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いち。

 あの後、十回登城して教育を受けるよう指示した陛下は、結局諦めた。

 そりゃそうだ。

 だってウチ以外で私は何も覚えられないし、抑々読める文字以外は読めないもの。つまり外国語を新たに覚えられないんだよね。

 素通りしちゃうんだから仕方ない。

 陛下から命じられた妃教育のスペシャリスト達は、城の一室で教えている時、物覚えの悪い私を五歳だから、という目で見逃していたらしい。

 ……が、我が家に派遣されて改めて最初から妃教育を始めた私が一度見て聞いただけで覚えたことに、派遣されてきた教育係の七人全員が愕然とした表情を浮かべた。

 そうでしょうね、としか言えない。

 多分、もう一度最初から教えるのも面倒くさい、と思っていた教育係の人だっていただろうなとは思う。

 だけど覚えたんだよね、一度で。どういうことだ、と思っただろうなぁ……。

 そして。

 陛下に私の妃教育について口外無用、と固く口止めされた理由も何となく理解した七人の教育係は、一年も経たずに妃教育がかなり進んでしまったことに更に愕然としていた。

 ……ですよね。訳の分からない能力でスミマセン。

 この能力のお陰で教え甲斐がある、と思われたのは良かったけど、あれだけ最初は梃子摺っていたのに、我が家ではスルスルと覚えることから、教育係の皆さんは楽しくなったらしい。

 楽しくなってくれたのは良かったけど、進み過ぎていたらしくて報告を受けた陛下は少し休ませろ、と言ってくれたとか。

 ありがとうございます。


 尚、歴代の妃教育を施していて、一番物覚えの早いと言われた四代前の王妃殿下でさえ、全ての教育課程が終了したのは五年掛かったとか。今の私は、一年も経たずに妃教育の半分くらい終わっている。

 このままいくと四代前の王妃殿下より早く三年かちょっと過ぎるくらいで終わるかもしれない、のだとか。

 後半は難しくなるから、ゆっくり覚えさせるらしい。

 でも。

 あんまり早く覚え過ぎても第一王子殿下が可哀想なことになるらしい。

 可哀想なこと。……深くは知らない方が良さそうだ。

 多分足並みを揃えよって事だよね、きっと。

 第一王子に問題が無ければ王太子位を賜って国王の座に着くことになりそうだけど、五歳の私に王妃教育までするのはやり過ぎだろうって陛下も考えたとか。

 今の妃教育は一般的な王子妃教育で、王太子妃教育や王妃教育はまた別、らしい。

 その王太子妃教育・王妃教育が後半部分らしいのだけど。

 つまりまぁ、現状は六歳目前で通常の王子妃教育の殆どが終わっている状態、なのが今の私。

 その私にこれより先は進ませられない、とか。


 ……まぁそうだよね。他国では王妃教育を施していたのに思春期を迎えた王太子が婚約者以外の令嬢に恋をして婚約破棄を突き付けた……とかって話もあるし。

 尚、その婚約者のご令嬢は、王家の闇部分の歴史を知る前だったから命だけは助かったそう。

 でも、王太子の有責であっても王族に婚約破棄された令嬢の今後なんて、同じ王族に嫁ぐか幽閉されるくらいしかないんだよね。

 修道院?

 闇の部分を知らなくても公にされていない王家のことを知ってる令嬢を修道院に入れるの? 政治的な思惑で利用されるか他国の者に誘拐されるか分からないのに?

