36話 ハイン、(強制的に)Aランクを目指す
「……なるほど。言われてみりゃ確かにその通りだ。どうしてそれに気付かなかったんだろうな」
テートの言う通り、今の自分にとって旨みが少ないBランクを無理矢理こなすより、難易度が高い代わりに実入りの良い素材が狙え、特級を目指すべく実績を積めるAランクを受けられるならば、それが一番理想的である。
無論、自分がAランクをすんなりと受注出来るかはまだ分からない。パーティーではともかく、自分のソロでのクエスト達成率は決して多くはないからだ。
あくまで、教官や受付に申し出て許可が出ればの話ではあるが、もしもそれが可能であれば、素材や報酬、何より実績の積み上げとしても願ったり叶ったりである。
「うむっ!その通りだっ!さぁハイン、そうと決まれば善は急げ!今すぐ教官の下へ申し出に行こう!俺も一緒に着いていこうではないか!」
……あ、ヤバい。こいつのスイッチが入りやがった。
このテートと言う男、決して悪い奴ではない。うん、悪い奴ではないのだが、とにかく熱いのだ。暑苦しいといっても差し支えない。人に対しても、己に対しても。
勿論、ただ暑苦しいだけの男では決してなく、特級クラスへ進む実力が示すとおり成績はすこぶる優秀、剣の腕も魔法の技術も超一流なのだ。一概には言えないが、あのハキンスに匹敵する強さや才を持ち合わせていると思う。
事実、自分が当時施設を卒業した際、自分を含む同世代の隊士を抑え首席として勇者クラスを卒業し旅立ったのは、何を隠そうこの男、テートであった。
『努力!熱血!勝利!』を地でいく人間で、曲がった事が大嫌いな熱血直情型であるため、その熱すぎるテンションや振る舞いが一部の隊士や教官からは引かれ、やや距離を置かれていた。
自分も同じ勇者クラスという立場上、首席争いとしてライバルというポジションではあったが、適度に距離を置いて付き合えば面倒臭くはあるが悪い奴ではないため、互いに切磋琢磨する存在としてはさして問題はなく、悪い関係ではなかった。
「さあハイン!我が終生の友でありライバルよ!困難を乗り越え、共に勇者という高みを目指そうではないか!」
……問題はその距離を、こいつが容赦なくぐいぐいと埋めてこようとするところであった。
思えば、当時も先に特級クラスに進級していたのは当然テートであったが、その頃にようやく自分の能力が開花し始めた時、それにいち早く気付いたのもこの男だった。
ある日偶然、勇者クラス内での合同演習があり、当時上級クラスだった自分を見て、一目散にテートがこちらに駆け寄ってきたかと思うと開口一番自分にまくし立てた。
『君!確かハインといったな!……うむ!君には光るものがある!さぁ!同じ勇者クラス同士、共に首席を目指し、国を救う立派な勇者になろうではないか!』
若干テートの方が年上ではあったが初対面からその勢いに圧倒され、気付けば何かしらと絡む機会が一方的にではあったが増えていき、その流れで自然と距離が縮み、いつの間にかテートに対してタメ口で応対するようになっていた。
未来が変わり、自分が飛び級した事も加わり今回はテートが上級クラスの内にクラスメイトになった訳だが、いきなり上級になった自分に対し、他のクラスメイトが自分にどう言葉をかけて良いか分からず他の面々が言葉を慎重に選んでいる中、迷い無く自分に第一声を放ったのもテートだった。
「君か!飛び級して上級クラスに来たというのは!うむ!ハインというのだな!確かに君には光るものがある!俺はテート!テート=フィンだ!これからよろしく頼む!」
……相変わらず暑苦しい男だな、と無理矢理手を取られて握手をしながらも心の中で苦笑しつつ、当時を思い出して懐かしくなり、少し嬉しくなった。あくまでほんの一瞬ではあるが。
「……いや、一人で行くから大丈夫だよ。受注できるか教官に確認するだけだし、そもそも許可がすんなり下りるかは分からねぇんだからさ」
そう言うものの、一人盛り上がってしまったテートは一歩も引かない。
「いや!ここは俺からも教官たちに推薦させて貰うぞ、ハイン!お前という男は既に特級クラスに値する実力を有しているとな!」
……もはやこちらの言葉には耳を貸してくれることはなく、そのまま強引に首根っこを掴まれてずるずると教官室へと引きずられてしまう。自分を引きずったまま、なおもテートは大声で喋り続ける。
「確信に変わったのは、先日のハキンスとの混合試合だ!俺も参加するつもりであったが残念ながらクエストと進級への課題のため、試合への参加が間に合わなかったが、観客席で試合を観ていて魂が震えた!あの一戦……!あと一歩のところまであのハキンスを追い詰めたお前を見て、確信した!やはり、お前は俺の終生のライバルなのだと!」
……やっぱりこいつ、面倒臭い。
「何だあれ……?確か勇者クラスの連中だよな……?」
なおも大声で叫び続けるテートに引きずられ、周りの隊士達から好奇の視線に晒されている中、心からそう思った。




