ニ。
「父上に今回の討伐についてご報告申し上げる。先触れを頼む」
従者に頼めば、未だに彼女の師や護衛たちの私に対する不敬を怒っているらしい従者は不機嫌を隠そうともせずに頷くので、その態度も大概だぞ、と言えば改まって急ぎ父上の執務室に向かったのを見送り溜め息を吐き出した。
暫く執務は前倒しして終わらせているから側近が居るわけでもなし、溜め息をついても誰にも聞かれはしない。その上着替えるために執務室ではなく自室だから王族ではなく私として居ることも問題無いだろう。
「無知は罪、か」
その通りだ。
私は火魔法で魔獣を討伐して只でさえ被害の大きい廃墟と化した地が更に酷くなることを憂えて他の方法があるのなら、と口にした。その結果、彼女が無茶をして倒れた。知らなかったでは済まない。
だがそんな私でもようやくこの婚約の重みを理解した。次こそは歩み寄ろう、ではなく今から歩み寄るべきだ。寝込むことが予測されるらしいが手紙ならば彼女に負担がかからないだろうか。いつの間にか従者が戻って来ていた。直ぐに会ってくれるというので父上に報告へ赴いた。
その報告と共に私は今さらかもしれないけれど、彼女に歩み寄るため、先ずは手紙を書こうと思っていることも口にする。国王として報告を聞いていた父上は私が歩み寄りたい、と願って「ようやくか」と一言呟き頷いた。
その後私は寝る間も惜しんで、今、思っていることをつらつらと便箋に認めていく。考えていたこと、ずっと後悔していたこと、婚約者である彼女に色々思っていたこと、国内の彼方此方を視察に行ったこと、それについての視点。私の好きなもの、嫌いなもの、その理由。……そして今日の魔獣討伐で思ったこと、感じたこと。
気付いたら太陽が昇り明るくなっていて鳥の鳴き声も聞こえてきた。
今までのことを、気持ちを全部書き切ったからだろうか。とても清々しい気持ちで朝を迎えた。こんなに清々しい朝を迎えたのは、記憶にある限り初めてのような気がする。それだけ私も長年にわたり、彼女に対して行ってきたことが常に心の中で蟠っていたのだと思う。
ーーこの時の私は、こんな清々しい朝を迎えたからには、きっと彼女と上手くいく、と思っていた。
併し。
そう上手くはいくものじゃない、と気づいたのは便箋が大量だったので一度には送れず、毎日送ることにしてからおよそ五十日ほど経過した頃のことだった。
手紙の謝罪は受け取った。臣下として謝られてしまえば受け取るしかない、と書かれた返信。手紙ももう要らないし、今さら本当は可愛いと思っていたとか書かれていても信用出来ない、とでも文面から伝わるような義務的な返信。唯一、国内の彼方此方の領地視察の報告書みたいな内容の手紙と、それについての私見だけは、彼女の琴線に触れたのか、今後はその話ならばお聞きします、と書かれていて。
「やはり今さら謝っても、そう簡単には許してもらえるわけがない、か……」
とても落ち込んだ。
いや、でも、領地視察についてならば話を聞くと書かれているからには会話が増えるかもしれない。そこから他の話題も広がるかもしれない。
そんな希望が湧いたものの、彼女と再び交流を持てることになったその日、王城の庭園にて彼女を待っていると、相変わらず余所余所しい態度は崩さない彼女がそこには居た。
その上、手紙でとてもたくさん謝って頂きましたから仰らないで下さい、と淡々とした声で言われてしまえば「そうか」としか返事が出来ない。
形式的な挨拶の後、彼女は領地視察の件だけは本当に真摯に耳を傾けてくれるし、その領地の特産品や良いところも興味深そうに聞いてくれるし、私の視点から気づいた問題点や私なりに考えたその解決策なども「そんな解決策を講じられたのですか」などと驚きや感心を持って褒めてくれた。
だから少し、ほんの少しだけ彼女との距離が縮まったと思って他の話題を提供しようと思ったら、途端に彼女は無言で微笑むだけになってしまった。
ーー本当にこんな態度を取られて気づいた。
自分が彼女に貫いていた態度がこういったものでコレは地味に堪えるな、と。
長年、彼女にこんな気持ちをさせて来たのか、と更に落ち込んでしまった。
そんなほんの少しの彼女との距離の縮まりと未だに大きい隔たりを感じ取ったまま、私の成人を祝う誕生日パーティーが迫っていた。
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