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保健室には秘密がある  作者: 熊猫ぱんだ


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4/6

苦しい恋

その日を境に、高瀬は少し距離を置くようになった。


前みたいに雑談はする。

ココアもくれる。

でも、絶対に二人きりで長く残らない。


放課後になると、

「もう帰れ」

「担任に見つかるぞ」

そう言って、やんわり追い出される。


結衣は分かっていた。

先生なりに、線を引こうとしている。

でも、それが苦しかった。


「ねえ結衣、最近保健室行きすぎじゃない?」

昼休み。

友達の奈緒がパンを食べながら言った。

「そう?」

「高瀬先生目当てだったりして」

結衣の手が止まる。

「は?」

「だって女子の間で人気じゃん」


奈緒は軽いノリで笑う。

でも結衣は笑えなかった。

図星だったから。


「別に」

「え、なにその反応。怪し」

「違うって」

誤魔化すようにジュースを飲む。


胸がざわつく。

もしバレたら。

もし誰かに気づかれたら。


その想像だけで、呼吸が浅くなる。



放課後。

結衣は結局また保健室へ向かっていた。


扉の前で、一瞬だけ立ち止まる。

帰ったほうがいい。

迷惑だ。

そう思うのに、足が勝手にここへ来る。


コンコン。

「失礼します」

中には高瀬一人だけだった。

目が合う。

その瞬間、一瞬だけ空気が止まる。


「……どうした」

「別に」

「別にで来るな」

「いいじゃないですか」


結衣はいつもの丸椅子へ座る。

高瀬は小さく息を吐いた。

「今日は体調悪いのか」

「悪いです」

「どこが」

「心」

「帰れ」

即答だった。


結衣は思わず吹き出す。

高瀬も少しだけ笑った。

その笑顔を見た瞬間、胸が締めつけられる。


好きだ。

やっぱり好き。

前よりずっと。


「先生」

「ん?」

「私、もうパパ活してないですよ」

高瀬の手が止まる。


「……ああ」

「褒めてくださいよ」

「前も褒めただろ」

「もっと」

高瀬は困ったように眉を寄せた。


「偉いよ」

優しい声だった。

結衣は俯く。

その優しさに、何度も救われる。


でも同時に、もっと欲しくなる。


「先生は」

結衣は小さく呟いた。

「先生は、私が来なくなっても平気ですか」

高瀬が黙る。


時計の秒針だけが響く。

やがて、高瀬は静かに言った。

「平気じゃない」

結衣の胸が大きく跳ねる。

「でも、それをお前に言っちゃダメなんだよ」

苦しそうな声だった。


結衣は立ち上がる。

気づけば、高瀬のすぐ近くまで歩いていた。


「先生」

「来るな」

「嫌です」

「……結衣」

名前を呼ばれるだけで、胸が熱くなる。

高瀬は耐えるように目を逸らした。


「卒業するまで待て」


その言葉に、結衣は息を呑む。

「え……」

「これ以上続けたら、お前をちゃんと守れなくなる」

高瀬は拳を握り締める。

「だから待て」


結衣はしばらく何も言えなかった。

嬉しかった。

遊びじゃないんだと思った。

欲しいだけじゃなく、ちゃんと未来を考えてくれているんだと分かった。

だから余計に苦しい。


「……長い」

「四ヶ月くらいだろ」

「長いです」

「我慢しろ」

結衣は唇を尖らせる。

高瀬は少しだけ笑った。


その笑顔を見た瞬間、不意に涙が出そうになった。


好きだ。

本当に。

こんなふうに誰かを好きになったのは初めてだった。


それから結衣は、本当に“我慢”を覚えなければならなくなった。

前みたいに毎日保健室へ行くのはやめた。


行けば会いたくなる。

触れたくなる。

期待してしまう。

だから昼休みに一度だけ。

それも用がある時だけにした。


高瀬も以前よりずっと慎重だった。

二人きりになりそうな時は、わざと職員室へ戻る。

放課後はすぐ鍵を閉める。

LINEも交換しなかった。


たぶん、それが正しかった。

でも正しいことは、苦しい。


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