27話 ハイン、いざ決勝へ
「……さてと、時間だな。んじゃ、行ってくるわ」
そう言って関係者席の三人に声をかけて立ち上がる。
「行ってらっしゃいませ、師匠。あの無礼者にどちらが強いかを思い知らせてやってください」
「う、腕の一本や二本、へし折ってやっても……無罪かと……うふふ……」
「ふ、二人とも落ち着いてね。は、ハインが困った顔しているからさ。ね?」
口々に言う皆を見て、程良くリラックスする。
「おう。ま、決勝までのウォーミングアップって感じで、軽く流してくるさ」
そう言って、準決勝のステージへと足を運ぶ。
「それでは、Bブロック準決勝を始めます。勇者クラス上級、ハイン=ディアン。闘士クラス上級、ゼカーノ=ナンショー」
審判の開始前のアナウンスの途中で、ゼカーノが声をかけてくる。
「よう。しっかりここまで勝ち上がってきた事は評価してやるよ。ま、だからといって試合で手心は一切加えねぇけどな」
そう言って嫌味に笑うゼカーノ。勿論、試合前の握手などは求める気配もない。仮にあったとしても、こちらから丁重にお断りだが。
「えぇ。先輩も準決勝進出おめでとうございます。自分も決勝目指して頑張ります」
こちらがそう返すとまた自分を睨みつける。だが、珍しくすぐに冷静になる。おそらく、この後自分をステージで打ち負かすイメージを想像したのだろう。
「へっ……まぁいい。せいぜい今のうちに言っときな。覚えとけよ。すぐにこの後、無様にここに這いつくばらせてやるからよ」
そう言ってゼカーノが構える。拳の先に棘の様な金具が付けられたグローブを両手に装備している。
試合を見た感じ、おそらくゼカーノもハキンスと同じく格闘スタイルを得意としているのだろう。
「奇遇ですね。自分もそう思っていたところですよ。ま、這いつくばっている相手は逆にして欲しいところですけどね」
そう言って自分も剣を抜く。とはいえ、仕掛ける訳でもなく、文字通りただ剣を抜いただけだが。
「……おい、馬鹿にしてんのかお前?早く構えろよ」
ゼカーノが険しい顔つきになる。
「いや、ルール的には問題ないですよね?ひとまず、これで始めさせてもらいますよ」
また何か言いたげなゼカーノよりも早く、自分が続けて言う。
「大丈夫ですよ。自分のタイミングで構えますから。あっ、そうそう先輩、『構えない奴に本気は出せない』なんて言い訳、後から言うのだけは止めてくださいね。恥の上塗りになるんで大丈夫だとは思いますけど」
「……っ!てめぇ……!」
激昂して何か叫びそうになるゼカーノよりも早く、審判が試合を開始する。
「それでは……始めっ!」
審判の試合開始の合図と同時、ゼカーノが真っ直ぐこちらに踏み込んでくる。
「おらぁっ!」
躊躇いのない突きが自分に真っ直ぐ飛んでくる。狙いどころが試合ではなく、完全に相手を仕留めるつもりの一撃だというのが明らかに見て取れる。
相手を傷付けることに対し、全く罪の意識がないからこそ放てる一撃である。
(確かに、実戦やクエストならそれも正しいんだけどな。どうにもコイツ、何か強さを履き違えているんだよな)
放たれる突きの一つ一つを剣で流したり、直接回避しつつ考える。
「ちっ……この野郎!ちょっとはそっちからも攻めて来やがれ!」
のらりくらりと回避するこちらに苛立ちを表すゼカーノ。
仕方ない。少しこちらからも動くことにする。
「了解です。……よっと!」
拳の突きをかい潜り、こちらも剣で突きを放つ。
「ふっ!」
その突きを避け、お返しだ、と言わんばかりにこちらに突きを放つゼカーノ。
再びその突きを回避しようとすると、寸前でゼカーノが突きを中断し動きを止める。
「かかったな馬鹿が!くらえ!『寸鉄撃』っ!」
ゼカーノの一撃を受け、後方に吹き飛ぶ。
「師匠っ!」
「ハインさまっ!」
関係者席からヤムたちの声が聞こえる。
「……へっ、散々デカい口叩いていた割にはこんなもんかよ。場外にまで吹き飛ばしてやりたかったがな」
ゼカーノが嬉々として言い放つ。
「……なーるほど。瞬間的に関節を伸ばしての高速の突きって訳か。タイミングが合わせづらいし、普通のストレートかと思っていると、思わずくらっちまうって訳か」
