じゅうご。
「殿下のお気持ちは理解致しましたが、申し訳ないのですが私には出来かねます。殿下と私は親しいとは言えない間柄ですから」
婚約の意義を丸っと無視することは見なかったことにして、そのようにお断りした。
「ですが、それでは殿下がお考えになられた生誕祭の中身にケチがつきますので、どうかお考え直しをして頂けないでしょうか」
第一王子殿下本人ではなく執事が反論してくる。
「私が、間に入る必要は無いかと思いますわ。殿下がお声がけをされれば令息も令嬢も気にかけ耳を傾けられますもの」
私の正論に執事が黙り込む。
「レバーム公爵令嬢様」
静まり返ったところで、新しく殿下付きになられた侍従が私を呼ぶ。なにか、と彼に視線を向ける。
「なにゆえそこまで殿下をお厭いになられましょうか。私から見ても殿下は素晴らしい主君に思え、お仕えすることを誇りに思います。ですが、レバーム公爵令嬢様がご婚約者であられることに私は残念に思います」
随分とハッキリ申して来る従者は表情に出さないものの言葉は嫌悪を見せている。殿下も執事も何も話していないようで。知らない者から見ると私の態度は婚約者に不相応なものに見える、と言いたいらしい。
「そうですね。私の態度はあなたから見れば不遜なものに思えるのでしょう。でもこれだけは言わせてもらいますわ。私と殿下の婚約は、王命という政略結婚なんですの。覆らないものですわ。王命内容をあなたはご存知かしら」
「確か、魔力を持つ者同士が結婚し、子を生せば魔力持ちの子が生まれるのではないかという予測を陛下が立てられ、その予測が成立するのかを確認するための婚約、と……」
従者は王命による婚約の理由をきちんと知っていた。それを意気揚々と口にしていたのに段々と気不味そうな顔を見せ、最終的には語尾が消え入りそうな声で濁されてしまった。どうやら殿下の誕生日パーティーで婚約者の居ない令息令嬢を紹介することの気不味さに気づいたようね。まぁそれは兎も角。
「ええ、ですから私と殿下は結婚し子を生すまでは確定していますが、愛し合っている恋人同士のような関係では無いのですから親しくなくても問題は無いでしょう」
私の話には一理あるようで、頷きつつも。ですがと続ける。
「お互いを思い合う恋人同士ではなくても結婚をするお二人。信頼くらいは築いても良いかと思われます。私が殿下付きになってからというもの、歩み寄ろうとしている殿下のお心を素気無くされていらっしゃるようにしか見えません。もう少しレバーム公爵令嬢から歩み寄る姿を見せても」
「そこまでだ」
歩み寄り、ねぇ。
あら。殿下、従者の失言をお止めになられるの。それはそうですわよね。ご自分へのお言葉みたいですものね。他国ではブーメランという言葉があるそうですわ。投げても手元に戻ってくるオモチャのように自分が放った言葉が自分の所業に返ってくることを表す言葉だとか。
この場合、何も知らない従者が放った言葉は、従者からすれば私への諫言でも殿下からすればご自身へのブーメラン、ですものねぇ。
「殿下、婚約者様への諫言は従者として当たり前のことであって不敬なことでは……」
あらあら、新しい従者は随分と殿下に傾倒していらっしゃるのね。熱心だわ。止める殿下に抗議する辺り、私の態度が気に入らないから、ということなのでしょう。
まぁいいわ。
「そのことについて、後で話す。だから今はそこまでにしてくれ」
殿下に重ねて言われて表情こそ変えないものの、空気は不承不承のようね。さて、この空気はどうするのかしら。
「君が私と共に令息と令嬢たちの仲を取り持つことは決定ではなく、そう出来たら頼もうと思っていたことだから断っても大丈夫だ。私が何とかする。気にしないでくれ」
殿下の言葉に分かりました、と私は頷いた。その時になってみたら手助けをすることもある……かもしれないけれど、今の私には手伝う気はないので、この辺が落とし所ですかしら。
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