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やる時はやります! だって主人公だもの!

 雷光一閃、放たれた雷の上位魔法にサムソンが驚愕の声をあげる。


「な、何で魔力無しのお前が魔法を、しかも上位魔法まで使える!? 大体今の魔法陣は一体どこに描いた!?」


 自身の顔の真横の位置に落とされた雷に、レッドドラゴンは一瞬だけ俺へチラリと視線を寄越したが、またすぐにサムソンを追いかける体勢になる。

 俺はまた風魔法を駆使してサムソンへ追いつくと、問いつめるように責めたてた。


「だから言っただろ? 早くそのレッドアイをレッドドラゴンに返せって! 奴の狙いはそのレッドアイで、それさえ返せば退散してくれるんだって!」

「う、煩い! 煩い! 煩い!!!」


 自分達の会話を聞いていた周囲が非難するようにサムソンを見るが、奴はそれを無視して走る足をとめない。

 ちなみにサムソンと話す直前に、俺は補助魔法の助けを呼ぶ魔法陣『拡声』を王都中に展開させていたので、自分達の会話は王都中に響き渡っている。

 

 逃げることに夢中で『拡声』に気づいていないサムソンへ、途中何度かレッドドラゴンの鈎爪と尾の攻撃が繰り出されるが、その度に狭い路地に逃げこんだり建物を盾にしたりして逃げ回り、住民の被害と恨みを拡大させていった。

 こうして他人を犠牲に逃げ回り、何とか前方に王城の門が見えてくると、サムソンは喜々をして声を張り上げる。


「国王に謁見を! 約束通りレッドアイをお持ちしました!」

「陛下はそのような約束をした覚えはないそうだ。さっさとそれをレッドドラゴンへ返すがいい!」


 待ち構えていた王城兵が放った冷徹な言葉に、サムソンは目を見開く。

『拡声』により俺達の会話が筒抜けだった国王は、どうやらサムソンを切り捨てるらしい。

 あのフィアの父親とは思えない、何とも権力者らしい判断である。


「それと王都にレッドドラゴンを呼び込んだ罰として、お前の家には今回の被害の賠償をさせるそうだ!」

「な!?」


 サムソンが俺の忠告を無視して逃げ回ったおかげで、今回の被害は甚大だ。到底子爵家で払いきれる額ではないだろうが、既に死亡届が受理されて子爵家に籍がない俺には関係ない。

 しかしサムソンにとっては泣きっ面にハチ、弱り目に祟り目だったらしく、王城兵の言葉にあんぐりと口を開けた。


 そこへ追いついて来たレッドドラゴンが、巨大で鋭利な爪を振り下ろす。

 打ちのめされていてもそこはB級冒険者、それを間一髪躱したサムソンは逃げながらも必死の形相で「国王へお目通りを!」と繰り返している。

 サムソンが王城にへばりついているため、レッドドラゴンの攻撃は自然と王城へ向けられた。


 レッドドラゴンの攻撃に城壁に穴があき、城郭の端にある塔がガラガラと音をたてて崩れてゆく。

 王都が破壊されても民が傷ついても沈黙を守っていた国王だったが、自身の城を破壊されるのは我慢できなかったらしい。

 塔が崩れると同時に王城の門が開かれると、騎士団と魔法師団がレッドドラゴンへ突撃していった。


 魔法師団から複数の魔法を受けたレッドドラゴンが、雄叫びをあげる。

 固い鱗が盾となり中位魔法は効いていないようだが、上位魔法が当たった所は薄らと血が滲んでいる。騎士団の放つ、魔物に有効な聖なる加護を受けた特別制の槍も確実に身体を傷つけているが、それでもレッドドラゴンは追いかけるのをやめない。

 自身へ攻撃をしてくる騎士団も魔法師団へも見向きもせずに、ただレッドアイを持つサムソンをめがけて。


 俺はその姿に胸を打たれた。


 俺の今世の親はろくでもなかったけど、前世の親は人並みに可愛がってくれた記憶が残っている。

 今世の両親からの愛情を受けなくても平気でいられたのは、本当の両親の愛情というものを知っていたからだろう。

 前世で自分が何で死んだのか全く思い出せないけど、きっと両親は悲しんだだろうなと思うと、居た堪れない気持ちが湧き上がってくる。


 訴えを諦めたのか王城から離れて瓦礫の隙間に隠れようとしたサムソンめがけて、俺は下位をさらに弱めた風と土の魔法を放った。

 盛り上がった土と背を押す風に足が縺れてすっ転んだサムソンから、レッドアイの入った袋を奪い取ると、木の上位魔法陣を描き生えてきた枝を掴む。

 俺の放った木の魔法はするすると幹を伸ばし枝を大きくしならせながら、レッドドラゴンの方向へ向けて伸びていった。

 途中で何度か魔法師団からドラゴンへ向けた強烈な上位魔法の余波を食らったが、全て防御の上位魔法三重掛けで防ぐと、レッドドラゴンの顔の真ん前に辿りつく。

 その赤い瞳を見据えながら、茂った葉の上で膝を折った。


「ごめんな。大切な宝物だもんな」


 献上するように両手でレッドドラゴンへ向けてレッドアイを差し出すと、一瞬戸惑うような仕草をしたが、俺の手に顔を近づけるとレッドアイを大切そうに咥え、飛翔しようと羽を羽ばたかせる。


「グギャガガガァァァ!!!」


 安堵したのも束の間、レッドドラゴンの絶叫が辺りに響き渡った。

 驚いて振り返ると、そこには魔力を帯びた聖槍を次々にドラゴンへ投げつける騎士団の面々がいた。

 騎士団の後方からは魔法師団も足元へ上位魔法陣を描きはじめている。


「何してんだ!? レッドドラゴンはもう帰るのに! お前らだって『拡声』で俺達の会話を聞いていたから解るだろ!? あいつはもう攻撃してこない! だからレッドドラゴンが帰るのを邪魔するなって!」


