第十二話 計画
翌朝。
目が覚めてから、ずっと頭の中に同じ言葉が残っていた。
「路線構想図 別紙参照」
昨日、新大阪駅の地下を調べている途中で見つけた資料。
「新大阪駅地下交通施設 将来計画案」
その最後に書かれていた、たった一行の言葉だった。
路線構想図。
それがどこにあるのかは分からない。
でも、もし本当に存在するなら――。
俺がずっと追いかけてきた13~19番線の空白について、何か分かるかもしれない。
「……行くか。」
俺は家を出た。
向かう先はもちろん、新大阪駅。
そして、昨日の資料館だった。
⸻
新大阪駅に着く。
朝の駅は相変わらず忙しい。
新幹線の改札へ向かう人。
在来線へ向かう人。
地下鉄へ向かう人。
旅行用の大きな荷物を持った人もいれば、仕事へ向かう人もいる。
誰も、地下に何があるのかなんて気にしていない。
俺だって、少し前まではそうだった。
でも今は違う。
駅を歩くたびに、
「この下には何があるんだ?」
と思ってしまう。
俺は地下へ向かった。
昨日と同じ道。
同じ階段。
同じ通路。
なのに、今日は少し違って見えた。
昨日見つけた「将来鉄道施設候補区域」。
その存在を知っただけで、駅の地下がまるで別の場所に感じられる。
⸻
資料館に入る。
昨日の男性は、すでにいた。
「おはよう。」
「おはようございます。」
俺は早速聞いた。
「昨日の最後に見つけた『路線構想図 別紙参照』っていうやつ、見つかりました?」
男性は少し笑った。
「やはり、それが気になったか。」
「気になりますよ。」
「そうだろうな。」
男性は立ち上がった。
「こっちだ。」
俺は後ろをついていく。
昨日まで見たことのない棚へ向かう。
そこには古いファイルが何冊も並んでいた。
「この中にあるんですか?」
「可能性がある。」
「可能性?」
「資料というのは、必ずしも一つの場所にまとまっているとは限らない。」
「……。」
なんとなく嫌な予感がした。
つまり――
また探すのだ。
⸻
しばらくして、男性が一冊のファイルを取り出した。
表紙には、
「新大阪駅地下交通施設 将来計画案」
と書かれている。
「これ、昨日のと同じじゃないですか?」
「昨日見たものとは別の版だ。」
「別の版?」
「計画は何度も修正される。」
ファイルを開く。
最初のページには、日付が書かれていた。
その次のページには、計画の目的。
俺は読み始めた。
そこには、将来の新大阪駅について書かれていた。
利用者の増加。
周辺地域の開発。
新幹線と在来線の接続強化。
地下交通網の拡張。
そして――
複数の鉄道事業者による将来的な接続可能性。
「……複数?」
俺が聞く。
男性は頷いた。
「新大阪は、一つの鉄道会社だけで完結する駅ではないからな。」
確かにそうだ。
JR。
新幹線。
地下鉄。
そして駅の外には阪急。
さらに大阪の各地へ向かう交通網がつながっている。
「だから、地下を一つの会社だけのために使うのではなく、将来いろいろな路線が接続できるようにしておく。」
「それが、この計画?」
「そうだ。」
俺は資料を読み進めた。
⸻
ページの中央には、地下空間の利用イメージが描かれていた。
現在の施設。
将来拡張区域。
交通結節点。
そして、まだ名前のない鉄道施設。
「これ……。」
俺は図を指差した。
「ホームみたいなものがありますよね?」
「そう見えるな。」
「何番線ですか?」
男性は答えなかった。
俺は図をよく見る。
ホームらしきものがいくつも並んでいる。
数えてみる。
一つ。
二つ。
三つ。
四つ。
五つ。
六つ。
七つ。
「……七つ?」
男性が静かに言った。
「七つだ。」
俺の頭に、あの数字が浮かんだ。
13~19。
七つの数字。
「まさか……。」
「まだ決まったわけではない。」
「でも、七つですよね?」
「ああ。」
「13~19番線も七つ。」
「そうだな。」
「これ、偶然ですか?」
男性は少し黙った。
「偶然かどうかは、自分で考えてみるといい。」
「……。」
なんだ、その言い方。
まるで答えを知っているみたいだった。
⸻
俺は別のページをめくった。
そこには、計画の段階が書かれていた。
第一段階 基礎調査
第二段階 需要予測
第三段階 事業者間協議
第四段階 施設配置検討
第五段階 詳細設計
俺は驚いた。
「まだ第三段階にも入ってないんですか?」
「資料上ではな。」
「じゃあ、ホームも路線もまだ決まってない?」
「そういうことだ。」
「じゃあ、さっきの七つのホームみたいなのは?」
「イメージだ。」
「なんや……。」
少し安心した。
