22話 ハイン、ハキンスについて追想する
「……で、話を戻すけど。もう一つ聞いて良いかな、ハイン」
二人がようやく落ち着いたのを確認して、改めてイスタハが会話を再開する。
「あ、あぁ。まだ何かあるか、イスタハ?」
自分から中々手を離そうとしない二人の手を何とか引き剥がし、ようやく落ち着いたところでイスタハが聞いてくる。
「あのさ、僕達は騒ぎの後に駆けつけたから今こうして話を聞いた訳だけど、どうにもハインの反応が、そのゼカーノって人よりも、ハインはさっきのハキンスさんって人を気にしている様に見えたんだけど……」
「そ、そうですね……あの痴れ者よりも、ハインさまは終始あの方を意識しておられるようでした……」
イスタハの言葉にプランも同意する。
「……あぁ、お前達からしてみたらそうだよな。や、実際そうなんだよ。俺からしたらあの時、ゼカーノの事を考えるより、目の前のあいつ……ハキンスの方に意識が向いていたのさ」
自分のその言葉に、すかさずヤムが聞いてくる。
「あの御仁が……ですか?確かに、他の者は違う雰囲気を纏ってはいましたが……」
あの後、自分達に改めてゼカーノの非を詫び、すぐに店を後にしたハキンスの顔を思い出そうとしているであろうヤムが言う。
「確か、ヤムとイスタハには前に話した事があったよな?ソロで特級まで昇り詰めた隊士がいたって。……あれがあいつ、ハキンスの事だよ」
自分の言葉に、二人が驚きの表情を浮かべる。その横で事情を知らないプランだけが一人きょとんとしている。
「なんと……あの方が以前師匠の言っていた方だったのですか。どうりで、あの無礼者が大人しく引き下がった訳ですね」
「僕とプランはほんの少し見ただけだけど……そっか、あの人が前にハインの言っていた凄い人だったんだね」
……そう。闘士クラス特級、ハキンス=ビーグ。
当時の自分では雲の上……とまではいかないが、それでも遥か高みにいる存在であったのは確かである。
自分が晴れて特級に上がる頃、ハキンスは当然の如く闘士特級クラスを首席で卒業し、冒険者として旅立っていった。
事実、過去に隊士として過ごした期間で、こうしてハキンスと面と向かって会話を交わした事など当時は一度もなかった。
……この時点で、過去とは違う出来事が起きているという訳だ。
「あぁ……本当に……凄い奴だよ」
ハキンスが施設から旅立ち、魔王を倒すべく冒険者として旅立った中、多くの仲間達の訃報の知らせが届く中、ハキンスの話はどれも吉報を知らせるものばかりであった。
廃村となった村に巣食う厄介な人喰い魔獣の群れの討伐。魔龍の群れの巣の殲滅、魔王の側近の一人の撃破など……。
その華々しい活躍に、自分だけではなく施設出身の皆は憧れや羨望の眼差しを抱いていた。自分もいずれ、勇者として同じように国を救うのだと思っていた。
……ある知らせが届くまでは。
自分も首席とまでは行かずとも、晴れて勇者として旅立ち、修練を積みながらも着実に成果を上げ、多少なりとも少しは自分の名前が知られてきた頃であった。
「おい。聞いたかハイン?例の魔剣の奪還に、ハキンスが成功したらしいぜ」
当時パーティーを組んでいた、施設出身の仲間の一人が言う。
聞けば、あまりに強大な力を持つため、とある施設で厳重に封印されていた魔剣が魔王の一味に襲われ奪われていた魔剣を、ハキンスがその一味の居場所を探し当て、その魔剣を奪い返すことに成功したとの事だった。
「……へぇ。やっぱりすげぇな。こりゃ、あの人に追い付くどころかますます差が開いちまうな。あの強さで魔剣まで手に入れたら、まさしく鬼に金棒、って奴だな」
……だが、その後自分達に届いた報告は耳を疑うものであった。
ハキンスが、別の冒険者を魔物ごと斬殺したとの知らせが届いたのだ。
その後も自分達の元へは衝撃の知らせが次々と届いた。
魔獣の群れに襲われた村を、村人ごと滅ぼした。
偶然遭遇した冒険者一同を、いきなり斬り伏せた。
魔王軍の幹部に善戦した剣士の一人の元に突如現れ、その剣士の首を跳ね飛ばした。
……耳を疑う様な知らせが次々と自分を含めた冒険者達の元に届き、遂にある一報が自分を含めたある程度の成果を挙げている者達に告げられた。
――『各冒険者達に告ぐ。ハキンス=ビーグを始末せよ』――
手にした魔剣の誘惑に負け、己の強さを追い求めるあまり、狂戦士と化してしまったハキンスの抹殺指令であった。
自分を含む数々の冒険者達がその勅命を受け、それに挑んだ面子がことごとく返り討ちに合う中、遂にその司令は果たされた。
「……どうして……こんな事になっちまったんだろうな……」
魔剣によって、顔に消えない傷を受けながらもその魔剣を叩き折り、もはや自我を持たないハキンスにそのまま止めを刺したのは、他ならぬ自分自身であった。
過去に戻ったことで今は消えている、かつてハキンスに付けられた顔の傷があった場所に手を触れ、ぽつりと小さくつぶやく様に言った。
「……今度こそ、何とかしねぇとな。せっかく、こんな機会に恵まれたんだしな」
自分の言葉を、おそらくゼカーノに対してだと思っているであろう三人を前に、自分は一人心の中で決意を固めていた。




