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30.ままならない事ばかり

宜しくお願いいたします

 夕方に作業を終わらせて、教会内に天窓から入ろうとしてロアはぎくりと足を止めた。


 そこに普段は祭壇の上方に漂っている方がいた。


「どうかしました?」


 ユアンが背後から尋ねるのに、短くいいえと首を横に振りその方に触れないよう、開けた窓に縋るようにして中に入る。

 通路と窓の段差が大きいのであまり不自然に映っていないと良いと思いながら、中に入る。


 ユアンとキリシェは全く気にせずにその方をすり抜けて、中に入って来た。

 キリシェの背後に憑くようにその方も移動する。

 何とも言えない光景に人知れずロアは口元を歪めた。


 ユアンが確認の為に担当者を呼んで来ると、ここで待っているように言い置いて下へと梯子を下りて行った。


「ロアさん、ロアさんの親ってどんな人だった?」


 夕陽が窓から入って来るが全て下に落ちて行き、斜め向こうの窓から入ったものだけが通路の手すりに反射をして僅かに周囲を照らす薄暗い中、上半身を完全に影に隠したキリシェがふいに呟くように問いかけて来た。


 ロアは一瞬、どう誤魔化そうか考えて直ぐに苦笑を零した。誤魔化すほどの事も知らないと思い出して。


「知らないです」

「え?」

「私は生まれてすぐに祖母に渡されて、そこから一度も親は訪ねて来ていませんから」

「じゃあ、会った事も?」

「はい。声も聞いた事もありません」


 キリシェが息を呑んだように呼吸音すら殺して、沈黙が落ちる。


「ああ、そう言えば外見の特徴すら聞いた事が無いです」

「……気にはならなかったのか?」

「どうでしょう? かつて祖母に訊いた事もあるのでしょうが、滅多に彼女は私と話してくれなかったので」


 ローブを深く被り前を見るロアは、そっと視線を足元に落とした。

 

「その、そのおばあさんは?」

「亡くなりました」

「……他に、家族は?」

「いません。もしくはいたとしても会った事も無いので知らないです。両親すら生きているか死んでいるか知らないので」


 平坦な声が暗がりに響く。そのあまりに平坦な声がキリシェにどう届いたのか。

 急にゴツリと額を叩いた。


「すまん。いらねぇ勘繰りをした」

「えっと?」

「ロアさん、なんでさっき俺に両親の事聞いた?」


 ロアはチラリとキリシェの隣を漂う姿に視線を送り、それから視線を伏せる。


「特に理由は。見下ろした街に小さい頃からあなたが過ごしていたのだな、と思いまして。あと、あまりに器用に使いこなしていたので元の方も同じように使っていたのかと思ったら、思わず」


 キリシェが窓ふきに関節部分を組み替え伸ばたり、本来溜めた魔力をカートリッジにして溜め魔法を放つ射出口から、ロアに頼んで水の魔法を噴射して洗ったりと便利に使っていたのを思い出すような口調で、魔機部分を見下ろして言った。

 そして視線を上げれば、ロアを見るキリシェの顔は少し悲しそうに見えた。


「すみません、何か不快な質問だったんですね」


 続いて僅かに頭を下げて謝るロアに、キリシェは慌てたように首を横に振り気まずそうに視線を周囲へ巡らせた。


「いや、ちげぇ。その、街で俺の噂とか」

「噂? ……頼りになる高ランク冒険者、という評価ですか?」

「ちげぇ。そうか」


 キリシェは少し間を開けてもう一つ、そうかと呟いて沈黙した。

 見下ろす先には義手の手の平。ソコに何を見ていたのか、やがて拳を握る。


「あのロアさ」

「お待たせしました」


 ソコにヒョコリとユアンが梯子を上がって声を掛けて来た。


「いいえ。お使いありがとうございます」


 軽い動きで上がって来たユアンの頭を撫でて褒めれば、ユアンが僅かに頬を緩くして目を細める。微笑みとまではいかないが、僅かにゆるむ雰囲気が彼が不快に思っていないことを告げる。

