151話 ハイン、とある決意をする
「……それじゃあハイン、僕たちはまた周回に行ってくるよ。まだ三人とも素材が全然足りてないからね」
やや疲れた様子でイスタハが言う。後ろにいるヤムもプランも似たような感じである。
「あぁ。大変だろうが頑張ってくれよ。ここで最低限の装備を整えておかないとそもそも討伐どころか命に関わるからな。皆、それぞれのクラスでの任務や課題との間で大変だと思うがもう少しの辛抱だ」
真紅龍討伐に向けて特性や行動パターンを叩き込むと同時に、三人に命じたのは対真紅龍に向けての装備や装飾品を揃える事だった。
「率直に言う。今のお前らの装備じゃ良くて二発、下手すりゃ一発で致命傷だ。行動パターンを把握したところで所詮机上の空論。実戦じゃ何が起こるか分からねぇ。肝心なのは万一攻撃を喰らったとしてもそれを即座にリカバリーする事だ」
格下を相手にするのであればともかく、相手は今の自分たちにとっては格上だ。そのため自分たちの戦力を底上げするのが目下の目標であった。
(ヤムとイスタハは攻撃を耐えるための耐火の防具。プランは耐火を中心とした防御と耐性を増幅出来る魔術具を用意。これはまず最低限。加えてそれぞれに雷の効果を底上げする必要がある)
真紅龍の厄介なところは強力な炎を使いこなすくせに弱点の属性が『雷』というところである。通常の龍は氷や水を弱点とするのに対し、真紅龍は雷以外の属性をほとんど通さないのだ。
「斬撃や打撃が通らない訳じゃないのがまだ救いだけどな。属性攻撃は麻痺や毒も含めて雷以外は効かないと思ってくれて構わない」
そう自分が言った時に真っ先に口を開いたのはヤムだった。
「……では、雷の魔法を放てるイスタハ、耐火の魔法や雷の属性強化を唱えられるプランはともかく、一番足手まといになるのは私になるでしょうか……」
俯きながらそう言うヤムに、そんな事はないと声をかける。
「いや。ある意味お前が一番重要なポジションになるぞヤム。雷の属性に不慣れなイスタハが詠唱に集中出来るようにサポートする必要があるし、プランには耐性や属性強化を常時途切れず唱えて貰う事になる。万が一の時には回復魔法も唱えて貰う事になるしいつものように攻撃にも参加するのは難しいだろう。当然、俺も出来る時は二人をサポートしながら戦うがどうしても俺は攻撃寄りになる。実質守りの要はお前だ。頼りにしているからな」
そうヤムに告げると、先程とは打って変わってヤムがテンション高く口を開く。
「……お任せください師匠!不肖ヤム=シャクシー、師匠の期待に必ず応えてみせますのでっ!」
そう言って鼻息荒くヤムがぐっと自分の拳を握る。とにかく、やる気が出たのは良い事だ。
そういった事情も含め、三人にはかなり強行軍になるが火耐性の装備を揃えるべく皆で奮闘して貰っている次第である。イスタハたちと別れ、一人になったところでつぶやく。
「……さてと。あいつらも頑張っている事だし俺も気合いをいれなくちゃな」
三人に無茶とも言える要求を課している手前、自分もそれに見合う働きと結果を出さなければいけない。そのためには自分もより高みを目指す必要があった。
(真紅龍の弱点属性は雷だ。俺の得意属性は炎。相性としては最悪と言っていい。それをどうにか解決する必要がある)
ヤムのように才能が一点突破している者ならば、無理に苦手な属性を身に付けるよりも得意な属性を極めて伸ばす方が良い。だが、自分のようなタイプは相手に応じて属性を臨機応変に変えて戦うスタイルの方が性に合っている。
「……とはいえ、短時間で一人属性を伸ばそうとしたところで限界がある。となれば、残された方法はおのずと限られる。……やるしかねぇな」
そう意を決し、とある部屋の扉を叩く。
「どうぞ。開いているよ」
その言葉を聞き部屋の中へと入る。奥へ進むと同時に声をかけられる。
「おぉ!誰かと思えばハインではないか!お前がわざわざ俺を訪ねてくるとは珍しいな!どのような用件かは知らんが聞こうじゃないか!」
部屋の中でも修行に励んでいたのであろう。重そうな器具を両手で抱えながらテートが大声でそう言った。
「……なるほど。次に向かうクエストのために『雷』の属性を鍛えるべく俺の元へと来たという訳か。より高みを目指そうとするその姿勢、感心するぞハイン!」
会話を聞きながらもトレーニングの手を止めないテート。おそらく先程から抱えている器具は相当の重量だろう。自分がテートと同じように持ち上げていたらこのような世間話をしていたらすぐに息が上がってしまうだろう。
(……こいつの無尽蔵にも思える体力と、あの長剣をまるでショートソードのように自在に振り回す筋力はこういった陰での修行や努力による賜物って訳だ。やっぱり勇者クラスの中でもこいつの存在は頭一つ飛びぬけているな)
そう思っていると規定の回数か時間を終えたのか、テートがようやく手にしていた修行のための器具を地面に降ろす。気をつけてゆっくり置いたのであろうが、それでもかなりの重さである事が床のきしみで分かる。テートが顔を上げるのを待って声をかける。
「あぁ。俺たちの次の目的を果たすためには『雷』の属性をもっと使いこなす必要がある。そのためには雷のエキスパートであるお前の協力が必要だ。……頼めるか?」
そう自分が告げた瞬間、テートがこちらに駆け寄り自分の手をがっしり握り締めながら叫ぶ。
「水臭い事を言うなハイン!俺とお前の仲だろう!俺に出来る事なら喜んで協力しようではないか!善は急げだ!さっそく二人で修行といこうではないか!」
そうテートが話している間も力強く握られた自分の手にはぎりぎりと力が込められていく。
「痛い痛い痛い!骨が砕けるっての!協力してくれるのは分かったし感謝するからひとまずこの手を離せっ!」
かくして、自分はテートの元で共に修行をする事となった。