そう言って立ち上がると、ゼカーノが驚きの表情を浮かべる。
「なっ……『寸鉄撃』がまともに入ったはずなのに……」
なおも驚いているゼカーノにこともなげに言う。
「あぁ、そう見えたか?ちゃんと直撃の瞬間、剣の柄で弾いたんだけどな。ま、くらったようにわざと後ろに飛んだんだけどな。気付かなかったか?」
自分がそう言うと、ゼカーノが叫ぶ。動揺しているのかこちらが敬語を使うのを止めた事にも気付いていないようだ。
「……ざけんな!」
キレたゼカーノがこちらに次々と攻撃を放つ。
速さはそれなりなものの、冷静さを欠いているため、先程より動きが荒い。
「ほら、また狙いが顔に偏ってる。フェイントを入れているつもりだろうけど、分かりやす過ぎるんだよ。連撃を狙うならもっと一つ一つの攻撃を丁寧にしろ」
「……うるせぇ!黙れっ!」
そう叫び、後ろに飛び退き再び自分と距離を取るゼカーノ。
「……決勝までとっておくつもりだったんだが、気が変わった。ハキンスの前に、てめぇで試してやるよ」
そう言って呼吸を整えるゼカーノ。拳に魔力を込めているようだ。
「……へぇ。闘士クラスで魔法の心得があんのか。少し見直したよ」
「……言ってろ。これで決めてやる。……『烈空撃』!」
ゼカーノの拳から『風』の魔力が込められた気弾が放たれる。まともにくらえば風圧で吹き飛ぶか、ガードしても斬撃のようにダメージを受ける類の技だろう。
ならば、こちらとしても対策は一つである。
「……おらぁっ!」
単純明快、こちらに放たれたゼカーノの気弾を、剣で真っ二つに叩き斬る。二つに分かれた気弾は威力を殺すことなくそれぞれ地面に炸裂し、ステージの床を削り取り土煙をあげる。
「なっ……お、俺の技をあっさりと……くそっ、煙で何も見えねぇ」
自分の姿を探すゼカーノに、ゆっくり近付き声をかける。
「……お前さ、言うだけあって素質はあるよ。ただ、それを間違えた方向に向けてるんだよ」
剣を鞘に収め、拳を握りしめる。
「なっ……!い、いつの間に後ろに……」
驚きのあまり、構える事すら出来ないゼカーノ。
「いいか?今のうちに性根入れ替えろ。体の強さだけじゃなくて、心の強さも特級に上がるには必要だぞ。……ま、ちょっと調子に乗りすぎたな。流石に一発お仕置きさせて貰うぞ」
土埃が舞っているため、自分達の声と姿はまだ会場の皆からは見えていない。そこまで言ってゼカーノに向かってもう一度拳を構える。もはやゼカーノに先程までの余裕は一切見られない。
「……ま、参った!降参だ!」
ようやく自分との実力差に気付いたのか、両手を広げてギブアップ宣言するゼカーノ。幸い、今のゼカーノの声は審判には聞こえなかったようだ。
「……お前は、そう言った相手に何をした?悪いが、今からお前と同じ事をさせて貰うわ」
「な……待っ……!」
「聞こえねぇよ」
なおも何か言おうとしていたゼカーノの顔を、手加減なしに全力で殴り飛ばした。
「がっ……!」
ゼカーノがステージから場外へ勢い良く吹っ飛んでいく。
審判や会場の連中からして見れば、煙の中からゼカーノが吹き飛んでいったようにしか見えなかっただろう。
「えっ?」
「……な、何が起きた……?」
煙が収まる中、場外に吹き飛んだゼカーノの姿を見て呆気に取られている一同。
「……ねちねち他の隊士に嫌がらせするくらいなら、堂々とかかって来いや。正規の立ち合いでのタイマンなら、いつでも受け付けてやるよ。……って、聞こえてねぇか」
吹っ飛んだ先の場外で、白目をむいて気絶しているゼカーノを見てつぶやく。
「……そこまで!勝負あり!勝者、ハイン=ディアン!」
勝ち名乗りを受け、周りから気のせいか、いつもより大きい歓声が上がる。
だが、自分の中では既に気持ちはハキンスとの試合に向けて意識が向かっていた。
(……いよいよだ。当時はとても手の届かない存在だったハキンスと戦える。……今の自分が、ハキンスにどれだけ対等に渡り合えるか。それを……試したい)
未だ鳴り止まない歓声の中、この後の決勝戦に向け、拳をぎゅっと握り気を引き締めた。