 声を荒げるも、騎士団はお構いなく聖槍を投げつけ、魔法師団は地面に上位攻撃魔法陣を描くのをやめようとしない。

 数十本もの聖槍が身体に刺さっても咆哮をあげ、尚も飛翔しようとするレッドドラゴンは流石にSS級なだけありかなりタフだが、魔法師団が放つ上位魔法を一斉に食らえばただでは済まない。

 どうしようかと逡巡した俺の耳に、騎士団長と魔法師団長が団員へ檄を飛ばす声が聞こえた。


「SS級を倒せば、我らの評判は国外へも響き渡るだろう! 国王から討伐の許可は得ている! やってしまえ!」

「騎士団に後れをとるな! レッドドラゴン討伐の恩賞は我らのものにするのだ! 王城から離れたこの辺りなら幾ら破壊しても構わん! 手柄を挙げろ!」


 逃がさないためなのか翼を重点的に狙われたレッドドラゴンは、それでも固く卵を抱きしめて尚も飛翔しようとしている。

 レッドドラゴンが卵を台座へ戻すことを最優先にしているため、反撃をしてこないのをいいことに、一方的に攻撃を繰り出す騎士団と魔法師団の連中は、気が大きくなったのか薄ら笑いを浮かべていて……俺は無性にその顔が許せないと思った。


「そういう他人をバカにした顔って、自分じゃ見れないもんな。俺もフィアもよくその顔で見られたけど、客観的に見ると随分醜いもんなんだな」


 溜息を一つ吐き両手を翳すと、五重の上位防御魔法陣と上位回復魔法陣をドラゴンへ向かって放つ。


「評判、恩賞、手柄ねぇ? そんなもんのために、反撃してこない奴を集団で甚振る王城兵がエリート?」


 ブツブツと呟いている間に、聖槍が弾かれ、みるみる傷が治ってゆくドラゴンを確認すると、今度は闇の上位魔法陣を10指全てで描き、騎士団達の頭上へゆっくりと放った。


「そういう性根の腐った連中には、相応のお仕置きが必要だと思うんだよね?」


 突如、自分達の頭上に膨れ上がった真っ黒な10個の球体を見た騎士団と魔法師団の面々は、深淵なる暗き闇を孕んだそれに驚愕と恐怖で震撼する。

 ゆっくりと放たれた10個の闇はやがて巨大な1個の塊となり、ジジジジと軋むような不気味な音を響かせると、騎士団と魔法師団の動きが完全に止まった。


「あれは……あの完全なる漆黒は、ま、まさか闇の上位魔法か!?」

「上位の闇魔法の遣い手が何故市井にいる!?」

「そ、それも10個同時に発動だと!? 有り得ない! こんなことは有り得ない!」

「大体、魔法陣は一体どこに描いたのだ!? 上位魔法陣など、どこにも見当たらないぞ!」


 闇と光の魔法は上位しかなく、かなり複雑なためギルドSS級でも扱いが難しい。

 そもそもSS級の冒険者自体稀なため、この魔法を実際に見たことがある者は少ないのである。

 喚きたてる騎士団長と魔法師団長の隣で、一人の騎士が震える声で呟く。


「ま、まさか、あの闇魔法……俺達を狙って放たれたんじゃ?」

「う、嘘だ! これは悪い夢だ! うわああぁぁぁぁ!」


 自分達へ迫る真っ黒な球体にジリジリと後退りを始めていた彼らだったが、1人が悲鳴を挙げて逃げ出すと、あとは雪崩を打ったように散らばって行き、騎士団長も魔法師団長の姿さえも見えなくなった。


「騎士団や魔法師団といえばエリート中のエリートのはずだが、これしきで逃げだすなんて案外矜持は脆いんだな」


 そう苦笑する俺の頭上で、巨大な闇の球体は膨張しながら高度を上げ本来の発動予定個所まで浮上してゆく。

 あのまま闇魔法を奴らに向けて放ったら王都が壊滅してしまい、関係ない人間まで死にいたらしめてしまうので。元から空中に放つつもりだったのだ。

 膨れ上がった球体は、やがてゴゴゴゴという鈍い音と共に周囲の空気を圧縮してゆき、凄まじい圧力が王都中に襲い掛かかると共に辺りが急速に光を失くしていく。


 そして静寂と暗闇。


 火や風の魔法とは別格といわれる、たった一つでも大気を揺るがせるほどの威力を持つ闇の上位魔法は、10個ともなると空を食らい王都をまるごと闇に閉ざしてしまった。


「脅しにしては、ちょっとやり過ぎたか?」


 そう独りごちて頭を掻く。

 真っ暗闇に覆われた王都は、自分の指先さえも視感できない。


 素早く辺りを照らす補助魔法陣『ライト』を描くと、俺の目の前には困惑するような瞳をしたレッドドラゴンの顔があった。

 赤く光るその瞳が『ライト』の光により俺を捉えたので、意思疎通ができるか解らないが、とりあえず自分は味方だと頷いてみせる。

 レッドアイを返した時に俺の手を食いちぎらなかったんだ。たぶん大丈夫だろう。


 風の上位魔法を3指に発動させてC級ダンジョンの方角へ放つ。

 この風の道を辿れば、暗闇でも問題なくレッドアイの台座があるC級ダンジョンへ帰れるはずだが、念のため『ライト』をレッドドラゴンの鼻先へかけておく。

 案の定レッドドラゴンは大人しくしていてくれて、風の道へ促すと一度だけ小さく喉を鳴らし飛び去って行った。


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