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第十話 「本格始動?」

第十一話の投稿は5/10(日)に行います。

よろしくお願いします。

 配達を終えた後、二人は宿を探すことに決め、ひとまずニコが泊まる予定の宿に戻ってきていた。

 しかし、聞けば行商人組合かなにかと提携する宿とのことで、一般人が泊まるには割高だと教えられた。仕方がないので、まだ馬の背で昼寝していたアメノを起こしてその宿を出た。


「町はずれの農家にでも頼み込んで、小屋の端にでも泊まらせてもらうか。流石になけなしの貯金にはまだ手ぇつけたくないし。」


「適当にその辺で寝ればただなのに、人間て馬鹿だなあ。」


「アメノはおちびちゃんで、邪魔にならないでしょうから、目溢ししてもらえるでしょうけど、僕らはそうはいきませんよ。」


「へっ、挑発にはのらないよ。というか、僕はあそこで寝るからほっといてくれよ。」

 アメノがカッシオの頭からふわりと飛び立とうとするが、カッシオに鷲掴みに捕まえられる。


「ぎゅっ!——やめろ!羽根が折れるだろ!」

 アメノが抗議する。


 アメノの首をつまむように持ち替えたカッシオが言う。

「今までどうだったか知らねえよ?でも、金も払わないでいいとこ取りなンて、神が許しても俺が許さン。というかずりい。」


「ぁ、あ!あれ、市場!ニコがさあ、あそこで店やるって言ってたよ!行くだろ?行かないのか?」

 カッシオの追求から逃れようとするアメノは大通りを曲がった先に見える市場を指差す。


「ふふっ、のってあげましょうか。一応初仕事を無事に終えたわけですし。……まあ、ちょっとアレでしたけど。」


「ふう、まあいいだろ。なんか飯の屋台で買って酒のアテにするか。」


 三人が大通りから外れ、曲がった先に見える市場へ向かって歩いていく。市場を開くくらいだから広場なのは間違いないのだが、かなりの人だかりができていて全貌が見えない。

 山脈側を内とするなら外側に、一階建ての細長い、屋根と少しの設備が備えられた店がある。おそらく地元の人間(妖)の店なのだろう。


「カッシオ!たぶんですけど、建物側にはいないでしょうから、山側から虱潰しに見てまわりましょうか!」


「だな!アメノ、潰されねえように飛ンでるかつかまってるかしろよ!」


 ニコの姿を探しながら、出ている店をひとつひとつ眺めると見知ったような野菜もたくさんも売られている。一方で、この世界原産らしき、奇妙な萎びた見た目の植物、怪しげなもやが湧き出る肉、それにカッシオもよく釣っていた鉱石のように煌めく魚のツァルも売られていた。


 雑多に見えた市場だったが、よく見れば似たような品が同じあたりに固まっている。たとえば穀物や豆、装飾品など嵩張りそうなものは内側、それ以外の食べ物などは外側と、どうやら大まかな区分があるらしかった。


 案の定、ニコの姿は内側にあり、元気に商売をしていた。


「いらっしゃい、いらっしゃい!今年も季節がやってきましたよ!麦の季節が!なんと、なんと!今年のは出来が違います!農家の方の自信作です!」


「へえ、なにが違うンだよ。」


「おや、お客さん気になりますか!?そりゃそーですよね。麦なんて大体なんでも同じ、そー思うでしょう!」

「でもでも、今年は違う!昨年末から年始にかけて、すごーく寒かったでしょ?麦ってのは寒けりゃ旨くなんですよ!こう、ね?生きるぞー、生きるぞーって気合いが入るんです。人と一緒!踏まれても蹴られてもなにくそ!って立てる人間の方が味がするのとおんなじ理屈!」

「パンにすりゃ、ふわふわに、麺にすりゃ、つるつるしゃっきり!わたしも見習ってしゃっきりと、特別に安くしちゃいましょう!普段なら大匙三掬いで1ヨー、でもでも今日は四掬いで48シュ!何?足りませんか?なら、こっちの豆もつけましょう!豆一袋つけて48シュだ!まだまだいけるだろうですって!?ちょっとお客さんご勘弁!しくしく、涙流して売ってやりましょう!豆もう一袋つけて、40シュだ!」


 ニコの軽妙な売り文句を聞きつけて、買い物に来ていた客が群がってくる。


 悠たちはあっという間に弾き出されて、せっかく会いに来たが、しばらくは近づくことも出来なさそうだった。

 集団の隙間からちらちらと見えるニコは笑顔で、器用にも客に目線を向けたまま勘定をしたり、袋に包んだりしていた。さぞ忙しいだろうと思うが、ニコの動かす手が乱れることはない。


