89 大集合②
「お前、ではなくリコリスです」
私は出来る限りの笑顔を作り、ガゼロに言った。
後方からは笑いを耐えるような爛論の声が聞こえるけれど、前方は全然状況が違った。ガゼロは私の反応が面白くないのか、目をもっとつり上げている。
「リコリス……、俺と話せ。お前の嘘を暴いてやる」
ガゼロの目がより野獣らしくなった。足を組んで不機嫌そうに座っていても、どことなく育ちの良さが滲み出ていて様になっている。
「私の話よりも、ガゼロ……様は目を見て判断するのでは? 嘘かどうか分かるのでしょう?」
そう言葉を返すと、ガゼロの眉がピクッと動いた。踏ん反り返っていた姿勢を急に正し、組んでいた足も地面におろす。視線だけは私に向けられたまま、沈黙が流れた。
性格は一癖も二癖もあるけれど、攻略対象者は、皆優しい。
人喰い植物に襲われた過去を思い出すと、ガゼロの優しさも一緒に思い出した。思わず頬が緩む。
ガゼロはそんな私を驚いたような目で見た後、あからさまに顔を背けてしまった。
「……でいい」
「はい?」
「呼び捨てでいい。敬語もいらない」
うん、残忍酷薄の王は残忍ではない。思いやりもあり、むごたらしくない。
「ガゼロ」
「何だ?」
「あ、呼んだだけよ」
「チッ、紛らわしい」
そんなツンツンな態度も耳を赤くして言われては、痛くもかゆくもなかった。
前回と前々回の終幕の時、私にチョーカーを付けたのは、ガゼロだ。引き金役のガゼロ。その話を聞いても、私と壁を作らずに話そうとしてくれているガゼロの事が、とても嬉しかった。
ふと気配を感じる。
私から見て直角の位置に座っていたアラトマが、瞬間移動してソファの後ろへやって来た。ガゼロと私の間から顔をひょっこりと出す。
場の雰囲気を壊す事なく自然に入り込んでくる。わざわざその場に合った仮面に付け替えてくるあたり、良く周りを観察していると思った。
「良いなぁ、楽しそうで。俺も入れてくれる?」
「ええ、良いわよ。それでアラトマ様は……今はどんな仮面を被っているのかしら?」
リーナが先程淹れてくれた果実茶を飲んでから、そう聞いてみた。確実に仲間に引き込むために、もう出し惜しみしない。直球勝負でアラトマを攻めていく。そんな私の挑発に、アラトマはにやりと笑った。
「本当だ……。今日初めて会うのに知っているんだね、その事」
「ええ、そうね。貴方とは深いお話もしたと思うわ」
「へぇ。でも、俺はキミが過去をやり直しているのだとしても、無条件に手を貸せないなぁ」
アラトマは回りくどい言い方をしたけれど、それも計算済みだった。
「……アラトマ様は今から1年後に、ロゼス様と契約を結ぶのよ。ロゼス様の力に惹かれて。その称号でロゼス様の事全てが知れるのは、凄い才能だわ」
「うん、だから?」
「アラトマ様が手を貸してくれると嬉しい」
「ふーん。じゃあ賭けをしよう。ペテロ帝国の皇子は3年後に聖教王都学園へ入学する。そいつを仲間でも恋人でもいいけど、引き込めたらリコリスの勝ち。負けたらリコリスは下僕になって、何でも俺の言う事を聞く。そのくらいのご褒美良いよね?」
「はあ…………?」
気のせいかしら? 昨日からユラを初め、ご褒美ご褒美とうるさく言われているような気がする。ご褒美を貰いたいのは私なのに。私だってまだご褒美が足りなくて飢えているのに。
貴方たち何なのよ、もう!
