よん。
あの後、治療魔法の方は初級・中級・上級全てにおいて無駄なく魔法を発動して師匠から合格をもらい、自信を持って魔法士の資格を取りに行こう、と言葉をかけてもらって……そして私の八歳の誕生日を迎えた。
「殿下。お久しぶりです」
三ヶ月前の交流会以来なので間違いじゃない。殿下の誕生日は三ヶ月前の交流会のおよそ二ヶ月近く前。登城してプレゼントを渡しに行くと嫌々受け取ったと思ったらお礼も無くさっさと帰れ、とばかりに身を翻す。ちなみに私はきちんと自分で受け取るけれど殿下は従者に受け取らせる。……どれだけ嫌われているのか分かるというもの。
まぁ、六歳の誕生日も七歳の誕生日も白いリボン型の髪飾りの時点で私の好みなど覚える気がないのか、誕生日プレゼントなど適当でイイ、と思われているのだろう。
私は黄色が好きだと五歳の時点で伝えてあり、その後直ぐにきた六歳の誕生日で白いリボン型の髪飾りだもの。しかも二年連続で全く同じ物。物に罪は無いけどちょっとどうなの、と思う。せめて色違いにすればいいのに。
貰う髪飾りは、黄色もピンクも水色も赤も黒も青も紫も緑も……と色だけでも豊富にある。
当然、どこのお店の物か、私も知っている。
王家御用達の王女殿下お気に入りの雑貨店。
殿下がそこでいい、と決めたのか、殿下に丸投げされた従者さんがそこに決めているのか、そこまでは知らないけれど。
王女殿下は殿下の姉君に当たられる方。他国の第一王子殿下との婚約が既に決まっていて殿下の四歳年上で成人したと同時に婚姻される予定。
その方のお気に入りの雑貨店だから可愛い物ばかりだし、王女殿下がお気に入りということで流行でもあるけれど。
残念ながら私の好みではないのよね、リボン型の髪飾りって。同じお店の花型の髪飾りの方が好き。物に罪は無いから有り難く貰うし、時々は使うけど。
殿下に会う時は気を遣って二回か三回くらい使用したけどね。
私は、一応でも婚約者だから、殿下の八歳と九歳と十歳の誕生日プレゼントは頭を悩ませて選んだよ。
好みが分からないから余計に。
だって何色が好きなのかも何が好きかも何も話さないのだもの。
だから無難かもしれないけど、八歳の誕生日にはお父様経由で陛下に尋ねて殿下がその時好きだったらしい緑色のガラスペンを。
九歳の誕生日プレゼントは青が好みになったらしいので青く染色されたハンカチセットを贈っている。
このセットはお母様発案。
濃い青・淡い青・その中間の青と濃淡のグラデーションの四枚がセットになっているの。
領地で濃淡やグラデーションに染色した絹糸で織られたハンカチセットで、王家への献上品は織る前の絹糸そのものを献上して王家お抱えの織物職人が作ると思う。
そして先日の十歳の誕生日プレゼントは、やっぱりお父様経由で陛下から聞いたのが勉強の合間に伝記物の本を読んでいるということなので栞を贈った。好みの色が緑に戻ったようなのでエメラルドという宝石をアクセントにした栞。
全部、お父様経由で陛下に聞いて準備している時点で、殿下が何も話さないことが分かるよね。それでも苦心して贈っている。使っているのかまでは知らないし、お父様に尋ねたこともないけど。
婚約解消が出来ないのならせめて嫌われている状態を改善したいじゃない。だって子を作って産むことがこの婚約の最大の要なんだから。
だから苦心しているんだけど多分殿下にこの苦労は分からないのだろう。分かってもらおうとは思ってないけど自分で受け取るくらいしてくれてもいいのにね。
まぁ私の予想では、これだけ嫌われているのだから贈り物として包装されている、その包装紙すら開けられていないまま、何処かに保管されているのではないか、と思っている。予想が当たっても外れてもどうでもいいので知らないけど。
そんなことを思い出しながら久しぶりだと挨拶した私のことを相変わらず嫌そうに睨みつけながら、今年も従者経由でプレゼントを渡してくる。別にいいけどね。
というか、私が登城した理由も尋ねて来ない辺り、私が嫌いだと思っていたけれど実は無関心なのか。まぁどちらでもいいか。もう三年になる。諦めもする。
私がプレゼントを従者の方から受け取ると直ぐに踵を返した。……うん、いつも通りだねぇ。従者の方は毎年申し訳なさそうな顔をしてる。
それにしても十歳になってもコレなのか。今も婚約解消を狙っているのかもしれないけど、陛下の命だよ? 無理に決まっているよね。私は呆れて溜め息をついてから少し離れたところで待っていてくれた師匠の元に戻る。
「何をもらったの?」
師匠に問われて、今年も同じ髪飾りかなぁと思いながらも包装を解く。二年連続で見た大きさの箱が今年も。蓋を開けると色も形も変わらない白いリボン型の髪飾りが出てきた。さすがに三年連続で同じプレゼントをもらうとなると、ちょっと溜め息を吐く。
「ある意味でブレないね、殿下」
師匠は私の溜め息に苦笑してそう溢した。
「そうですね」
「まぁ試験前に会って肩の力が抜けたでしょ。さぁ、本番だから頑張ろう」
師匠は予想通りだったプレゼントを見て、脱力した私にそんなことを言う。……なるほど。見方を変えれば確かに肩の力が抜けた。そう考えると予想通りで良かったのかもしれない。でも来年以降の殿下への誕生日プレゼントは頭を悩ませないで毎年同じ物にすればいいや、と決めたけどね。
だって三年頑張ったもの。それでも殿下はこちらの歩み寄りを無視しているんだから私だって歩み寄るのを止めたっていいじゃない。
そうして師匠に手を引かれて私は魔法士の試験会場へ足を向けた。
お読み頂きまして、ありがとうございました。