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死に戻った最強勇者は、すべてを守り切る  作者: 柚鼓ユズ


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150話 ハイン、利により皆を説き伏せる

「……『真紅龍』の討伐……僕たちの中で誰もまだ体験していないクエストだよね、ハイン」


 正確には『今』の自分たちではあるのだが、ここでそれを言う必要もないため頷きながら口を開く。そのため、あくまで自分がかつて体験した事ではなく、さも伝え聞いたように皆に説明する必要がある。


「そうだ。紅い宝石のルビーに例えられるその名の通り、全身に真紅の色を帯びたドラゴンだ。……俺が事前に調べた資料をまとめておいた。目を通しながら話を聞いてくれ」


 そう言って目の前に三人分の資料の束を広げた。資料を手に取った三人がその内容を食い入るように見つめる。しばし無言で資料を読み進めた後に、最初に口を開いたのはヤムだった。


「し、師匠……私たちも師匠と出会ってからかなりの鍛錬と経験を積んだとは思います。ですが、この資料を読む限りそれでもこのレベルのクエストに挑むのはまだ無謀なのではないでしょうか……」


 おずおずとこちらの様子を伺うように言うヤムの方を向いて言葉を返す。


「あぁ。確かにはたから見ればそうかもしれねぇ。少なくとも今のままなら、な」


 そう言って更に言葉を続ける。


「だが、こいつから手に入る素材は確実に俺だけじゃなくお前たちの将来にプラスになる。流石にたった一度の討伐で全員の求める素材が運良く集まるとは思えないが、こいつの素材で作った武器や防具があれば少なくとも施設にいる間どころか冒険者として旅に出てからもしばらくの間は強化の必要はないだろうってくらいには優秀だ。現に外の世界でもこいつの素材を求めてリスクを承知でパーティーが組まれるくらいには重宝されている」


 そこで一旦言葉を切り、イスタハとプランの方に向かって言う。


「例えばイスタハ。こいつの素材で魔術具を作ればお前の炎の魔法の威力は相当に増幅される。おそらく、あくまで現時点でのレベルでの話だが本来得意な系統を上回るくらいにな」


 その言葉に驚いた様子のイスタハを横目に、今度はプランに向けて語りかける。


「プランの場合は打撃も使えるから一概には言えないが、本来の僧侶としてのポジションなら使い道はやはり防具か装飾品だな。用途が違うから大まかにだが具体的に説明するぜ」


 プランがこくこくと頷くのを確認し、話をそのまま続ける。


「うん、じゃあまずは防具……例えばローブとかに加工すれば、外気の熱をほぼ完全に遮断出来るから火山や溶岩帯での戦闘時に平地のように動き回れるうえ、並の炎なら完全に無効化出来る。装飾品にした場合、それを身に付けた状態で耐火や耐熱魔法を使えば並大抵の炎や熱は防げるだろうな」


 自分がそこまで言うと、ヤムが自分に声をかけてくる。


「し、師匠。私ならばどう使うのが有用でしょうか。やはり武器でしょうか?それとも防具に使うのが良いのでしょうか」


 先の二人への話を聞いて興味が湧いたのだろう。先程の不安そうな表情からいつもの指導を求めるヤムの表情に戻っている。


「……そうだな。この中ならある意味一番応用が効くというか悩みがいがあるのがヤムだろうな。素材を防具の加工に使えば物理はもちろん炎に対しての防御力は単純かつ飛躍的に上がるだろうな。そうすれば他の属性は回避するか剣で対処するって形になるな」


 話を進めていくたびにヤムがこちらに身を乗り出してくる。興味を持ってもらう事に越したことはないため更に続ける。


「逆に、攻撃特化にするなら俺のように武器への加工一択だな。防御面に関しては他の素材で今後考えるとして、素材や加工次第ではお前も『風』以外の属性である『炎』を使って戦えるようになるからな……って、近い近い!少し離れろ!」


 自分の風以外の……というくだり辺りからヤムの姿勢が前のめりになり、ぐいぐいと自分に詰め寄る形になり、テーブル越しだというのに顔がくっつきそうなほどにヤムが迫ってくる。自分に顔を手で押し除けられながらもヤムが口を開く。


「続きを早くお願いします師匠!つまり、それは師匠のように私にも剣を炎に宿らせ戦う事が可能という事でしょうか!」


 なおも手を押し返さんという勢いで近づこうとするのは無意識なのか意図的なのかはさておき、ヤムの目は期待に満ちあふれている。『風』に属性を絞りその一点のみを鍛えていたヤムにとってこの知らせは天啓に聞こえたのだろう。


