43話 アウルベア亜種戦、決着へ
「ふんっ!」
長剣を振り上げ、アウルベアを跳ねのけるテート。一瞬のけぞったものの、すぐに威嚇の構えを取るアウルベア。
「……助かったぜテート。気を付けろ。そいつ、動きがかなり早い。力も通常種の比じゃねぇぞ」
自分の言葉に前方のテートが剣を構え、こちらに背中を向けたまま言葉を返す。
「うむ!今の立ち合いだけで分かった。これは並の隊士では太刀打ち出来ないだろう。ここでどうにか仕留めておく必要があるな」
そう言ってテートが再び剣をアウルベアに向ける。確かに、先程の一撃はかなり危なかった。テートが咄嗟にフォローしてくれなかったら自分も手傷を負っていただろう。
「……だな。ちょっと甘く見ていたな。こりゃ、少しばかり骨が折れそうな相手だな」
ルビークを守る様に前に立ち、自分も剣を構え直す。
「うむ。それにここから奴を逃す訳にはいかん。夜になればますますあいつの有利な状況になる。暗闇に乗じて襲われれば、夜目が効くあいつの方が自由に動ける。そうなれば数の上で有利だとしても危険だろうな」
膠着状態の中、テートの言う言葉に頷く。確かにその通りだ。梟の特徴を持ち合わせているアウルベアの視野は広く、夜行性のためこちらが圧倒的に不利だろう。夜営をしたところで、ルビークを庇いつつ戦うのは得策ではないし、万一撤退するにしても施設に戻る前に不意を突かれて襲われるリスクもある。
つまり、この場で確実に仕留めておく必要があるという事である。
(テートの動きを阻害しないようにサポートをしつつ、ルビークを守りながらの戦いか。普段と違いやりづらいな)
イスタハ達の場合は各々が異なるスタイルだが、それぞれ特化した攻撃手段を持っているため、指示を出しつつある程度自由に戦えるし、ソロならば自分の好きな様に戦える。
「……すみません。私が足手まといになっているばかりに」
ルビークが警戒しつつもこちらに申し訳なさそうにつぶやく。言いながらも決してアウルベアから目は逸らさない。覚悟を決めている顔である。
「……気にすんな。不測の事態、しかもメインの武器を壊されている状態なんて冒険に出ればいくらでもある。今のうちにこれを体感出来た事を今後の糧にするんだ。それに、何も出来ない訳じゃねぇ。大事なのは今、自分に出来る事を考え、それを実行する事だ」
そう言った自分に、ルビークは力強く頷き答えた。
「はい。……不思議です。ハインさんの言葉にはとても重みがあります。年下なのにまるで、頼れる先輩に言われているような」
……本当は年上だ、とも言えないので、そこには言葉を返す事なく再びアウルベアと向き合う。静かな唸り声を発しながらも、こちらに対して攻めあぐねているようだ。
おそらく、血の味を覚えているルビークを狙いたいが、その前に対峙している自分達に対してどう対処するかを考えているのだろう。
しばしの膠着状態を破り、口火を切ったのはテートであった。
「先手必勝!まずは俺から行こう!」
テートが長剣を振り上げ、アウルベアに構えて技を放つ。
「燕よ!尾を高く掲げよ!『燕尾』!」
振り上げた剣先から二股に分かれた雷の斬撃が放たれる。斬撃は収束し、アウルベアを挟み込むように襲い掛かる。
必然的に回避するためその場で跳躍するアウルベア。
「そう。そうなると読んでいた」
アウルベアより一瞬早く跳躍していたテートが剣を構えていた。
「『飛燕』!」
完璧に首を狙ったテートの一撃であったが、空中で器用に体勢を変えて爪でガードの体制を取るアウルベア。渾身の一撃であったが見事に塞がれてしまう。
「ぬうっ!」
次の瞬間、ほぼ同時にテートとアウルベアが地面に着地する。だが、技を受けた衝撃を利用してテートより若干先に地面に降りたと同時に魔獣特有の反射神経で着地した直後、テートへ狙いを付けてアウルベアが飛び掛かった。
「くっ!」
咄嗟に剣を構え直すテートだが、それより早くアウルベアの爪がテートに向かう。
だが、それより先に自分は技を放っていた。
「『螺旋斬』!」
自分の放った風の刃がアウルベアを襲う。再度爪でそれを防ごうとするアウルベア。
(まぁ、普通そうするよな。だが、それが間違いだ)
テートの渾身の一撃を受けた爪は耐久度を失っており、自分の風の刃はアウルベアの爪を数本へし折った。
「いいぞハイン!よく見ていた!」
爪を折られて動揺しているうちにアウルベアと距離を置いたテートが叫ぶ。
「これでさっきのフォローはチャラだ!行けっ!ルビーク!」
自分が声を上げると同時に、ルビークが手投げナイフを数本同時にアウルベアに放つ。反射的にそれを弾こうとするが、折れた爪では全てを弾くことが出来なかったため、一本のナイフがアウルベアの肩に突き刺さった。
「やりましたっ!『捜索』の加護がかかったナイフです!これで逃げても居場所を追えます!」
対象者の居場所を突き止める事が出来る『捜索』。ルビークのナイフを見た時、ただの投げナイフでは無いと思っていたが、やはり魔法が込められた物だったようだ。これで逃げても追跡が可能という訳だ。
「さぁ、これで大分こちらが有利だ。手負いとまではいかねぇが、こちらが大分攻めやすくなったな」
そう自分が言うと同時に、後ろに飛び退き退却の体勢に入るアウルベア。おそらく森へ姿を隠すつもりなのだろう。
「逃がすかっ!」
そう叫びながら駆け出そうとする横で、テートが静かに言う。
「上出来だルビーク。そして、これで終わりだ」
いつの間にか魔力を込めていた長剣を構え、高らかにテートが叫ぶ。
「光れ燕雀!『避雷燕針』!」
テートの剣先から稲妻の刃が勢いよく放たれる。次の瞬間、轟音と共にその稲妻はアウルベアへと突き刺さった。




