78 死亡フラグに殺される日~前半②~
この次から後半、シリアス展開になります。ブラバされるのではと思うと筆が進みませんでした。少し迷っているので、更新が遅めになります。すみません。
ロゼス曰く、ペテロ帝国では、大事な一戦の前には身を清めるらしい。そういうゲン担ぎをする所を否定する気はない。むしろ非情で冷酷無比と名高い皇族が支配するペテロ帝国でも、そんな事をするのだと思うくらいには吃驚した。
――――こんな状況でお風呂と言われて、流されてここまで来てしまったけれど……。
ロゼスたちがいる特別寮は、一般寮とは全てが違っている。外装だけでなく内装も規格外だ。それはもちろんここバスタブ部屋も例外ではなく……。
「温かいわ……」
乳白色の湯に浸かると、足のつま先がじんとした。
私は今、物凄く広いバスタブに浸かっている。もちろん一人で。ロゼスに上手く丸め込まれたような気がするけれど、くよくよ悩むくらいならと提案を受け入れた。
――――気持ちもいいし、私にはこういう時間も必要なのかもしれないわ。お泊りが最後の出来事だと思っていたけれど、これは「棚ぼた」ならぬ、「棚からご褒美」ね。
良い兆候だった。
ロゼス専用のバスタブはお湯加減も程良く、花弁が浮かべてある。広さ以外は本当に申し分なかった。ただ、このべらぼうに広い空間は、前世で庶民を経験している身としては落ち着かない。
「入るよ、リコリス」
寛いでいる私にそんな声が投げかけられる。冗談だと思っていると扉が開いた。
「え!? 嘘でしょ、ロゼス」
思わず立ってしまった。
「「あ……」」
きゃあああ~~~!!
と叫んだのは心の中で、私は急いでバスタブに浸かり直し後ろを向いた。
――――見ちゃった。ごめんなさい、ごめんなさい……。
ロゼスの逞しい身体が一瞬にして目に焼き付き、私の頭を占拠する。ロゼスは隠す事もせず恥ずかしがる事もしないで、堂々たる立ち姿で私の前に現れた。あまりにもアレが立派だったから、数秒くらい動作が遅れてしまった事をお詫びしたい。アレを凝視してしまった事も合わせて謝りたい。
――――決して見るつもりじゃ……。
「ごめん、僕は見られても平気だけど、リコリスはそうじゃなかったみたいだね」
後ろからそんな声が聞こえてくる。
――――見られても平気ってメンタル神? ううん、そもそも何で一緒のお風呂に……。ロゼスの馬鹿。
「リコリスの裸、見るつもりはなかったけど……」
「……だったらどうして一緒に入るのよ」
「それは、もちろん……。あ、少し待って。体先洗うから」
私ばかりが慌てふためいて、ロゼスが平然としているのが悔しい。皇族だから色々な経験があるのかもしれないけれど、この落ち着きっぷりは酷く凹む。どんな時でも正々堂々と振る舞えとか教育されているとしたら、帝王学的には成功かもしれないけど。
――――あ、女性の裸を見るのは初めてじゃないとか?
めくるめく想像をした後で、私はそっと思考を停止した。自分が悲しくなってくる。
「お待たせ」
「待ってない……」
後ろを向いたまま端の方へ移動する。前を隠しながら、そのまま外へ出ようと思った。
「待って」
私の腕を後ろからロゼスが優しく引くと、身体が反応して熱くなった。
「大丈夫、何もしないよ」
「…………」
してもらっても困るけれど、何もされないのも困ると言ったらロゼスはどう反応するのだろう。そんな意地悪な考えが頭を過ぎる。ロゼスの足にちょこんと座らせてもらいながら、私は聞いてみる事にした。
「何も……しないの?」
「して欲しいの?」
「ち、違うわ。そういう意味じゃなくて……」
「僕は他の野郎とは違う。取って食べたくても我慢するよ。これはリコリスへのご褒美だから」
「…………うん」
「今日の夜、リコリスが頑張るから……そのご褒美。前にリコリスも言っていたよね?」
その言葉を聞いた私は顔半分をバスタブの中に入れた。恥ずかしくて、嬉しくて、隠れてしまいたくなる。直ぐに息が苦しくなってやめたけれど、暫く顔を上げれなかった。
「ありがとう、嬉しい。でも、恥ずかしいわ」
「僕のお嫁さんになるんだから慣れてもらわないとね」
「……遠い未来の話よ」
「だからだよ。これから幾度となく僕は世界をぶっ壊すかもしれないし、その度にリコリスはやり直しをすると思う。運命に翻弄され続けるなら、その道半ばでキミが病んでしまわないように僕がご褒美をあげなくちゃ」
「ロゼス……?」
「だから諦めないでちゃんと僕の所に来るんだよ。良いね? 他の奴の罠にハマってみすみす奪われるような真似は許さないから」
「う、うん」
背中から並々ならぬ圧を感じながら私は返事をした。現金な女かもしれないけれど、こういうご褒美なら頑張れそうだ。本当は色々と考えなければいけない事があるのに、今だけはこの幸せに浸りたい。不都合な真実全部がお風呂に流れてしまえばいいのに。
「……リコリス、ごめん。理性の限界だ」
「え?」
「くそっ……」
顔だけ後ろへ向けると、そこには耐えているロゼスの顔があった。私が見ている事に気が付いたロゼスはプイッと顔を背けて瞬間移動して消えた。
――――さっきの顔、何だか色っぽかったわ。称号に隙を見せる前に消えてしまうなんてよっぽど……。
その後に続く言葉を自重してバスタブから出る。長湯はしていなくても身体も心もすっかり温まった。
――――ロゼスのあんな顔も見れたし、本当にご褒美だったわ。
「はぁ、ロゼスと結婚したいかも」
そんな本音がポロリ出た。
私の今の状況は、「思い出の花1」と「思い出の花2」を同時進行してる最中だと思っている。今から起こるエリューの事件は、本来なら「思い出の花2」の出来事だろう。
「思い出の花3」は、結婚物語だ。「思い出の花1」と「思い出の花2」を通して結ばれた攻略対象とその後のストーリーが展開される。言わば、おまけの物語。
だから今はどんなに愛し合っていても結ばれない。続きが最後まで出来ない仕組みになっているのだと思う。理性に負けて間違いが起きないような仕組み、とも言えるかもしれない。
ゴールはまだ遠いけれど、その続きのために私は後どれくらい頑張れば良いのか。それは神様しか分からないけれど……。
その未来を想像出来た事が、落ち込み気味の今の私には少し嬉しかった。
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