153話 ハイン、改めてテートの才に気付く
「……マジかよ。今までの流れが全部お前にとっちゃ準備運動だっていうのかよ」
テートの言葉に思わずげんなりする。正直言ってクラス内での集中鍛錬の方がまだ余裕があるぐらいの運動量だったにも関わらず、平然とそう言い放つテートを見てこいつの体力の底はどこにあるのだと思わずにはいられなかった。
「うむ。お前が気負っているのが見て取れたからな。まずは体力を削いで余分な力を抜いて取り組んで欲しかったからな」
その割には楽しそうにしていたよなお前、という言葉が喉元まで出かかったがどうにか堪える。今はこれ以上時間を無駄にしたくなかった。
「分かったよ。ここまで来たらとことんお前の練習に付き合って……いや、食らい付いてやるさ」
そう言うとテートがまた満足げに笑みを浮かべて口を開く。
「うむ!やはりお前は俺の期待通りの逸材だなハイン!では、早速本腰を入れて取り組もうではないか。よし、まずは手合わせの前に武器に魔力を込めてみろ!」
熱血漢全開と言わんばかりの勢いでテートが言う。……上等だ。今の自分がどれだけ成長したのかを見せてやる。そう思いながら全力で剣を握り魔力を込めて叫ぶ。
「雷よ!剣に宿れっ!」
そう叫んだと同時、手にした剣に雷の魔力が纏った感覚が伝わる。が、そんな自分を見てテートが淡々とした口調で言う。
「ふむ、この時点でまず一つ改善点が分かったな。ハイン、お前はまだ魔力を上手く武器に込められていないな」
テートにいきなりそう言われ、武器を構えたまま思わず言い返す。
「……は?見てみろよ。どう見てもしっかり剣にこうして魔力が伝わって……」
言い終わるよりも早く、テートが横に立ち自分の手首を掴みながら剣の切っ先を指差して口を開く。
「言い方が悪かったか。込められていないというより込めきれていないといった感じか。よく見てみろハイン。ほら、刃先の部分までしっかりと魔力が届いていない。それに手の平から魔力が無駄に溢れているじゃないか。この時点で少なくとも二割、いや三割は威力を落としているな」
テートにそう言われ、改めて自分の手や剣を見つめる。……確かに僅かではあるが剣に込めた魔力にムラがあるように見えるし、剣に込めているはずの魔力が手から漏れているように思えた。
(……マジかよ。たしかに言われて見ればそうだが、これくらいなら誤差の範囲じゃねぇのか?訓練や講義で指摘された事はないんだがな)
事実、魔力を武器や道具に込める作業についてはどちらかといえば得意分野であると思っていた。当時も今も含め、様々な属性の魔力を素早く込める事も他の面子よりも上手く出来ているという自負があった。
「うむ。本来なら何度も修練して身に付け体得する流れなのだが、お前自身の魔力の許容量が高いのに加え、手先が器用な故にどうにかなっていたといったところか。凡人ならば逆にこの手順ではここまでの魔力は込められないからな」
そう言ってテートが自らの剣を鞘からすらりと抜く。長身の剣の刀身がきらりと光る。
「論より証拠だ。普段俺はお前のように言霊を乗せて魔力を込めるのではなく、気合いで込めているのだがここはお前に倣う方が分かりやすいだろう」
そう言ってテートが剣を両手で構え、かっと目を見開き叫ぶ。
「雷よ!剣に宿れっ!」
叫ぶと同時に、テートの長剣へ瞬時に雷の魔力が伝わるのが分かった。
「どうだハイン?お前の込めた魔力と俺の込めた魔力。よく見比べてみれば違いが分かるだろう?」
テートにそう言われ、自分の剣とテートの剣をまじまじと見つめる。論より証拠という言葉がこれほど適切な事もないなと思いながら口を開く。
「……あぁ。こうして見たら一目瞭然だよ。どれだけ今まで自分が手癖に頼っていたかを、な」
自分の魔力とテートの魔力の許容量に大きな差はない。いや、昔はさておき今の自分なら単純な魔力や魔法に関しては上回っているとすら思える。だが、武器に込められた魔力の質を比べてみればその差は歴然であった。
(見ただけで分かる。……テートの方は手から込められた魔力が柄から剣の切っ先まで乱れる事なく一定の流れで無駄なく魔力が流れている。逆に俺の方はところどころに魔力の量が乱れているし、そのせいで込めきれなかった魔力が無駄になっちまっている)
魔力を込める手順やコツを中途半端に掴んだ事により、細かな流れや端から端まで伝わるイメージをおろそかにしても充分な魔力が込められているが故にこうなっているのだろうと違いを目の当たりにして実感した。
(……理屈じゃ分かるが、講師も他の連中も誰一人気付かなかった事に瞬時に気付くとか、やっぱりこいつもずば抜けた才能だな)
当時も今も誰も気付かなかったという事は、今に至るまでそれでもどうにかなっていたからだ。それこそ一度は魔王を倒すまで。だが、テートはたった一度目の前で見ただけでその無駄に気付いたのだ。
「……ったく、まだまだ超えるべき壁は山ほどあるって訳か。参ったな」
思わず声に出してつぶやく。そんな自分の思いを知ってか知らずかテートが剣を構える。
「うむ。まずはそこに気付いたところで最初の一歩だろう。ここからは稽古を通して実戦で学んで行こうではないか。さ、時間が惜しい。剣を構えろハイン」
そう言ってテートが自分に向かって剣を突き出した。




