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26話 ハイン、若干煽りを入れる

「それでは、Bブロック二回戦を始めます。勇者クラス上級、ハイン=ディアン。魔術師クラス上級、ロッチ=コーク」


 ハキンスの試合を見届けてすぐ、Bブロックの試合会場に戻るとまもなく二回戦の案内がなされ、早々に二回戦が始まった。


 対戦相手はイスタハのクラスメイトのようで、何度かイスタハから名前を聞いた事がある。『水』や『風』を得意とするイスタハに対し、『火』の魔法のエキスパートだと聞いている。


『他の属性魔法なら、多分僕の方が得意だけど……『火』に関しては彼の方が凄いと思うよ』


「貴方が勇者クラスの期待のルーキー、ハインさんですね。……イスタハ君から話は聞いておりました。よろしくお願いします」


 そう言ってこちらに手を差し出してくる。


「あぁ。イスタハと並んで特級クラス候補って、俺の方も名前は知っているよ。よろしくな」


 こちらも手を差し出して、握手を交わす。


「それでは……始めっ!」


 試合開始と同時に、互いに後ろに飛び退く。

 向こうは魔法を使うため、遠距離タイプの攻め方をしてくるだろう。魔法が繰り出される事を想定し、それに備えてこちらも剣を構える。


(……強いな。単純な魔法の技術だけで言えばイスタハより下だろうが、おそらく接近戦の心得がある感じだ。魔術師だと舐めてかかったら痛い目に合うな、こりゃ)


 ともあれ、膠着状態では話にならないため、こちらから先手を打ってみる。


「はっ!」


 距離を詰めるべく、地面を蹴りロッチに向かい駆け出す。


「……『炎輪壁(フレア・ウォール)』!』


「……っと!」


 ロッチの周りに炎の壁が勢いよく巻き起こる。退がるのが遅れていたら炎に巻き込まれていただろう。

 簡略詠唱で放たれた魔法だったため、炎の壁はやがて勢いを無くして掻き消える。


「……流石の反応ですね。タイミング的に完璧だと思ったのですが」


 既に次の魔法を唱える準備に入っているロッチ。

なるほど、イスタハが言う通り『火』の魔法に関してはかなりの使い手のようである。


「そっちもな。簡略詠唱であの炎を起こせるなんて並大抵の才能じゃねぇだろ。……こりゃ、こっちもちょっと気合い入れてかからねぇとだな」


 改めて剣を構え、こちらも戦闘体勢に入る。


「……『烈風斬(ウインド・ブレード)』!」


 風の刃をロッチに向けて放つ。ロッチはそれを避けようともせず魔法を放つ。


「【炎の精霊よ、汝の力を我に与えん!】『火炎球(ファイアー・ボール)』!」


 素早く第一詠唱を唱え魔法を放つロッチ。ロッチの放った火球は自分の風の刃に炸裂し、相殺する形でかき消える。


「……やはり流石ですね。第一詠唱まで唱えたのに、こんなに簡単に相殺されるとは思いませんでした。これは下手に時間をかけるより、一撃で勝負した方が良さそうですね」


 そう言ってロッチは自分と更に距離を置くべく後ろに跳躍する。その身のこなしを見て、やはりイスタハより体術の心得があるのは間違いなさそうだ。


 今度、その辺りをイスタハに説明してトレーニングに付き合わせようと内心で思っていると、ロッチが距離は充分と判断したのか詠唱を唱え始めた。


「……【炎の精霊よ、汝の力を我に示せ】」


 ロッチの詠唱が始まり、魔力が集まり始める。


「【我が魔力を糧として、獄炎を巻き起こせ】」


 ……正直、魔法が発動する前にロッチの前に駆け出し、ロッチに攻撃する事は可能である。

 だが、ロッチが『炎』の魔法の使い手である事をイスタハに聞いた時に、試してみたいと思ったのだ。


(……我ながら悪い癖だよな。でも、試させて貰うぜ。ロッチ)


