雑踏インティファーダⅡ
7-2.雑踏インティファーダⅡ
「教導院が何故世界を支配してるか、分かるかい?」
時計は午前11時を回っていた。
集会会場の右サイド。
階段状の聴衆席(と言っても、立ち見だが)を下層に向かってパトロールしている犬飼ツヨシは、部下の愛上桜香におもむろに切り出す。
「想能力を支配してるからでしょ?」
「正解。おおむね、だけど。高校の公民で習ったんじゃないかな?じゃあ何故教導院が想能力を支配しているんだと思う?」
桜香は少し考えてこう答えた。
「そもそも想能力は教導院が作ったからでしょ?自分で作って、与えて、管理してる。当たり前だけど」
「うん合ってる。合ってるけどさくちゃん、プロセスが抜けてるんじゃないかな?そーいうシンプルでまっすぐな答え方は君らしくて好きだけど、じゃあパトロールがてら復習といこうか」
犬飼がクイッと鼻眼鏡を上げる。
「順を追おう。教導院。教え導く院と書くが、何を導くのか。教導院は今俺達がいる東城学府のような科学技術集団のトップ。彼らが生み出した『想能力』を平和に、平等に、世界の発展のために使うことを導いてるのが教導院ってわけだ」
「それは知ってるけど・・・」
「話変わるけど、教導院総本部のあるニューヨークのリバティ島、ここにあるものといえば?」
「教導院のシンボル、想天の女神」
「ブッブー、いや像としてはコスモクイーンなんだけどね。別の観点で見ると違うんだな。あの像はシンボルであるとともに、想能力の開発、管理、果ては政治判断まで司るスーパーコンピュータだってのは知ってるよな?」
「シンボルとしてじゃなく、本当に世界を支配してる、って話よね」
「ここでその女神様像の持ってるモノを思い出そう。1つは天秤。平等と調和の象徴。ではもう1つは?」
「定規。秩序・科学のシンボルよね」
と、ここで犬飼は大笑いした。
「・・・何がおかしいのよ」
「いや、ごめん。なんか皮肉を感じちゃってさ。そう、定規なんだけど、定規じゃないんだなー。ここで核心を突こう。この世界の秩序を本当に守って、そして世界を支配している『定規』が実在するんだ」
「・・・何?」
「分からない?じゃ答え。教導院が世界を支配している、できている理由は『アンテナ』だ」
「アンテナ?」
「想能力の感知による、教導院の世界支配だ」
犬飼はそう言うと、天を指差す。
「コスモクイーンは2つある。いや、2つで1つだ。情報を処理し調和を保っている『天秤サイド』のコンピュータがリバティ島の女神像の中。想能力者を生み出し、地球上すべての想能力者を管理・支配している『定規サイド』は空の上。宇宙空間の衛星だ。この『地母』と『天母』の一対で『コスモクイーン』なのさ。だからさっきのは厳密には間違い」
「・・・1つだと思ってた」
「勉強不足だな。まあいつも隊務で振り回して学校行けないことも多いしな。ここらで課外授業だ。女神様は自らの創造物の反抗を許さない。例えばキャッツ。やつらがみだりに想能力を発動しようもんなら、女神様はすぐそれを感知して、その不届き者を排除する。具体的には発動した想能力者が誰か、何処にいるか、何の能力かを正確に察知して、すぐさま女神様の尖兵、飼い犬たる俺らドッグスが送り込まれる。しかもその反抗者の弱点である想能力者が送り込まれるんだ。勝てっこない」
「ならキャッツなんてすぐ絶滅するんじゃない?」
「だから基本的に奴らは想能力以外の武器で反抗してるわけだ。銃とか。それでも我らが圧倒的に有利。でも一向に片が付かないのは単にキャッツが多いとかいう問題じゃない。・・・不穏な話がある」
ここで犬飼の表情が険しくなる。
「・・・支配をすりぬける想能力者?」
「そうだ。聞くだろ?電波妨害機の類いで一時的にコスモクイーンの感知をかく乱する事案。今でこそよくあるが、俺が初めて隊務についた頃はそんなチャチなもんで女神の眼から逃れることは出来なかった」
犬飼は電子銃をくるくる指でもてあそびながら続ける。
「どうもここ数年、女神様の支配、つまり定規の電波強度が弱まってるんじゃないかという噂があるんだ。女神様ももう百年以上地上を支配しているわけで、ガタがきてるという考え方も出来るが、教導院はたまにシャトル飛ばしてメンテナンスしてるだろ?・・・俺はこの支配の緩みは、誰かが人為的にやってるんじゃねーか、と思うわけだ」
「・・・誰か、って、それは誰が、何のために?」
「わっかんね。あくまで仮説だし。・・・それともう一つ、俺はこのコスモクイーンの弱点がある気がしてならねえ」
そう言うと、犬飼はいきなりミネラルウォーターを取り出すとキャップを外して、
「忍法!水遁の術ゥゥッ!!」
思い切りペットボトルをひねり潰すと、中の水が桜香の顔面に直撃した。
「キャッ!?・・・ちょ、ちょっと、何するんですか!」
「何って、忍法」
「そうじゃなくてッ・・・!」
「忍者の使う忍術もそうだが、昔から話に聞く『魔法』や『妖術』の類が、ただの空想の産物だと思うかい?」
犬飼は桜香をさえぎってそう言うと、空になったペットボトルを放り投げた。
「俺は違うと思うね。『魔法』や『忍術』が何か見たことないから分かんねーが、あれが何らかの精神的ショックや、はたまた精神修行の果てに発現した荒削りな『想能力』だとしたら・・・」
犬飼はタオルを桜香に手渡し、こう言った。
「さくちゃん。・・・俺はどうもこの世界に、女神様の創造物にあらざるもの。教導院による心象開発を受けていない想能力者―――『魔法使い』がいる気がして、ならないんだ」
―Ⅲに続く―