 それにふわりとロアも視線を合わせ微笑んだ。


 かつてかなりの数を育てた存在達も、こうして頭を撫でる仕草をすれば嬉しそうな反応をしてくれた、とふと思い出すのは、先ほどキリシェとした会話のせいだろうか。

 もっとも会話を交わす事も、実際に触れる事も出来はしない存在達が大半で触れられても温かさ等殆ど無い者たちが大半だったし、意思の疎通も出来ているのかいないのか怪しかったが。

 それでもロアを食い殺さなかったし、時間をかければ甘えたり言う事を聞いたりしてくれるようになった。祖母に連なるモノたちなので、恐らくあの迷宮が消えるとともに皆消えただろうが。


 ポンと手の甲で頬を軽く叩くようにあやして、少しだけ早く視線と共に手を引くけば、名残惜しいようにユアンの目がソレを追うのにまた微笑む。誰かと会話をするのは未だに苦手だが、こうして僅かの反応を見分けるのは少しだけ得意な気がした。


 そうしている内に後から昇って来た職員が、確認しますね、と声をかけて内側の狭い通路を歩いて内側から窓を見ていく。

 ぐるっと一周して笑顔で三人に話しかけてきた。


「とても丁寧なお仕事ありがとうございます。いつもはもっと雑な仕事なので驚きました。少しだけ報酬足して報告しておきますね」


 そう言って、依頼書にサインをしてくれた。


「このままお帰りですか? 宜しければ夕方の法事がありますから参加されては?」

「そういえばコチラの神の経典を知りませんね」

「是非」


 にこやかに勧められて、どうするかと三人で視線を交わし、最終的に他二人の視線がロアに止まる。

 ロアは僅かに首を傾げ二人を見てから、一つ頷いた。


「私だけが参加しますので、お二人は先に報告をして帰って大丈夫ですよ。興味あるのは私だけですから」

「いや、ロアさんが参加するなら俺も残るよ」


 即座に言い返したキリシェにユアンも同意を乗せた。


「ですが、帰るの遅くなっちゃいますよ?」

「構いません」


 今度はユアンがきっぱりと言い、譲らないと強い視線でロアを見つめて来る。


「では、皆で参列しますか」


 ロアがそう微笑めば、二人は強く頷いた。


 その様子に職員は嬉しそうに何度も頷いて、準備があると先に梯子を下りていく。


 ゆっくりとそれぞれ降りた三人は、教会の祭壇前に並べられた椅子の後ろの方に座る。この神をまつる教徒では無いからと。

 しかしこの街で唯一祀られている割に、教会職員以外での参列は少ない。


「この街ではあまり熱心に祈る方は少ないのですか?」

「あーそうだな。というより身体の一部に魔機を持っていればそれが信仰になるって教えだから、わざわざ教会に来て祈る奴は少ねぇな」

「そうなんですね」


 中々に興味深いものぐさな教義だ。とロアは内心で呟きながら頷いた。

 しかし信仰心が無ければ、こうしてココに居る存在が留まっている訳も無いのだから、確かにそれなりの信仰は集められているのだろう。

 むしろ冬季には家に籠る種族が多い地域なだけに、そういった教義の神が信仰を集めたのかも知れない。


 ただ一所に集って祈る、というのは別に信仰のあらわれとかでは無く、一つの効率的な機構なのだが、これでは機能しないだろう。

 実際、この街を支えていくほどの力は集められていないように見受けられる。


 ちらりと祭司が立つ祭壇の方では無く、キリシェの周囲に留まる存在へと視線を投げる。

 全く興味ないと僅かに集まる力すらかなりの量を取りこぼして、周囲に溶かしている様子に眉をしかめる。


 話したいが話す意思も無いようだ。


 もしキリシェがこの街を出て拠点を移せば、この分け身さえも移してしまいそうな雰囲気だ。


(どうしましょうか)


 抱えたい頭を正面へ向け、祈る相手のいない場所に祈りをささげる虚しい儀式を見守る。その教義の説法すらもむなしく聞こえてしまいそうだ。それ自体は意味のある事なのに。


 機械仕掛けの姿をした存在は、瞳さえもブリキ色に鈍く光らせて、感情の見えない硬質な顔でキリシェの魔機を、彼女が教会を後にするまでずっと見守っていた。

ありがとうございました。

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