でも、同時に疑問も増えた。
七つという数。
13~19という数。
そして地下に残された空間。
全部が偶然なのだろうか。
⸻
俺はページをめくり続けた。
すると、計画の目的について、さらに詳しく書かれている場所があった。
「将来的な鉄道ネットワークの変化に対応するため、特定路線・特定事業者に限定しない柔軟な施設配置を検討する。」
「特定事業者に限定しない……。」
「つまり?」
「誰が使うか、まだ決めない。」
男性は答えた。
「未来の状況に合わせて決めるということだ。」
「だから空白なんですね。」
「そういう見方もできる。」
俺は資料を見つめた。
13~19番線。
まだ存在しない。
でも、その番号を埋める可能性は残されている。
「じゃあ、最初から13~19番線を作るつもりだったわけじゃない?」
「少なくとも、単純にそういう話ではない。」
「なるほど……。」
⸻
そのとき、男性が一枚の紙を取り出した。
「これを見てみろ。」
そこには、新大阪駅周辺の簡単な地図が描かれていた。
地下にいくつもの線が伸びている。
ただし、路線名は書かれていない。
「これ何ですか?」
「将来接続候補。」
「また名前がない。」
「計画段階だからな。」
「どこにつながるんです?」
「複数の方向が考えられている。」
「じゃあ、これが路線構想図?」
「いや。」
「違うんですか?」
男性は首を横に振った。
「これはその前段階だ。」
「じゃあ、本物は?」
男性は何も答えなかった。
俺は嫌な予感がした。
「……まさか、また別の資料?」
男性は笑った。
「その通りだ。」
「また探すんですか!?」
思わず声が大きくなる。
資料館の中に俺の声が響いた。
男性は笑っていた。
「まあ、そう焦るな。」
⸻
俺は気を取り直して、資料を見直した。
その中に一つ、気になる言葉があった。
「別紙A-3」
「これ……。」
「気づいたか。」
「昨日の資料にもありました。」
「そうだ。」
「A-1とA-2は?」
「ある。」
「A-3は?」
男性は黙った。
「……ないんですか?」
「ここにはない。」
「どこにあるんです?」
「それを探している。」
俺は頭を抱えた。
「最初から言ってくださいよ……。」
「言ったら面白くないだろう。」
「面白さで資料探させてるんですか!」
二人で笑った。
でも、俺は少し気になった。
この男性は、どうしてここまで俺に協力してくれるのだろう。
資料のことを知りすぎている。
計画についても詳しい。
俺が何を聞くかも、なんとなく分かっているように見える。
「……。」
俺は男性を見た。
どこかで会ったことがあるような気もする。
でも、思い出せない。
「どうした?」
「いや……なんでもないです。」
⸻
その後、資料館の奥を探した。
棚。
箱。
古い資料。
昔の駅の写真。
計画図。
いろいろなものが出てくる。
しかし、A-3は見つからない。
「ないな……。」
俺が諦めかけたとき、男性が一つの棚を見つめていた。
「……そうか。」
「何かありました?」
「いや。」
男性は棚の一番上にあるファイルへ手を伸ばした。
だが、取らなかった。
「今日はここまでにしよう。」
「え?」
「続きはまた明日だ。」
「なんでですか?」
「その資料は、まだ見るべき時ではない。」
「……。」
意味が分からない。
でも、男性の表情は真剣だった。
「分かりました。」
俺は資料館を出た。
⸻
夕方。
新大阪駅の地下通路を歩く。
今日一日で、かなりのことが分かった。
計画は存在する。
地下には将来の鉄道施設を想定した空間がある。
複数の鉄道事業者との接続も考えられている。
そして、七つの施設を想定した図まである。
それでも――
13~19番線が実際に作られると決まったわけではない。
まだ「計画」。
まだ「構想」。
まだ「可能性」。
俺はふと、駅の案内表示を見る。
10番線。
その先には、空白。
11番線。
12番線。
そして――
13~19番線。
「……。」
この空白は、いつまで続くのだろう。
⸻
駅を出ようとしたとき、スマホに通知が届いた。
資料館の男性からだった。
メッセージは短かった。
「明日、A-3を見せる。」
「……!」
俺は画面を見つめた。
ついに見られる。
路線構想図。
それが本当に13~19番線につながるのか。
どんな路線が描かれているのか。
何が地下に眠っているのか。
明日になれば分かる。
……そう思った。
しかし、その直後。
もう一件メッセージが届いた。
「ただし、一人では来るな。」
「……え?」
俺は画面を見つめた。
一人では来るな。
どういう意味だ?
