37話 ハイン、失言しつつもいざクエストへ
「はい。ではこれよりハインさんのAランクのクエスト受注の許可を受け付けます。くれぐれもご無理をなされませんように」
あれからテートにひきずられ、半ば強引に教官達の下へと連れていかれた後、あれよあれよという間に許可が降りた。
幸い、真面目に取り組んでいたおかげで授業、訓練時の態度や課題の面も問題なく、ネックになっていたクエストの達成率の点も不問となり、拍子抜けした形であっさりと許可が降りた形である。
「まぁ、君の事は我々の間でも話題になっていたからね。飛び級、しかも上級に上がって間もない隊士が、まさかの初参加で決勝進出、しかも特級の首席相手に善戦するなんて事は過去に一度も無かったからさ」
教官の言葉に思わず反応する。どうやら、ハキンスとの一戦は隊士だけではなく、教官連中の間でも話題になっていたようだ。
大会に参加した事で、ここでも未来に変化があったようで少し驚いた。
(……自分が教官達にこんな風に注目して貰えるようになったのは、当時は特級に上がって少し経ってからだったからな。とてもこの時にソロでのAランク受注なんて夢のまた夢だったはずだ)
無事に手続きを終えると、相変わらずのテンションでテートがこちらに近付いてきた。
「うむ!どうやら無事にAランクのクエストの受注許可が下りたようだな!やはり俺の目に狂いは無かった!」
唾を飛ばしながら大声で叫ぶテート。その唾がかからないように距離を取ってやむなく相手をする。
「おう。何とかな。……まぁ、お前のお陰でもあるか。ありがとな」
……あれから、教官室ではテートの大演説が三十分に渡り繰り広げられた。
「どうか!ハインにAランクのクエストソロ受注許可を!彼程の優秀な成績であれば、至極真っ当な申し出であるかと!」
横で熱弁されている自分を見て、同情の目を向ける教官達の視線が痛かった。
……それが良かったのか悪かったのかはさておき、演説を打ち切るように教官から許可が下りた次第である。
「うむ!強き正しき者には正当な評価をして貰わねばならんからな!またこれで一つお前が高みに立てるというものだ!」
……こういった台詞を臆面もなく言えるのも、ある意味では貴重な存在だと思う。
「……よし、じゃあ俺は早速Aランクのクエストを覗いてくるわ。じゃ、またな」
またテートが着いてこないかと一瞬不安になるが、どうやら自分への許可が下りただけで満足したようで、こちらに頷き、また大声を張り上げる。
「うむ!それでは俺も自分のクエストの準備といこう。さらばだハイン!検討を祈る!」
そう言ってテートは高笑いをあげて去っていった。ようやく一人になり、自分の時間が出来る。
「ふう……。ありがたいけど何か、どっと疲れたな。寝不足もあるし、今日は下見だけにして、明日以降に受注する事にすっか」
そう一人つぶやき、クエスト受注所へ足を運んだ。
「よし、じゃあ行ってくるわ。お前らも頑張れよ」
翌日、午前の必修講義を終え、昼食をイスタハ達と取ったその足で受付へと向かう。
「大丈夫だと思うけど……気を付けてね、ハイン」
心配そうな顔でイスタハが言う。
「おう。ありがとな。ま、最初だからそこまでリスクの高い奴は受注してねぇから大丈夫だよ。お前らも油断するなよ。三人揃っているとはいえ、Bランクの高難度なんだからな」
あれから、すぐに受付で素材と難易度の折り合いが付くクエストを検索し、翌日に受注出来る事を確認し、イスタハ達三人に事の次第の報告をした。
「なんと……!おめでとうございます!流石師匠ですね!」
「うふふ……流石ハインさま……素敵……」
ヤムもプランも祝福してくれ、今後についての話し合いを行った。
「当面はAランクのパーティーでの受注の許可が下りるのを目標にして、それを最優先。あとは個々の必修科目と実績を積む、って感じだね」
イスタハがテーブルに置かれたメモに目を落としてつぶやく。
各クラスによって必須となる講義や項目があり、上級からはそれらを除けばクエストの達成が最優先される。必修科目以外であれば後日何らかの形で履修、内容によってはスルーしても許されるケースもある。
