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君逝く朝に  作者: 杉山薫
第三部 別離 第一章 小林さくら編
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第一話

 修学旅行から一ヶ月近く経った十二月初めのこと。


「そういえばもうすぐ誕生日だけど、どうすんの?」


貴子叔母さんが私に訊いてきた。


「貴子叔母さんがプレゼントくれるなら、もらってあげてもいいよ」


私の言葉に呆れ顔で貴子叔母さんは言った。


「バーカ、あんたの誕生日じゃないよ」


「バカって言うやつがバカ!」


「恋人の誕生日を忘れる女はバカじゃねえのか」


恋人って橋本君のことだよね。

そういえば、橋本君の誕生日っていつなんだろう。


「なんで貴子叔母さんが橋本君の誕生日知ってんのよ!」


「前に話題にあがったんだよ」


「いつ?」


「ずーっと前だよ」


ずっと前をやけに強調するな。


「違うよ、橋本君の誕生日だよ」


私の言葉に貴子叔母さんは苦笑いをする。


「あんたと一緒だよ」


私と一緒?

そんなわけねえだろ!


私はスマホを取り出し、橋本君にラインする。


『誕生日いつ?』


橋本君から返信がきた。


『十二月五日だよ。どうしたの?』


本当だ。

私と一緒!

なんで貴子叔母さんが私の恋人の誕生日を知ってんのよ!


私はすぐに返信した。


『私の誕生日も一緒』


即座に橋本君からの返信がきた。


『笑』


どういうこと?

てか、誕生日あさってじゃない。

どうしよう。


 翌日、私が登校すると橋本君はすでに自分の席に座っていた。


「おはよう、どうしよう。誕生日、明日だよ」


私がそう言うと、橋本君は苦笑いをする。


「別に気を使わなくてもいいよ。ボクの誕生日なんて」


「だから、明日は私も誕生日なんだよ」


橋本君は私の言葉に黙り込む。


「私だけの誕生日だったらどうでもよかったんだけど、二人の誕生日ってなると話は別だよ! だって二人の記念日なんだから」


「ごめん。ネタだと思ってた」


まあ、そうだよね。

私も貴子叔母さんの言葉を最初は信じなかったからね。


「あさっては土曜日だから別にお泊まりでもいいよ。ラブホにする?」


「らららラブ⋯⋯。高校生は行っちゃいけないんだよ」


マジメか!

ま、そこがいいんだけどね。


「じゃあ、うちでお泊まり会する?」


「えっ?」


私の言葉に橋本君はドキッとした。


「私の部屋で一緒に寝るだけなんだけどね」


橋本君は耳まで真っ赤になって黙り込む。


「てか、平日だから⋯⋯。そうだ! 新都心のイルミでも見に行こうか。やってるかな?」


私はスマホを取り出し、検索し始める。


「あ、やってる。じゃあ、コクーンで夕食取ってからイルミ見ようよ」


私の言葉に橋本君は黙って頷く。


「その後、レイトショー観ようか」


終電なくなれば、橋本君も諦めるよね。


「多分、レイトショーの前の回でも観れると思うよ」


ちっ!


「じゃあ、明日は私服も持って⋯⋯」


ん、ちょっと待て!

制服放課後デート。

そっちがいい。


「いや、制服のまんまでいいや」


私がそう言うと、橋本君は不思議そうに頷く。


制服放課後デートができるのは、あと一年ちょっとしかないんじゃあぁ!


 翌日の放課後、私と橋本君は学校を一緒に出て駅に向かった。


「そうだ。私はカバンを家においていくから、うちに寄っていくね」


私がそう言うと、橋本君は黙って頷く。


うちっていってもお店なんだけどね。


お店に入ると貴子叔母さんが暇そうにお店のテレビを観てた。夕食の時間帯にはまだ早いから暇なんだけど。


「あら、おふたりさん。仲いいねえぇ」


貴子叔母さん、笑い方が下品だぞ!