「商売人、て感じでしたね。声の大きな変わった人だなんて思っていましたけど、なるほど、仕事のためなんですね。」


「感心してねえで、飯買いに行こうぜ。ニコのも買ってってやろう。」


「うるさいだけだろ?僕疲れちゃったよ。早くなんか食べたいよ。」


———


 軽食を売っている建物の端の、座れる場所に三人は移動して来ていた。

 どこの店にも長い行列ができていたが、客をさばく速度が尋常ではなかったので、ほとんど待たずに買えた。

 ただ少し悠が後悔したのが、間違ってバッタ入りの虫料理を買ってしまったことだった。遠目に見れば、美味しそうな麺料理に見えたのだ。しかし、他の二人は。


「へえ、あんまり食べたことなかったけど、上手く作ってんね。美味しいよ、これ。」

 アメノが、麺を一本齧りながら、バッタにもかぶりつく。


「そんな顔してねえで悠も食ってみろよ。わりかし美味いぞ?」


「…ですね。虫だってことは忘れて食えばいいんです。」

 美味しかった。虫であることを忘れられれば本当に美味しいと思った。しかし、油断すればあの姿が脳裏によぎり、そしてはらわたを噛んで出た汁が舌にのったとき、えずいてしまった。


「ンなにまずいか?俺らが美味しく食うから無理すンな?」


「いえ、美味しいんですよ?今まで虫ってやつを食うことがなかったもんですから。だから体がびっくりしてんです。それだけですから。」


「まあまあ。他にも美味そうなもンいくらか見つけたからよ、買ってくるわ。」

 カッシオがアメノと悠を残して、ささっと人混みに消える。


「アメノ、バッタだけ食べてくれません?」


「やだよ、なんでお前の残飯食ってやらなきゃいけないんだよ。そもそも、もう僕お腹いっぱい。」


「はあ、低燃費で羨ましい。」


 その後、カッシオはニコの分も含めてとは言え、かなりの量を買ってきた。今度は虫料理はなかったが、小鳥のせんべい焼きだとか、豚の睾丸のパイ包みだとかインパクトの強いものが多かった。


 結局、ニコの仕事が終わるまでの間、ほとんど飲み食いをしていただけだったが、しっかり宿も見つけられた。カッシオがいつのまにか酒飲み友だちを作っていて、彼の家にただで泊めてもらえることになったのだった。


 日が沈み市場も片付いていく頃、通りには夜も営業する店が奇妙な灯をふわふわと浮かべ始める。その頃には店を畳んだニコも合流し、楽しく飲み食いしてその日は終えた。


———


 翌朝、「配達のローイン」へ行く前に悠とカッシオの二人は朝食を食べに市場へ来ていた。アメノも誘おうとしたが、姿が見えなかった。どこか居心地の良い寝床を見つけて寝ているのだろう。

 市場に着くとニコは既に開店準備を終えていて、煙管を咥えて一服していた。

 二人を見つけたニコはにっこり笑顔を作り、サンドイッチらしきものと朝に飲むと体に良いらしいお茶を二人に分けてくれた。


「わたしはもう数日、城下町で商売しようと思っているのですが、その後は東海に行こうと思ってんです!昨日ね?海で光楼が見えたってんで、近々、光楼玉が採れそうだって聞いたんですよ!」

 悠は光楼が何なのかよくわからなかったが、きっと新たな商機を見つけたということだと理解して、ニコと別れた。


「うしっ、俺らもそろそろ行くか。」


「ですね。上手く仕事が見つかると良いんですが…。」


 少し早めの時間に到着したつもりだったが、「配達のローイン」では配達人たちがもう出発しようとしていた。


 ハンドマンが遠目で二人の姿を見つけて声をかけてくる。

「おう、遅かったな。連中には話しておいてやったから、自分たちで良さそうな奴に雇ってもらうといい。」

 ハンドマンはそれだけ言って返答を待たずに、慌ただしく仕事に戻って行った。


「斡旋と言っても、仕事は自分たちで見つけろってことですか。」


「綱渡しをしてくれただけありがたいってことだな。」


「それを言うなら橋渡しですよ。今の僕らは綱渡りみたいなもんですけど…。」


「あの!すンません!人手いりませンか?」

 カッシオが近くにいた配達人に声をかけに行く。


 悠も自分の中にあった少しの躊躇を振り切り、営業に向かった。


 数十分後、配達人はおおよそ出払ったので、二人が集まるが首尾は良くなかった。カッシオがなんとか仕事をもらって来たが、この城下町内で毎日行われている書類の配達依頼だった。この営業所と城下町の東西にある倉庫間の配達で、いつもは配達人が配送荷物の受け取りついでに行うとのことだった。


——この調子じゃ、配達人として働くどころか、ほとんど無職やんけ。まっずいなあ…。

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