サン。
いや、今はそんなことではないな。
「ケロイ侯爵令嬢。君に私の名前を呼ぶことを許したことはない、とこれで何度目の注意かな。あまりにも覚えられないくらい記憶力が悪いのか」
先ずはお茶会の度に注意している名前呼びについて注意する。最初から毎回だ。多分、ユリエ嬢は私がこうして注意することを待っている。それだけ私の印象に残ろうと必死なのかもしれないが、ここまで来ると記憶力に問題があるのか、と皮肉を口にもしたくなる。
ユリエ嬢は目に見えて顔を痙攣らせた。……私と同じ年齢の高位貴族の令嬢ならば、これくらいのことで表情を変えるな、とは言いたいがそれが出来ないからこそ、これだけ注意をしていることになるのだろう。……もしや私の注意を引くために狙っているのではなく、本当に記憶力が悪いのか?
「し、失礼しました、殿下」
ここまで毎回のやり取りだ。
それから「レバーム公爵令嬢の件は父上と公爵の意向が絡むことだから不参加の理由は話せない」と伝えておく。思惑があるように告げているのは、あの娘の立場を私の不用意な発言でこれ以上不利益なものにしてはならない。という分別がついたから。
……こういった分別がつくくらいなら、謝ればいいのだが、それが素直に出来るほど、私は精神的に大人にはなれていないのだろう。
「そう、ですか」
不満げな表情はあの娘を貶めたい、とアリアリと語っているがそれをやれば父である国王とレバーム公爵を敵に回す、という事くらいは考えられたようで大人しく引き下がった。
「それにしても、ケロイ侯爵令嬢がレバーム公爵令嬢を気にかけるとは思わなかったよ」
私が微笑めば、ユリエ嬢は頬を染めてチラチラと上目遣いで私を見ながら「ええ、まぁ」などと相槌を打つ。
「婚約者として公表されたにも関わらず、お茶会にいらっしゃいませんから、何かあるのかしら、と思いましたの」
なにか、ね。
「特別何も」
「そうですの? 例えば……お身体が弱い、とか。例えば……若い男性を側においている、とか」
つまり、あの娘が魔法士と一緒に行動していることを知っているという事か。併し言い方。わざとらしく若い男性、などとはね。
「魔力持ちが魔法士から魔法を教えてもらうことは何も不思議ではないと思っていますよ」
若い男性、が誰かを知っていると言外に告げる。ユリエ嬢は顔を痙攣らせてから「魔法士なのですね」と引き下がった。
私が知っていたことに驚いているのか、若い男性が魔法士だと知らなかったのか。
だが、私を含むこの茶会に参加している者達は、皆が魔力持ちで魔法士を招いて魔法を習っているはずだ。私も今年から魔法士を招いて魔法の扱いを始めた。もちろん人によってはまだ魔法士を招いていない家もあるだろうが、近いうちには習い始めるだろう。
ただあの娘は早かっただけのこと。
「ケロイ侯爵令嬢。伝え方には気をつけてくれるかな。どのような伝え方なら相手が不快にならないか考えて欲しい」
君のあからさまな貶めるような発言は受け入れられないよ、と言外に告げればユリエ嬢は顔色を変えて頷いた。
……これ以上は口にしない所から察するに、テリーモが口にしていた“私が発言した噂”とやらは、あまり広まっていないのかもしれない。……とはいえ調べる必要はあるけれど。
ーーこの件について、後に父上が密かにテリーモの父親である兵部大臣を呼び出して確認を取ったところ、私とあの娘との婚約が決まってすぐの頃から私が度々アザーに婚約について文句を言っていたのを見かけたことがある、と言ったらしい。
確かに私は人が居ないと思い込んで自室だけではなく王城の廊下などで言葉を溢していたな、と父上から伝えられて俯く。
どこで誰が聞いているか分からない、というアザーの諫言は、ここで証明された。
噂になっている、と言ったのは、私の言葉を聞いてお咎めがあるかもしれない、と打算的な考えが働いたテリーモの言い訳に過ぎなかったようだ。
……つまりこの件で私が不用意な発言を軽々しく放ったことが原因だ、と父上と母上が大層お怒りで王城の自室に暫く謹慎していろ、と父上から命じられた。……大人しく受け入れた。
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