「カバン、置いておくから」


私がそう言うと貴子叔母さんが親指を立てて、こう言った。


「橋本君と一緒だったら今日は帰ってこなくていいよ!」


だから、笑い方が下品だって、貴子叔母さん。


 私たちがさいたま新都心駅に到着したのは十七時くらい。イルミネーションが始まったばかりの時間だ。


「綺麗!」


ここぞとばかりに、私は橋本君の腕に抱きつく。


「う、うん」


橋本君は真っ赤になってる。


そろそろこの位慣れてくれないと次のステップにいけないんだけどね。

ちなみに恋愛未来日記は南さんからあの話を聞いてから封印している。

別に信じてはいないけど⋯⋯。


「なんか恋人たちの聖地みたいで素敵!」


私は元々は陰キャの偽ギャルなので、こんな時にギャルがなんていうのかわからない。

もっと貴子叔母さんからお教えてもらっておけばよかったな。


ぐうギュルギュル!


こんな時に私のお腹は鳴る。


「なんか軽く食べようか」


橋本君は私を食事に誘う。


穴があったら入りたい。


「じゃ、フードコートで⋯⋯」


私がそう言うと、橋本君はフードコートに向かって歩き出す。


「ここってよく来るの?」


「ああ、映画を観る時はだいたいここで観るので⋯⋯」


なんだ、橋本君の方か詳しいんじゃん。


私はオシャレにクレープ、橋本君はボリュームのある肉丼を買った。


肉丼美味しそう。


「せっかくだからシェアする」


橋本君はお皿とお箸をもらってきて、お皿に肉丼を取り分けてくれた。


うんまい!

橋本君はやっぱり優しいなぁ。


その後、一緒に映画を観た。なんてタイトルかも覚えてない洋画⋯⋯。アニメの方がよかった。


 映画も観終わったので駅へと向かう。私はイルミネーションの中で橋本君の腕につかまり足を止め、何度も自撮りする。


「小林さん、早くしないと終電なくなっちゃうよ」


「え、終電。なにそれ?」


最初から帰る気はない。


橋本君はスマホを取り出し終電を検索し始める。


「まだ間に合うから急ごう」


そう言う橋本君に私は抵抗する。


「そんなにラブホが嫌なら橋本君の家に泊まる。じゃなきゃ、私は野宿する」


「野宿って、それはダメでしょ。ラブ⋯⋯も。ボクの家でいい」


橋本君の言葉に私は何度も頷く。


帰りの電車の中で橋本君から誕生日プレゼントをもらった。陰キャな私が身内以外から初めてもらったプレゼントはハートのネックレスだった。

私はというと、すっかり忘れてた。


最寄りの駅に着くと橋本君のお父さんが車で迎えにきていた。


「はじめまして、小林さくらです。龍之介君とはお付き合いをさせていただいています」


私がそう言うとお父さんは苦笑いをする。


「初めてではないんだがね。龍之介をよろしく頼むよ」


初めてではないって、どういうこと?


家に着くと橋本君のお母さんも出迎えてくれた。


「はじめまして、小林さくらです。龍之介君とお付き合いさせていただいています」


私がそう言うとお母さんも苦笑いをした。


「初めてじゃないけどね。大きくなったね。さくらちゃん」


どういうこと?


 私は橋本君のベットに、橋本君はリビングで寝ることになった。恋人がいつも寝ているベットに寝るって。今日は緊張したせいか私はすぐに床について電気を消した。


なんだろう?

橋本君の机の方から灯りが漏れている。

スマホ?

心なしか男の人の声が聞こえるような気がする。


私は確認しようと起きようとする。


動けない!

声も出ない!

これって金縛り⋯⋯。


私はそう思った瞬間、眠りに落ちた。


その夜、私は夢を見た。不思議な音のない夢だった。


ここは⋯⋯。

学校のポプラ並木の前で見知らぬ男の子とレジャーシートを敷いてお弁当を食べている⋯⋯。

この男の子はホテルで見た夢の男の子のような⋯⋯。


私はそこで目が覚めた。

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