「だな。俺は明日の午前に必修科目があるからそれを受けて、昼食の後に向かう事にするよ」
そう自分が伝えると、横に置かれた数枚の紙を手に取りヤムが口を開く。
「了解です師匠。では、次にこちらをご覧ください。我々が赴くクエストの候補ですが……」
自分がソロでクエストに向かう間、ヤム達は三人でパーティーを組みクエストに向かい、達成率を上げるという話になり、三人が共通で欲しい素材と難易度のクエストの相談を受けた。
「……うん、これが良いんじゃねぇか?これならお前とプランが前線で戦闘、後方でイスタハが魔法でサポート出来る。最悪、プランも守りに入れば危険も少ないだろうし」
フレア・リザードをはじめとした指定された魔物の一定数討伐のクエスト用紙を指さす。ワイバーンの様な飛行種がいれば話は変わるが、報告書の中にはそれらの魔物の目撃もされていないため、三人で充分なクエストだろう。
「そうだね。ここにあがった魔物の目撃リストの中に、僕とプランが欲しい素材の魔物もいるし、決まりだね」
「は……はじめての三人での高難度……が、頑張ります……」
という流れで、自分は初のAランクのソロクエスト、イスタハ達は三人でのBランク高難度に挑戦する事となった訳である。
ちなみに、空きもあるし誰か自分の代わりに声をかけてみては、とも提案したが三人の答えは揃って『ノー』であった。
「勿論、僕たちだってクラスメイトに頼まれてパーティーに参加する事はあるよ?でも、この三人での連携、そこにハインが加わる関係を崩したくないんだ。どうしてもハインと比較しちゃうからね」
イスタハの言葉に二人も頷く。
「はい。師匠の言葉に習い、私もプランも少しずつではありますが……他の隊士とパーティーを組んで向かう様にしています。ですが、やはりこの四人を超える事はありません」
「他の人たち……とっても……やりづらいです……や、やっぱりこの四人が一番……うふふ……」
未来を見据え、実績のために他の隊士達ともクエストに向かい、パーティーでのクエストを多くこなそうと提案し、各自少しずつ他の面々ともクエストに向かう様にしていたのだが、二人の言う通りこの四人で向かうクエストの様には中々上手くいかなかった。
他人同士だから仕方ない事ではあるし、当然ではあるのだが、痒い所に手が届くような感じで互いに立ち回れるこのパーティーに対し、スタンドプレーに走る者、人任せになりがちな者、指示や連携が伝わりにくい者。
それらをどうにかまとめ上げ、あるいはフォローしながら他のクエストをこなしていく事が多かったため、三人の言葉には自分も同感であった。
「……まぁな。俺も実際、ここにいるのがお前らだったらな、って思いながらクエストの途中で思うことは何度もあるしな」
自分の言葉にヤムとプランは明らかに喜びの表情を浮かべ、イスタハも悪い気はしていないような顔をする。
「ま、これも社会勉強さ。冒険者として外の世界に出れば、もっとろくでもない奴と手を組まなきゃいけない時もあるし、なんならこちらを蹴落とそうとする奴もいるからな。今のうちに慣れておこうぜ」
思わずそう言ってしまった自分に、三人が怪訝な顔をする。
……まずい。またやってしまった。
「……ハイン、時々変なこと言うよね。何か、悟ったような感じでさ。何て言ったらいいのかな……まるで、先の事を見ているみたいに」
「い、いやいや。きっとそうだろうって話だよ。考えてもみろよ。隊士同士でこれなんだから、外の世界じゃもっと色んな奴がいる、って話だよ」
イスタハの言葉に、慌てて誤魔化しにかかる。なまじイスタハは優秀なだけに、この辺りの勘はやはり鋭い。
「まぁ、それもそうだね。ハインの言う通り、確かにその辺りは今のうちに慣れておかないとこれから先もっと大変だと思うし。でも、本当に大切なクエストや危険なクエストは引き続き、この四人だけで受ける形にしようよ。それで良いよね、ハイン?」
何とか誤魔化せたようである。内心で胸を撫で下ろし、イスタハに言葉を返す。
「お、おう。それで良いと思うぜ。じ、じゃあ受注しに向かおうぜ」
かくして、色々とあったがひとまず、それぞれの受注したクエストへと向かう事となった。