誰かと一緒に来いということなのか。
それとも――
この計画には、俺以外にも関係する人間がいるということなのか。
俺は振り返った。
新大阪駅は、いつも通りだった。
列車が走る。
人が歩く。
案内放送が流れる。
何も変わっていない。
なのに。
なぜか今日は、駅全体が何かを隠しているように見えた。
⸻
その夜。
俺は家で、今日見た資料を思い返していた。
七つのホーム。
13~19番線。
地下空間。
複数事業者。
将来計画。
そして、別紙A-3。
まだ答えは出ていない。
でも、確実に一つだけ分かったことがある。
13~19番線の空白は、ただの空白ではない。
その空白の向こうには、何かがある。
まだ名前のない路線。
まだ決まっていない計画。
まだ誰にも見えていない未来。
そして――
そのすべてを描いた「ロードマップ」が、どこかに眠っている。
俺は明日の予定を確認した。
「……明日、A-3を見る。」
そう呟いた。
でも、そのとき俺はまだ知らなかった。
その一枚の紙が、
この空白の謎を大きく動かすことになるとは。
そして、あの男性がなぜ俺にここまで協力しているのか。
その理由も――
まだ知らなかった。
第十二話 あとがき
第十二話、読んでいただきありがとうございましたーーーー!!
今回はタイトル通り、ついに**「計画」**について少しずつ明らかになってきました。
第十一話で見つかった、
「路線構想図 別紙参照」
という一文。
そこから調べていくうちに、地下空間の利用計画や、複数の鉄道事業者との接続可能性、そして13〜19番線との関係まで見えてきました。
……とはいえ!!
まだ全然答えは出てません
むしろ謎が増えました。
特に今回登場した、
「別紙A-3」
これがめちゃくちゃ重要です。
そして最後に出てきた、
「ロードマップが、どこかに眠っている。」
という一文。
もう分かる人には分かると思います。
そうです。
次回、第十三話のタイトルは――
「地下に眠るロードマップ(路線)」
です!!
第十二話で「ロードマップ」という言葉を出しておいて、第十三話でそれをタイトルに持ってくる。
ここは今回、かなり意識して伏線を張りました。
そして、もう一つ。
今回の謎の男性。
相変わらず何者なのか分かりません。
なぜここまで新大阪の地下計画に詳しいのか。
なぜ主人公の質問を先回りするようなことを知っているのか。
そして最後の、
「一人では来るな。」
というメッセージ。
……一体何を意味しているのでしょうか。
このあたりも、今後の話で少しずつ明らかになっていく予定です。
第十三話では、いよいよ「路線構想図」に迫ります。
13〜19番線の空白は、どこへつながっているのか。
そして、その地下に眠る「ロードマップ」とは何なのか。
まだまだ謎は続きます。
ここまで読んでくださった皆さん、本当にありがとうございます!!
第十三話もお楽しみに!!




