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30話 ハイン、ハキンスの独白を聞く

「……信じられんな。お前のような奴が、つい最近まで初級だったとは。実力を隠していたのか?」


 再びこちらに向かい、構えながらハキンスが言う。


「……そういう訳じゃないんですがね。まぁ、上手く言えないですが、才能に目覚めたといいますか、上達のコツを掴んだといいますか……」


 言葉を濁してはぐらかす。まさか『本当は四十路なんですが、気付いたら十五の頃に戻っていました』などと本当の事を言う訳にもいかないし、言ったところで誰が信じるだろうか。


「まぁ良い。どちらにしろ、好敵手として出会えた事に感謝するぞ、ハイン」


 隊士時代にはとても口をきける存在ではなかったハキンスと、こうして話すまたとない機会である。試合中ではあるが、ハキンスに話しかける。どうしても気になった事があったからだ。


「……先輩。少し聞いていいですかね。先輩が、頑なに一人で戦うのはどうしてですか。……本当に、他の人を足手まといと思っているんですか?違いますよね」


 実際にハキンスと少しではあるが直接会話をし、こうして実戦で向き合う事で今まで伝え聞いていたハキンスのイメージに疑問を感じていた。

 その強さに間違いは無いが、どうしても自分にはハキンスがそのような人間には思えなかったのだ。


「……人にどう思われようと構わん。……誰かを巻き込むくらいならば、そのように思われていた方が楽というものさ」


 ハキンスが構えたまま、こちらとの距離を少し詰めてくる。こちらも剣を構えたまま、ハキンスの様子を伺う。


「……何か、過去にあったんですね。先輩」


 そう言った自分の言葉に、ハキンスの眉が一瞬ぴくりと動く。


「……何か話しているのかな。ハキンスさんとハイン」


「お、お二人の口元が動いている様ですが……ここからではとても聞こえないですね」


 会場の連中やイスタハ達には聞こえるはずもないが、そのまま会話を続ける。会場の連中から見れば、互いの動きを伺いながらの膠着状態にしか見えないだろう。


「……聞いてどうする?聞いたところで役にも為にもならぬ話だぞ」


 構えを解かず、それでもハキンスが言う。


「確かにそうです。ただ……気になっただけですから。言いたくないなら聞きません」


 会話をしつつもハキンスの隙を探るが、とても不用意に仕掛けられる気がしない。

 勿論、不意打ちをする気は毛頭無いが、改めてハキンスという男の強さを実感する。


「……不思議な男だな、お前は。年下だというのにどこか頼れる雰囲気があるというか。だから、お前の下には人が集まるのだろうな」


 ……実際、本当は年上ですとはとても言えず、無言でハキンスの言葉を聞く。なおもハキンスが言葉を続ける。


「俺も、お前のような男であれば……仲間を失うことはなかったのだろうな」


 唐突なハキンスの言葉に思わず顔を上げる。


「……やっぱり、過去に何かあったんですね、先輩」


 自分の言葉にハキンスがぽつりぽつりと話し始めた。


「……俺が、ソロでクエストをこなしているのは知っているようだな。そんな俺にも、かつては共にクエストに向かう相棒がいた。……昔の話だから、知っている者はほとんどいないだろうが」


 ……確かに初耳だ。ハキンスは隊士になってからはずっとソロなのだとばかり思っていた。


「……初めて聞きました。先輩は、最初からずっとソロでクエストをこなしていると思っていました」


「あぁ。今の様にクエストの難易度が明確に分けられるほんの少し前だ。お前は分からないだろうが、当時はそこまで施設から手厚い保証や加護がなかった頃だ。……と言っても、ほんの数年前の話なのだがな」


 ……それは本当に知らなかった。当時の自分が晴れてクエストに出られる頃には既に、今の制度とシステムが出来上がっていたからだ。ハキンスの独白はなおも続く。


「当時の俺は……自分の強さを過信していた。例え、仲間が弱くとも、自分が強くあれば仲間を押し上げ、共に高みに上がれると信じて疑わなかった。そんな時、俺は相棒とクエストに向かった。難易度は当時にしては高かったが、俺にとっては問題がなかった。俺がクエストを達成すればそれで良いと思っていたからだ」


 ハキンスがそこで一旦言葉を切る。握る拳に力がこもっているのが分かった。


「……だが、それが間違いだった。ターゲットである魔物を討伐した俺の視界に映った景色は、他の魔物に殺された相棒の姿だった」


 ハキンスの言葉に、思わず息を飲む。……そんな事があったとは、流石に知らなかった。

 孤高の存在であるハキンスが、そう呼ばれるまでにそんな出来事があったとは。


「……そんな事があったんですか。……だから、一人で戦い続けているんですね。誰とも関わらない。……代わりに……誰も傷つけないように」


 自分の言葉にハキンスが一瞬の沈黙の後に言葉を返す。


「そんな大層なものではないさ。……しかし、不思議なものだ。今まで誰にも話したことも、話そうとも思わなかったのに、お前にはつい話してしまった」


 そう言って、ハキンスが再び拳を構えなおす。


「さて、どうにも喋りすぎてしまったな。さぁ、試合再開といこうか」


 ハキンスの言葉に頷き、自分も剣を構えなおした。


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