 詠唱を唱え終えようとするロッチに向かい、自分も剣を構えて言う。聞こえていようがいまいがはどうでもいい。


「勝負させて貰うぜ。()()()()()()()()()『炎』で、どっちが上かをよ」


 こちらが技を放つより一瞬早く、完全詠唱を唱え終えたロッチが魔法を放つ。


「【爆ぜよ爆炎!】『獄炎撃(バースト・フレア)』!」


 轟音とともに、『火炎球(ファイアー・ボール)』とは比較にならない爆炎がこちらに放たれる。


「師匠っ!」


 関係者席からヤムの叫びが聞こえた。


「……炎の化身よ!我が刃に宿れ!『炎撃斬(フレイム・ハザード)』!」


 自分の刀身から炎が湧き起こり、斬撃が放たれる。その炎の斬撃はロッチの炎を飲み込み、真っ直ぐロッチに向かう。


「なっ……!ぐっ……!」


 慌てて避けようとするものの、間に合わず場外へと吹き飛ばされるロッチ。どうやら回避を諦め、咄嗟に耐火の魔法を放ったと見えて、怪我はないようだ。


「そこまでっ!勝者、ハイン=ディアン!」


 歓声が巻き起こる中、自分はロッチの元に駆け寄る。


「……驚きました。噂には聞いていましたが、噂以上の強さですね、ハインさん」


 自分の差し出した手を取り、驚きの表情を浮かべながらロッチが立ち上がる。吹き飛ばされたものの、自身の魔法と相殺されていた分と、耐火魔法のお陰でダメージもほとんどないようだ。


「いや、あんたが炎の魔法が得意っていうのを聞いていて、つい、な。あの速度で咄嗟の判断、あのレベルの魔法を唱えられるっていうのは流石だよ。イスタハは良いライバルを持ったな」


 周りから歓声と拍手が起こる中、そう言って握手を交わして互いの健闘を称え合った。


「……よぅ。いい気になるなよ。お前のその目覚しい活躍も、準決勝で終わりだからな」


 イスタハ達の元へ戻ろうとした時に、ゼカーノから声をかけられる。


「了解ですよ、先輩。……ていうか、もう面倒ですし番外でごちゃごちゃ言わず、試合で決着付けましょうよ」


 せっかくの良い気分が台無しである。周りの取り巻きもいないためか、少し勢いが削がれたようだが、それでもまたうだうだ言ってくる。


「ふん……本当、生意気な野郎だな。先輩に対する礼儀ってもんを知らねぇのかよ」


 もはや相手をするのも面倒なのだが、ロッチとの心地良い一戦の後の爽やかな気分に水を差された気持ちになったため、つい言い返してしまう。


「礼儀ですか?習っていますし、敬意を払って接しているつもりですよ。勿論、『尊敬に値する』人には、ですけどね」


 途端にこめかみのあたりが引き攣るゼカーノ。うーん、本当煽り耐性ないなこいつ。言い返されてすぐに腹を立てるなら、そもそも言わなければ良いだけの話なのだが。


「……上等だよ、この野郎。その減らず口が二度と叩けねぇようにステージで這いつくばらせてやるよ。いいか?『参った』って言っても止めると思うなよ」


 辛うじて理性が勝ったのか、怒鳴るのは踏みとどまった様だ。口には出さないが、内心で評価する。


「分かりました。準決勝まで進んだらその時はよろしくお願いしますね、先輩」


 まだ何か言いたげなゼカーノの元を立ち去り、今度こそイスタハ達の元へと戻った。


「お疲れ様、ハイン。凄いね……あの炎を上回る炎の一撃だなんて……僕がロッチさんの立場なら、あんな一撃をくらったらとても無傷じゃ済まないよ」


 改めて先程の一戦を思い返しているのだろう。イスタハにしては珍しくやや興奮気味に話しかけてくる。


「どうだろうな。お前なら直撃する前に、耐火魔法をもっと高度に展開出来るだろ。あ、でもそれに甘えて体術訓練サボるなよ。どうにもお前、持ち前の魔力だけで何とかしようとする所があるからな。そういう意味ではロッチの方が上手だぞ」


 そう言われてイスタハはバツの悪そうな表情を浮かべる。


「ですが、初めて見る師匠のあの一撃……本当に見事でした。師匠はまだまだあのような剣技をお持ちなのですね」


 ヤムが感心しきりの表情で言う。


「あぁ。魔法より俺にはこっちの方が性に合っているからな。とはいえ、もっと魔法も使えるようにならなきゃいけねぇから、その辺りは俺もまだまだ日々精進だな」


「うふふ……素敵……流石、私のハインさま……」


 ……プランは相変わらずのようなのでひとまず放置して、話を続ける。


「……ま、ともあれこれであと二つ勝ち抜けば、いよいよ決勝でハキンスとの対戦だな」


 そう言って、改めて決意を固める。


 その後、既に三回戦を突破しているハキンスは当然として、ゼカーノも自分も危なげなく三回戦を順当に勝ち上がり、準決勝へと駒を進めた。


 そして、いよいよゼカーノとの準決勝を迎える事となった。


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