お腹に力を入れて、そんな風に叫びたい思いをぐっと堪える。でもまあ、ご褒美が欲しいという気持ちは嫌でも分かるから、他人事には思えない。
「愛が勝つっていう所、見てみたいな。本当にそんなものが存在するのならね」
それは人の心を弄ぶゲームの提案だった。愛を知らずにして育ったアラトマの環境を考えると、分からないでもない。どう答えるか考えあぐねていると、私よりもガゼロが口を開いた。
「おもしれぇ。アラトマとのゲームが終わったら、俺も賭けをしてご褒美を貰いたいものだな」
アラトマの発言に触発されたのか、ガゼロの目は生き生きとしている。爛論はそんな2人を侮蔑するような目をして、重い溜息を吐いた。
応接室は今、こんな感じでとても賑やかだ。
本来客人を招くこの部屋は、威厳があり落ち着ける静かさがあった。調度品もより質の高いものを置いている。時間を感じさせる事なく話が出来るようにと、時計も取っ払うという工夫もされていた。
そんな応接室が、今は私の手に負えないカオスな状態にある。
ふと、反対側の席に目を遣ると、ユラとアカネイラ先生とリーナは、穏やかそうに話をしている。
――――ああ、あそこはきっとカオスの中の癒しスポットだわ。
現実逃避をしたくなる。けれど、いつまでも返事をしないと物語は進まない。
「……分かったわ」
私は渋々提案を受け入れた。
「リコリス……良いのですか? ロゼスは感情を希薄にして3年後に入学します。そのロゼスを仲間に引き入れるのは、一筋縄ではいかないでしょう」
爛論がこっそり耳元で囁く。
そんな事は百も承知だわ。でも、どの道私はロゼスとの関係を諦めるつもりはない。
腹をくくり覚悟を決めて爛論を見ると「私も場合によっては邪魔するかもしれません」と満面な笑みを向けてきた。
――――何て?
「じゃあリコリス、これからよろしくね。提案を受け入れてくれたから、俺の事も呼び捨てでいいよ。もちろん堅苦しい口調もなしで」
「わ、分かったわ、今後はアラトマって呼ぶわね……」
「アラトマとの賭に負けるんじゃねぇぞ。俺とのゲームが控えているからな」
「あははは……」
真面目に答えていたら、キリがない。私は笑って誤魔化した。
会話の区切りが付いたところでガゼロと爛論はソファから立ち上がった。
そろそろ帰るのかしら。やっと解放されるわ。
思わず安堵の溜め息をついた。
「クスッ……。今日のところはこれで失礼します。ですが、30日程はステラ島やモナス島国にいますので、何かあったら呼んで下さい。港に停泊している船には護衛がいます。その護衛に声をかければ、事情が私たちにも伝わりますので」
「え? 30日間も泊まる? どこに泊まるのかしら……?」
「宿泊所に決まっているじゃないですか。国には一応ステラ島の観光目的、兼視察と伝えてあるので、ご心配なく。貴女のベッドを貸していただけるのなら、遠慮はしませんが」
爛論がさらりと告げる。
もう何も言わないでおこうと思った。
冗談を言い終えると、ガゼロと爛論は挨拶もそこそこに切り上げて帰って行った。リーナと私のお見送りにも拒絶をする。
「リコリスにはまだ話す相手がいるのだから、見送りはいりません」と効率を重んじるところは、いかにも爛論らしかった。
ガゼロと爛論が部屋を出てすぐに、アラトマが声をかけてくる。
「帰るつもりだったけど、思いの外楽しそうだから俺も30日間泊まる事にしたよ。あ、港にある俺の船には近付かないでね。反射的に殺しちゃう付き人がいるから。用があるなら待ってて。俺から出向くから。じゃあね」
「ちょっと待――――ってもう!」
手短に用件だけを話して、瞬間移動をして消えていった。物騒な言葉を私の頭に刻み付けて――。
こうしてガゼロ、爛論、アラトマは嵐のように去っていった。
「一体なんだったのよ。停泊? 30日間も? 訳が分からないわ。せめて相談くらいしてくれてもいいじゃな~い!!!」
今更ながら怒りが湧く。あまり大声を出す事をしない私が、こればかりは心情を吐き出さなくては気が済まなかった。
島では噂は一瞬で広がる。なんならもう知らない人はいないくらい、噂は広がり切っているのかもしれない。噂は人伝に形を変えて、今はどんな噂が広まっている事か、想像しただけで恐ろしい。
しかも、こんな小さな島に30日間も滞在するときた。港にも馬鹿でかい船を停泊させておいて。
王族達のやる事はよく分からないと思いつつも、考えるだけ無駄という結論に至る。
なんなら前向きに考えるべきかもしれない。王族や兵士、護衛は島で買い物をするだろうし、島の人の暮らしが豊かになるわ、くらいに思っていた方が精神的にも余程いい。
残っていた紅茶を全部飲み干すと、少しは落ち着いた。
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