21話 ハイン、混合試合について説明する
『隊士混合試合』とは。
簡単に言ってしまえば様々なクラスの隊士が集まり、上級以上なら誰でも参加可能な自主参加型の一対一の勝ち抜きトーナメント式の対抗試合である。
参加者は用意されたステージに上がり、各々の技を用いて戦う。武器も魔法も何でも使用可能である。
決着は相手を場外に出すか、対戦相手に『参った』と降参させるか、気絶などの戦闘不能状態に陥るまで続く。
もちろん相手を殺したり、必要以上に痛めつける行為は失格である。その辺りは教官や僧侶、司祭の特級クラスの面子が審査員も兼ねて常に目を光らせているのでまず起こりえないが。
また、対戦相手の間であまりにも実力差がある場合には、教官の判断で対戦の途中で試合を打ち切り、強制的に決着させる事もある。
「……とまぁ、長くなっちまったが、大まかに言えばこんな感じだな。……って、聞いてんのかお前ら?」
あれから、戻ってきたイスタハ達に事情を説明し、話を聞いている内にゼカーノへの怒りが再燃したヤムと、闘士クラスの方角へ杖を構えて駆け出そうとしたプランの二人をイスタハと二人で何とか取り押さえ、ひとまず落ち着かせた。
「師匠に対してのあの無礼!万死に値します!師匠に代わって私があの無礼者を始末します!」
「……わ、私のハインさまに対して、あの痴れ者の狼藉……判決……死罪……うふふ……」
反応こそ両極端だが、このままこの二人を放っておくと、本当にゼカーノの元へ向かってしまいそうなため、どうにか二人を宥めつつ、イスタハの『その隊士混合試合ってのは何?』という質問に答えたところである。
「ねぇハイン、その混合試合に出る事で何かメリットがあるの?」
自分と同じ様に二人の様子を伺いながら、イスタハが聞いてくる。本当イスタハがいてくれて助かった。
「……うーん。金銭的なメリットだけで言うなら、はっきり言ってノーだな。そりゃ、参加して上位に残れば施設から報奨金は出るけど、それ目当てならクエストに参加した方がよっぽど旨味があるしな。ま、普段関わりが少ないクラスの戦術を知ることが出来るとか、教官や施設の連中の評価や覚えが良くなる、ってぇのは多少あるけどな」
事実、二十五年前の自分は混合試合の存在は知っていても参加した事は一度も無かった。
開催された試合を観客として見に行く事はあっても、クエストの方が色々と身入りが良いため、そちらばかりを優先していた。
「そっか。で、どうするのハイン?その……参加するの?混合試合」
イスタハの言葉に、ため息をつきながら答える。
「あー……まぁ、参加してみるかな。でないとまた色んな所でゼカーノや似た連中に絡まれるだろうからな。……それに、俺が直接相手しないとこいつらが何するか分かんねぇだろ」
そう言ってテーブルの向かいに座る二人を指差す。
「……師匠のお手を煩わせる必要はありません。私があの無礼者を叩きのめしてやります」
「……と、闘士クラスの宿舎はあちらですから……夜襲をかけて一部屋ずつ……しらみ潰しに……うふふ……」
多少クールダウンしているものの、発言が相変わらず不穏な二人を宥める。
「……落ち着けっての。そんな事しちまったら、お前らがあいつと同じレベルに落ちちまうだろうが。そんな事になったら懲罰もんだぞ」
そう言うが二人は中々納得しないようで、口々に言葉を続ける。
「ですが!師匠への侮蔑は私の侮蔑です!あの様な振る舞い、到底許せるものではありません!」
「ネイルス家……家訓……お仕えすると決めた方へ狼藉を働いた者は……全力で……排除……」
……駄目だ。このままでは二人を抑えきれない。ゼカーノがどうなろうと知った事ではないが、下手に人前で揉めて、二人の今後に何か支障をきたすような事態だけは何としても避けなければならない。
(……はぁ。やりたくなかったけど……この場を収めるには、仕方ねぇよな)
今は自分のプライドより、この場を収める事が優先だ。意を決し、両手でそれぞれの手を掴む。
「しっ…師匠?い、一体どうされました……?」
「はうっ……は、ハインさま……!」
驚きながらも掴まれた手を離さないヤムと、即座に掴まれた反対の手を重ねてくるプラン。
……ここだ。今だけ。今だけだ。今だけ自分は役者を演じ切るのだ。
「……なぁ。俺はさ、心配なんだよ。お前達の事がさ。俺のために怒ってくれるのは嬉しい。……けどな、それでお前らの立場が危うくなるのは……俺が辛いんだよ。二人に何かあったらと思うとさ。お前たちの気持ちは嬉しいけど、ここは一旦堪えてくれねぇか?」
二人とも掴まれた手を離すことなく、こちらの言葉に耳を傾けている。……よし、もう一押しだ。
「頼むよ。お前たちに何かあったらさ、一番辛いのは……俺なんだよ。な?二人とも分かってくれる……よな?」
そう言って握る手に再び力を込め、真っ直ぐ二人の顔を見つめる。
「し……師匠……そんなに見つめられてしまってはわ、私……わ、分かりました!分かりましたから……」
「うふふ……は、ハインさまのお手手……暖かい……しあわせ……」
どうにか二人とも、落ち着いてくれたようだ。
……自分としては内心、歯が浮くような、背筋が凍るような台詞を吐いたため、内心転げ回りたい気分ではあるのだが。
「……思ったより役者だね、ハイン」
分かってる。分かってるよイスタハ。……だから、ジト目で俺を見るのは止めてくれ。
……頼むからお願いします。
それぞれに両方の手を掴まれたまま、自分のこの選択が本当に正しかったのかを自問自答した。




