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56話 ハイン、教官に呼び出しを受ける

「……さてと。もうそろそろ目的地に到着するはずなんだがな」


 そう一人つぶやき、地図を取り出して眺める。


 話は、少し前に遡る。


「ハイン=ディアン。次の講義が終わったら教官室に来るように」


 講義が始まる少し前、廊下で普段あまり関わる事のない教官から声をかけられる。


「え?あ、はい。分かりました」


 内容も分からないまま、いきなりそう言われたため、そう返すのがやっとであった。何か呼び出しをくらう事をしてしまったのかと最近の自分の行動を振り返る。


(……酒とタバコはタースの工房以外では極力控えているから、教官の目に付く事はねぇ。そもそも、度を超えたやらかしがなければ、大概の事は黙認されるはずだ。ヤムやプランの部屋への押しかけが時々あるものの、イスタハのお陰で毎回未遂で済んでいる。説教や謹慎をくらうような覚えはないんだがな……)


 何故自分がいきなり呼び出されるのか気にはなったものの、ひとまず講義を終えて教官室へと向かう。


「……失礼します。勇者クラス上級、ハイン=ディアンです」


 ドアをノックし、教官室に入る。受付に案内され奥へと進む。


「ようこそ。急に呼び出してすまないね、ハイン君。私は闘士クラス教官、ミス=ヘイス。こちらは魔術師クラス教官、ザラ=シアマだ。よろしく」


 そう言ってミス教官が手招きし、椅子に座るよう促される。よくよく見れば、自分に声をかけた教官がザラ教官だった事にここでようやく気付いた。


「はぁ……では、失礼します」


 そう言って椅子に座る。ザラ教官が三人分のお茶を用意し、席に着いた所でミス教官が口を開く。


「……さて、まずは用件から伝えようか。ハイン君、君には特殊クエストを受注して貰いたんだよ。ハイン君、君は『推薦クエスト』って言うのを聞いた事はあるかな?」


 ミス教官の言葉に、過去の記憶を探る。


 ……確か、推薦クエストとは特級、かつ各クラスの教官の認定や同レベルの隊士の中でのみ受注出来るクエストだったはず。


 素材の兼ね合いや、他に優先すべきクエストを受注した隊士が、『自分は受注出来ないが、この隊士なら、自分の代わりにこのクエストを達成出来るはず』と認めた相手を指名して仲介する制度だったと記憶している。


「……聞いた事はあります。もちろん、受注した事はありませんが」


 正直にそう答える。事実、二十五年前も候補に挙がった事はあったものの、受けた事はなかった。


 教官にそう答えると、ミス教官が口を開く。


「うん。そうだろうね。知っているだけでも驚きだよ。本来なら対象者にしか伝えない内容だからね」


 おっと、あまり余計な事は言わないでおこう、と内心思っているとミス教官が話を続ける。


「さて、本題に入ろう。ハイン君。君にその推薦クエストの話が来ている。しかも、同時に二つだ」


 ミス教官の言葉に、思わず顔を上げた。


「……俺に、ですか?しかも二つ?どういうことでしょうか?」


 自分の問いかけに答えたのは、ザラ教官であった。


「……本来、特級クラス同士、かつ優秀な者に限定した制度なのだがな。上級クラスの隊士に声がかかるというのは、今回が始めてのケースになる」


 確かに、適任である特級クラスの隊士がいるのに何故未だ上級クラスの自分にそんな話が来たのだろうか。不思議に思っていると、ザラ教官が再び口を開く。


「勇者クラス特級、テート=フィン。そして闘士クラス特級、ハキンス=ビーグ。二人とも特級クラスの首席の最有力候補だ。その二人が、君を名指しで指名したのだ」


 ……そういう事か。それで自分が何故呼ばれたのかが合点がいく。あの二人に自分の名前を出されたのか。


「そうなんだよ。まぁ、君の実績からしたら納得出来るんだけれどね。飛び級から始まりソロ、パーティー共にクエスト達成率一〇〇パーセント、初参加の隊士混合試合でいきなり準優勝、更には緊急要請クリア、新人育成による隊士の意識向上……うん、ざっと経歴だけでも凄い事になっているね」


 改めてミス教官に言われ、少し気恥ずかしくなる。確かに、過去の経験を活かしているとはいえ、思い返してみれば結構な経歴なのだと今更ながら自覚した。


「……イスタハの魔術師クラスへの編入、そして飛び級も君が関わっているな。とても優秀な隊士を見出してくれた。シトリマも優秀ではあったが、どこか自信過剰の態度で我が強い面があったが、君との新人育成の後は人が変わった様に授業もクエストも真摯に取り組んでいる。とても感謝しているよ」


 淡々とながらも自分に感謝の言葉をかけてくるザラ教官に驚く。どことなく無愛想で冷淡なイメージだっただけに、こうも素直にそう言われてしまうと見た目とのギャップに戸惑ってしまう。


「まぁ、そんな訳で我々教官同士の中で、例外中の例外ではあるのだが、君の実績と実力を考慮した結果、今回の話となった訳なのさ。もちろん、これは強制ではなく、あくまで提案だ。詳細を聞いた上で決めてもらって構わない。君にも都合があるだろうし、それより優先したいクエストがあるかもしれないからね。どうかな?」


 そう言って、ミス教官は自分に尋ねてくる。


 ……考えるまでもなく、自分の答えは既に決まっていた。


「……もちろん、お引き受けいたします。まず、二つとも詳細を聞かせてください」


 そう言って、教官たちからクエストの話を聞くこととなった。


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