 ……という事らしくて、王族に嫁ぐか幽閉以外、道は無いよね、とその方は年の離れた王族に嫁いだそうな。

 要するに監視付きの結婚生活を送ることにしたわけだけど監視付きでもまだ動けるからね……。


 幽閉じゃあその屋敷からは出られないわけだから。

 その屋敷の庭すら出られないし、使用人も限られた人だけしか会えないし、外との交流は一切不可だから手紙の遣り取りなんて家族だって出来ないからね。

 定期的に食糧は支給されるだろうけど最低限だし、家族との関係が希薄或いは王家の考えが変わり次第、直ぐにでも病に罹ったことにされてまぁ要するに病死、と。

 つまり幽閉生活は、いつ死ぬか分からないのと同義。

 だったら年老いた王族だろうと監視付きだろうとそれなりに生活出来てそれなりに生きられる方がまだマシだよね。

 尚、その国の王太子は王太子位を剥奪。王族に籍はあるのだけどかなり生活の制限をされて恋人とひっそりと暮らしているとか何とか。……どこまで真実なのか知らないけど。


 そんな他国での話を知っているから、多分陛下は私に過度の教育を施さないよう調整しているんだろうね。

 まだ五歳だけど、私の能力は使えるって思っているんだろうからね。


 そんなわけで六歳目前で妃教育から解放されて時間が出来た私は、お父様に頼んで魔法使いさんを家庭教師にして魔法訓練に力を注ぐ事にした。

 座学は出来るけど、実践は難しい。でも魔法使いさんは私の座学での成績を見るに、実践も必ず上級までイケル、と判断したようで来る日も来る日も魔法を使う実践訓練。


 それをおよそ二年続けた。

 ……というか、二年も魔法訓練に精を出せる辺り、第一王子殿下の勉強の進み具合が分かるよねって話だけど、まぁそこは突っ込まないで置いておこう。

 師匠(魔法使いさんは、先生よりこう呼ばれたいと言うので師匠と呼んでる)から中級の試験問題を出される日がやって来た。

 座学は上級までクリアしている私だけど実践は初級問題をクリアして現在中級試験に挑む所。

 師匠が言うには、成人前なのに中級試験に挑めるだけの魔法が扱えるのは優秀、らしい。

 中級試験問題を受ける多くの人は成人している人が多いのだとか。それだけ難しいってことなんだって。


 そんな私は魔法の適正が水と氷だそう。

 あとケガを治す治療魔法も使える。

 治療魔法はどちらかと言えば座学が出来る人は適正さえあれば上級も使えるらしくて、実際、私は適正があるし座学も出来るので魔力が切れることが無ければ上級の治療魔法が既に使える。

 治療魔法は属性(土・水・風・火)以外に当たる魔法で、これは適正が有るか無いかどちらか必ず調べるらしい。

 属性とは関係なくて魔力を身体に巡らせて座学で覚えた通りに、治すことを思い描いて治るよう念じて使う。


 ケガが治れば適正あり。治らなければ適正無し。


 これは実際にやってみないと分からないので私に適正が有ることを知った師匠は、魔獣討伐に連れて行きたい、とお父様に直談判していた。

 危険だから却下した、とお父様がドヤ顔してた。

 でもまぁ適正があるので訓練しないのは勿体無いから、と訓練した結果、上級治療魔法が使える。

 いや、属性魔法は中級なのにって思ったわけだけど、治療魔法はイメージの問題だから、ケガが治るように強く念じる想いがそれだけ強いんだよって師匠は言う。


 で。

 上級治療魔法が使えるようになってしまった私なので、師匠が真剣にお父様に魔獣討伐に連れて行きたいと頭を下げてた。

 渋っていたお父様だけど。

 私も行きたいと言い出したので、私に甘いお父様は、自分の身を自分で守れるくらいに強くなったなら良いと許可を出してくれた。

 ……でも過保護なので行くことが決まったら護衛付きで師匠から絶対離れない、が約束だけど。


 それで。

 魔獣討伐で自分の身を守れるくらいの魔法を扱うのは、最低でも中級魔法が使えないとダメ、と師匠が言うので中級魔法の訓練をしていた。

 今日はその成果を試す試験の日。

 八歳の誕生日目前です。


 ……一応、六歳の互いの誕生日も七歳の互いの誕生日も殿下に会っている。

 あと三ヶ月ごとの交流もちゃんとやってる。

 でも、殿下は不機嫌なだけなので、殿下の誕生日は贈り物を渡してお茶を飲んで城から帰って来たし、私の誕生日は嫌そうな顔をした殿下が我が家に来て玄関ポーチで出迎えたら直ぐに贈り物を無言で、然も従者経由で渡して来て、私が受け取ったらさっさと帰って行ったよ。六歳も七歳も。


 三ヶ月ごとの交流会は、いつも城に行ってる。

 で。お茶を無言で二杯飲んだら私は帰ってくる。


 最初はね、話しかけたよ。好きな本は何か、とか。私は黄色が好きとかね。

 でも相槌も無いし、質問にも答えてもらえないからね。

 無言で二杯飲んだら帰る、がスタンスになったよね。

 陛下に報告は上がっているだろうけど、何も言われていないからこれでイイことにしておこう、と判断した。

 ちなみにお父様もお母様も殿下のその態度にブチ切れてるし、陛下が何も言わないことにもお冠だ。


 十日後の私の八歳の誕生日も、きっと贈り物を玄関ポーチで渡されるだけだろうけど、一応お茶とお菓子の準備はするように、お母様が使用人に伝えてた。

 師匠は殿下と婚約してからやって来た人だから、殿下の私に対する扱いも知ってる。だから師匠は可哀想に思ってくれて私の誕生日には、ずっと私の側に居てくれる。


 尚、師匠は現在十七歳の男性だ。


 八歳になる私の所に年頃の男性が来るのは噂をされそうだけど、そうはならない。

 私の魔法訓練は侍女に護衛にお母様が立ち会うから。お父様も時々立ち会う。二人が居ない時は領地に居る祖父母だ。だから噂にもならない。……権力の問題もあるとは思うけどね。

 きっと今年の誕生日も師匠が側に居てくれるんだろう。

 師匠は男爵家の三男で、弟も妹も居ないから多分私を妹みたいに思っている。

 絵本を読んであげる、とか、ぬいぐるみを誕生日にプレゼントしてくれる、とか。そんな感じなので。

 殿下との距離は縮まらないけど家族と師匠に祝ってもらえるから十分だよね。

 さぁ、今日の中級試験、頑張るぞ。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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