「……あぁ。そもそも俺たちが戦いの際にその都度剣に魔法を込めるのは、相手によって属性の使い分けるっていう意味がある。持続時間が限られている代わりに何度も違う属性を込め直す事が出来る。ここまでは分かるよな?」


 自分の言葉にヤムが頷くと同時に続ける。


「逆に、魔力を最初に永続的に込めて加工する事で価値や威力を上げてそいつを使ったり売買する事だってある。二級品の宝石や装飾品とかにな。要するに武器にも永続的に魔力を込めりゃその属性の専用武器として使える訳さ。その代わり、今後他の属性の魔力は込められなくなるけどな」


 元々、魔法が全く使えない剣士や闘士たちのために何らかの属性を込めたいわゆる『属性武器』という物は昔から存在している。

 自分は相手によって属性を使い分けて戦うスタイルなので最初から決まった属性の武器をほとんど使わないため、ヤムにそういった説明を詳しく出来ていなかった事を改めて実感する。それだけヤムの資質が優秀だったというのもあるのだが。


(……加えて、俺たちの装備がほぼ最初からタースのところで仕立てて貰っているのも逆に不味かったな。下手な鍛冶屋じゃ考えられない強度と仕上がりが災いして他の武具屋や鍛冶屋に行く事なんてほとんどなかったからな)


 タースの店にもそれらの類の物が置いていない訳ではないが、自分たちを始め常連がほとんどのタースの店ではわざわざ新しい武器を一から作るよりタースが最初から作ってくれた物を徐々に強化していくだけで事足りていたからである。


「つまり……真紅龍の素材で剣を鍛えれば永続的な炎属性を私も扱えると?」


 ようやく距離を詰める事を止めたヤムが口を開く。その目はきらきらを通り越してギラギラと輝いている。その眼力に思わず後ずさる。


「あ、あぁ。そもそもお前は魔法が全く使えないって訳じゃねぇし、あらかじめ強力な炎の魔力を永続的に誰かに込めて貰えばそのままでも使えるし、発動時のトリガー的なところだけお前自身で炎の魔力を発動させれば……」


 そこまで言ったところでヤムが机をばん!と叩き、イスタハとプランの方に振り返って告げる。


「行きましょう、イスタハ、プラン。これは私……いえ、私たちが将来師匠と共に旅に出る前に手にしておくべき物です。師匠が施設で側にいてくれるこの期間で、我々は少しでも早く多くの経験と素材を得るべきです」


 完全にこちら側に付くような発言をするヤムに対し、やれやれと言った感じでイスタハが言う。


「はぁ……確かに魅力的だけど危険なのには変わらないから慎重に考えようと思ってたのに……見なよハイン。このままだとヤム、今すぐクエストに行くって言っても従う勢いだよ。流石にそれは止めさせて貰うけど」


 イスタハの言葉にプランも続く。


「わ、私もヤムさまと同じく、自分の強化に繋がる事に関しては貪欲に求めたいとは思います。ですので、行く事自体は賛成です。で、ですがその前にしっかりと事前に準備は整えるべきかと……」


 二人ともヤム程ではないにしろ、やはり自身の得意不得意の分野を伸ばす、あるいは補うものとなる話にはやはり惹かれるものがあったようだ。


(充分だ。ここは三人が前向きに考えてくれるだけで良い。イスタハたちの言う通り、現状で真紅龍に向かったところで返り討ちにあう可能性が高い)


 内心でそう思い、自分や三人の実力を冷静に分析して考える。


(現状だと無事に討伐、素材を持ち帰れる確率は俺一人で成功率七割、四人だと二割……よくて三割ってところか)


 全員が無傷とはいかずとも、命に関わるような事態に陥るような事にならずにクエストを達成させなければならない。稀少な素材のためとはいえ、命を落としたり取り返しのつかない怪我をしては何にもならないのだ。


(まずはこの成功率を底上げしなきゃならねぇ。俺一人なら九割、四人でも五……いや六割ぐらいには。仮に撤退の判断をするとしても、全員が無事に戻ってこられるくらいにならなきゃいけない)


 そこまで考えたところで顔を上げ、三人に向かって声をかける。


「決まりだな。だが、皆の言う通り現時点じゃ危険を通り越して無謀だ。だから一カ月。一カ月かけて支度を整えよう。真紅龍の行動パターンや注意点を俺の分かる範囲で全て叩き込む。それに加えて全員が今の時点で考えられる最上の装備を整える必要がある。具体的には……」


 そう話を切り出し、四人でテーブルを囲んで真紅龍討伐に向けての作戦会議を始めた。


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