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第54話 そ、それはキスというやつでは?

「でもね、ひとつだけ気になる表現があったんだ」


「どういう内容だ?」


 正直モノがモノだけに、どんなことを言いだすか若干の不安を感じる。

 書物から得た知識だけを基に語る人間ってのは時折危ういものがあるからな。


「あのね……恋人同士が……。口と口をくっつけて……」


「……!」


 まさかアレのことを言っているのか! 彼女なんていたこともない俺にとってはもはや都市伝説に近い、恵まれたものにだけ訪れるという神の祝福!


「そ、それはスキという言葉を反対にしたものか?」


 ダメだ。単語そのものを直接言うなんて、俺には刺激が強すぎる。

 神聖なる男女の関係に関する単語を口にするなんて、俺には畏れ多いんだ!


「うん、そうキスのこと。お兄さんとキスすることを想像したらね、胸がドキドキして顔が熱くなっちゃうんだ」


 そのまま言いやがった!

 ううむ、無知とは恐ろしい。多少照れてはいるものの、ここまであけすけにその単語を口にできるのはその行為が持つ本当の意味を知らないからこそなんだろう。


「考えてみたらお父さんとお母さんもたまにしてたなって。口と口だけじゃなくてほっぺにしたりもしてたけど、その時の二人はとても仲が良くて幸せそうだった」


 そうだよな。ワナビの両親だって子供まで作ってるんだから、仲が良くて当然だよな。古い言葉で言うリア充だな。

 少し羨ましいと思ってしまうということは俺もそれを求めてしまっているのか?

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