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保健室には秘密がある  作者: 熊猫ぱんだ


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6/11

不安

三月。

卒業式が近づくにつれて、学校全体がどこか浮ついていた。


教室では寄せ書きが回り、

廊下では写真を撮る声が響く。


「結衣、第二ボタン狙わないの?」

奈緒が笑いながら聞いてくる。

「興味ない」

「えー、後で後悔しても知らないよー?」

「別に」


結衣は適当に返しながら窓の外を見る。

春はまだ遠い。

校庭の桜は固い蕾のままだった。


でも、自分の中では何かが終わろうとしている。

卒業したら、本当に会えるのか。

先生はどうするつもりなのか。

考えるほど不安になった。


あの日、“待て”と言ったくせに。

卒業後のことは、はっきり約束してくれない。

それが怖かった。



放課後。

結衣は進路指導室の帰りに、保健室の前で立ち止まった。

入るか迷う。

最近は前みたいに気軽に行けなくなっていた。


好きだと分かったから。

意識してしまうから。

それでも結局、扉を開ける。


「失礼します」

高瀬は机で書類をまとめていた。

「……来たのか」

その声が少しだけ柔らかくて、胸が熱くなる。


「迷惑でした?」

「そんなこと言ってない」

結衣は丸椅子へ座る。


沈黙。

前なら平気だったのに、最近は静かなだけで緊張する。

高瀬もどこか落ち着かない。

ペンを持つ手が、少しだけ止まっている。


「先生」

「ん?」

「卒業したら、私のこと忘れますか」

高瀬が眉を寄せる。

「なんだ急に」

「なんとなく」


本当は、怖かった。

卒業した瞬間、“元生徒”になる。

今までみたいに会う理由もなくなる。

そうしたら、この関係は簡単に終わってしまうんじゃないか。


高瀬はしばらく黙ったあと、小さく息を吐いた。

「忘れられるなら苦労してない」

結衣の心臓が跳ねる。

「……え」

「お前のせいで、ここ数ヶ月ずっと調子狂ってる」

困ったように笑う。


その顔が愛しくて、泣きそうになる。

「先生でもそんなことあるんですね」

「あるよ」

「完璧そうなのに」

「勝手に期待するな」

結衣は小さく笑った。


その空気が好きだった。

恋人みたいな甘さじゃない。

でも確かに、自分だけに向けられている優しさがある。

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