第8話
「さて、どうするのか、だ」
肘置きから伸びる腕は、わずかに震えが見える。
疲れている、それは老王も老人もわかっている。
だが、老王の自説は、いまだに終わる気配を見せなかった。
「長男、長女、次男、次女。彼らのうち、女は他国に嫁いでいくことだろう。ともなれば選ぶべきなのは長男か次男となろう。この2者、いずれがよいか。それを悩んで居る。
長男はいまや30を超え、若妻を娶り、子も宿していると聞いている。その子がもし男ならば、ほぼ決まりと言っても構わぬだろう。だが、占い師に言わせれば、いまは女としての気配が強いという。そうなれば話は違ってしまう。長男は、その剣技は並び立つものなく、勇猛果敢、向こう見ず。年少の時より強く強くと教え込ませたせいか、無鉄砲に敵に向かっていき、しゃにむにに大将首を取っていくような男となった。まさに国の大将軍となるべくしてなったといえるだろう。国を力で治めるのであれば、これほどうってつけの者はおるまい。だが、その一方で味方のモノの言葉を聞かず、なにもかもを聞いて即決即断、間違っているかどうかすら何も考えずに突っ込んでいってしまうようになってしまった。長男がもしも王となり余の跡を継いだ際、確実に誰かの支えがなければ国は瞬時にでも崩壊してしまうだろう。力で抑えるといっても末端までには目が届きにくい。そのうちに端は腐り、いずれかの内乱のように再び戦禍が国土を蹂躙していくことだろう。
そして次男。次男は18となったばかりか。ついこの間結婚をし、あらたに遠くの異国の王女を妻としたところであったな。だが、体は男としては強いが、百人隊長となるには遠い。長男は圧倒的となれば、次男は部分的には力で押せることもあろうが、それよりも技が強い。細かいところに気付き、それにつけこんでいく。話術もたけており、次男は宮廷博士にも言い負かせるほどの知識を有し、外交官としても極めて有能なのは火を見るよりも明らかだ。だが、いかんせん力がなさすぎる。この世を平定するには話術だけで行かんのだよ。その点では長男よりも劣ると言わざるを得ない。
力の長男、そして話の次男。二人ともが一人の肉体であればこれほど悩むこともあるまい。だが、それぞれが分かれてしまって居る。余の悩みとは、このことだ。さあ、どうするべきなのか」
ふぅ、と老王は椅子に座ったままで嘆息する。
望みは多く、しかしかなわない。
老王はその長い生涯の間でそれがあまりにも多いことを悟っている。
だが、目の前にある事柄は、それでもどうにかしなければならないことばかりだ。




