ニ。
ーー二年前。
婚約者であるレバーム嬢が初めて参加したお茶会にて不審者が侵入した。
リカーデ家は筆頭格では無いが爵位は貴族トップの“公爵”。金銭的に困窮してもいない以上、その爵位の威信にかけて護衛は多い。無論、威信の問題だけでなく爵位が高い程、周囲から妬まれるし恨まれることをしていなくても勝手に恨む輩もいる。金もそれなりにあり権力もそれなりにあるなら公爵家でなくても護衛は多く雇うものだ。
リカーデ公爵家が雇う護衛の人数が少ないとは思ってない。多くはなかったのは確かだが、茶会を開催するにあたり当日の護衛を務めていた者達の行動が後に王家へ報告されたが、私の知る限りおかしな所は無かった。
それなのに、侵入者が現れた。
リカーデ公爵はその名に掛けて侵入者と裏に居た者を見つけ出そうとしていた。或いは自家に裏切り者が居るとするのなら、苛烈な処罰も辞さないつもりで調査していた。
当然、手始めに侵入者を尋問という名の拷問にかけたらしいが、詳しくは知らない。
そして侵入者はあっさりと侵入方法を暴露した。拷問に耐えられなかったのか、雇い主に忠誠心が無かったのか。さておき。
他家の御者に扮していた、と。その家については王家……父上が主導で調査を入れていた。
だが、リカーデ公爵家と表立って敵対している事も無くレバーム嬢を追い落として私の婚約者の座を狙っている事は絶対に無い。前者は水面下の攻防までは調査出来なかったから敵対してない、と判断。後者はその家に娘が居ないからレバーム嬢を追い落としても利益にならない、と判断した。
抑々、その家は子爵家でリカーデ公爵家の血縁関係に当たる家なので主家に叛意有り、というような行動を取ることは無いと言えた。何しろリカーデ家に反旗を翻しても勝ち目が無いどころかあっという間に公爵家から潰されるのがオチなのだから。
とはいえ、その家を無罪放免にするわけにはいかず、監視は付けることで父上はその子爵家の調査を止めた。
そこで再び侵入者だ。黒幕を知っているか、リカーデ公爵が尋問したのだが、仲介された破落戸の男だったため、黒幕の存在は今も尚、不明。ちなみにその破落戸男は、仲介して来た相手から依頼されたのは「誰でもいいから貴族の娘を傷つけろ」というものだったという。つまり、レバーム嬢を狙っての犯行では無かったということと、仲介者のことも碌に覚えていない、とのこと。前払いでの依頼でかなりの金銭をもらったことだけは覚えているが、素性を知ろうとして自分の身に危険が及ぶことを恐れて仲介者のことを知ろうとしなかったらしい。
それから。
リカーデ公爵が把握していたレバーム嬢を狙っている者がいる、という情報そのものが、どうやら偽の情報だったらしい。リカーデ公爵の懇意にしている情報屋が仕入れて来た場所も真偽不明の情報が飛び交うような場所だったために、そちらから真実を追うことも潰えた。
つまり二年経った今でもこの一件は解決していない。
当のレバーム嬢及びレバーム公爵家が、リカーデ家の謝罪を受け取り手打ちにしてしまった事も、解決の道が断たれた一因かもしれないが。
要するに「もうそんなに気にしないで構わない。犯人探しは置いときましょう」とレバーム家が言ったので、王家もリカーデ家もそれ以上の調査を取り止めた。
レバーム家の考えでは、黒幕が分かるならば兎も角、おいそれと尻尾を掴ませないような相手をいつまでも追いかけていても疲れるだけだ、と。
この発言について、父上が説明してくれた時、私は私の婚約者という立場がどれだけレバーム嬢に負担を強いているのか、ようやく分かった。……もっと早くに理解しておくことだったのに。
彼女は、私の婚約者になってから、幾度となく身の危険に晒されていた。
破落戸に絡まれるのは序の口。拐われそうになることもあり、命を狙われることもあった、と。どれもこれも未遂なのは、彼女自身が狙われることを常に警戒していることと、護衛の腕が格段だということ。彼女自身が護身術を身につけているからだ、と父上が溜め息混じりに教えてくれた。
だからこそ先の発言に繋がる。
尻尾が掴めない相手に狙われるのはいつものことだから、と。
その気になれば筆頭公爵の座にかけて黒幕を炙り出すことは容易いが、どれほどの貴族が取り潰しの憂き目に遭うのか分からないから、バランスを考えると放置しておき、必要以上に関わる相手だけ対処していく、という方針を取っているのだという。
ついでに、本来なら王族の婚約者なのだから王家からも護衛を派遣して彼女の身を守るべきなのに、私と彼女の仲が良好とは言い難い関係性から、レバーム公爵もレバーム嬢も揃って「不要です」と断ってきていて、余計に王家のメンツが立たない、とお叱りまで頂いた。
レバーム嬢が狙われる理由の一つに私との不仲も関係しているだろうとは父上の推測だ。それだけ不仲なのだから彼女を追い落として自分が、或いは自分の娘が、と思う家もいるだろう、と。
私のやらかしが、こんな所にまで響いていると知って居た堪れない。
だが、ここまで来るとどうやって素直になってみるのか分からないし、歩み寄るのもどうすればいいか全く分からない。
つくづく自分がこんなにも要領が悪い男だと思ってもいなかった。自分でも情けないと思う。
それから。
視察先での婚約者の姿を見て、益々私は不甲斐なさに落ち込んだ。
ーー今、魔獣討伐でフラついて疲れたのだろう姿を見ているのと全く同じく。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




