村への被害をどうにか食い止めるのが現状精一杯なのだぞ?いくら施設からの派遣隊士とはいえ、本当に一人でやろうというのか?」


 男の問いに、はっきりと胸を張って答える。


「僭越ながら、自分も勇者としていずれ施設を旅立ち魔王を倒すという目的を持っています。施設を離れ、冒険者として旅立てばこの様な事態に立ち会うことが当たり前となります。なので今回、この村に降りかかった災厄も必ず自分が解決します」


 そこまで言うと、男が声を上げた。


「……着いてきてくれ。実際に連中と対峙して食い止めた奴等を紹介する。それと……さっきは悪かった。あんたを信用する。俺たちに手伝える事があれば何でも言ってくれ」


 男の言葉に頷き、さっそく向かう事にする。村長の家を出て目的地へ向かう途中、外で遊んでいる子供たちが隣の男に駆け寄り声をかけてくる。


「お父さん!今日はまだ帰れないの?……あれ?そっちのお兄ちゃんは誰?」


 会話から察するに、この男の子供なのだろう。先程聞いた通り、前回の襲来の際に怪我をした手には包帯が痛々しく巻かれている。


「初めまして。俺は村の人に頼まれて坊やに怪我をさせた悪い奴等を倒しに来たんだよ。……ごめんね坊や。すぐ終わるから、ちょっとその手を見せてくれるかな?」


「えっ?う、うん。いいよ」


 そう言って男の子が包帯の巻かれた手を差し出す。その手を優しく取って魔法を唱える。


「……『回復(ヒール)』」


 包帯越しに男の子の傷が癒えていくのが伝わる。びっくりしたようで男の子が目をぱちくりさせながら言う。


「えっ……えっ?痛くない!痛くないよ、お父さん!わぁ……見てみて!ほら!傷が塞がってるよ!」


 驚き半分、喜び半分といった感じで男の子が包帯を解きながら興奮したように叫ぶ。ひとしきり騒いだあと、再び男の子が自分に声をかけてくる。


「凄いね!ねぇねぇ、お兄ちゃんは魔法使いなの?」


 そんな男の子の頭を撫でて、懐から飴玉の入った袋を手渡しながら言う。


「違うよ。兄ちゃんは勇者様さ。まだ見習いだけどね」


「ゆうしゃさま……?」


 まだ理解が追い付かないのか、男の子は飴玉の袋を手にしたまま、きょとんとした表情を浮かべる。


「ははっ。なんでもないよ。さ、その飴玉、向こうの友達と皆で分けて食べな。喧嘩しちゃだめだからな」


「うん!ありがとう!みんなー!ゆうしゃさまのお兄ちゃんがお菓子をくれたよー!」


 そう言って友達の下へと駆け出す男の子。一部始終を見ていた男が恐る恐る声をかけてくる。


「あんた……魔法も使えるのか。息子の怪我を治してくれて感謝する。……差し出がましい頼みだが、村には息子よりも重症の怪我人がいる。出来たら、そいつらの治療も頼めるか?」


 飴玉の袋を抱え、友達とはしゃいで笑う子供たちを眺める。必ず、この子達が安心して暮らせる環境を取り戻さねばならないと思った。


「あぁ。もちろんだ。重症の奴がいるならすぐに案内してくれ。話はそれから聞かせてもらう事にするよ」


 男にそう言葉を返しながら、改めてこの任務を成功させようと心に誓った。


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