74 アカネイラ先生の手紙と不審な点
「そう言えば、アカネイラ先生からの手紙……」
放置されていたその手紙を手に取る。
――――今更ロゼスの部屋に行く時間が遅れても、たかだか5分程度の差よね。
その手紙を読んでいく事にした私は、数分程度で読み終えてしまった。でも、おかげですっかり忘れていた内容を思い出した。
「……そうだった。アカネイラ先生のこの手紙にも、あの手紙にも、私はまた納得が出来なかったのだわ……」
忘れていた感情が燻り、思わず手紙をぐしゃっと握りしめる。
やり直しする前の私は、アカネイラ先生へ手紙にこう綴った。
シラー・ペルビアナ号に乗る時に、眠り草の花粉を付けられた事。遅れて下船したら、外来凶毒種の人喰い植物に襲われた事。
そんな事を手紙に書いた。それから、眠り草の花粉を付けた人物について、身内も含め調べて欲しいと書き添えた。
それに対しての返事は、一言で言えば承諾の手紙だった。私も忙しくてその一件をアカネイラ先生に丸投げしていたから、それ以来何の音沙汰もなく物語は進んでいった。私も特に気にしていなかった。
その教訓を踏まえ、やり直し後の私は手紙の書き方を工夫して“手紙花”を送った。
リーナが私の肩に眠り草の花粉を付けた事、その現場にアカネイラ先生が訪れていた事、この2つの事を記した手紙に「仲間であるならば、真実を隠す事なく太陽のもとに」と書き加えた。恰も真実を全て知っているかのように綴ったのは、賭けをしたから。
それに対し、手紙の返事もあまりに粗末なものだった。
「――――探偵気分で、私が想像を膨らませ過ぎたのが原因かもしれないわね。アカネイラ先生は、物事の本質を見ろって言っていたのに。先生を失望させたかしら……。でも、この手紙には不審な点があったのよ」
火素の魔法で指先に火を付けて手紙を燃やす。皿の上で燃える手紙を見届けてからロゼスがいる特別寮へと向かった。
◇
小光玉の魔法で照らすと夜の粒子が逃げていく。影の跳躍を使えば一瞬で着く距離だったけれど、今日はそんな気分ではなかった。
ロゼスに早く会いたいという気持ちはあるものの、部屋を出る直前に見た手紙の事で足が些か重い。
それに「こんな夜にどうして会いに来たの?」とロゼスに聞かれても、それに対する答えを持ち合わせてもいないのに、その答えを考えるどころか、私はアカネイラ先生の手紙の事ばかり考えている。
――――不審な点、か。
私の知っている事実に対し、アカネイラ先生の返事はこうだった。
私よりも先に港へ行けたのは、リーナはただの使用人ではなく腕が立つ元暗躍者だという事。リーナが私に眠り草の花粉を付けたのは、お父さまの指示だと書いてあった事。監獄のような学園生活で初日は眠れない事もあるだろうから、せめて行きの船で睡眠を沢山取って欲しいと思い、リーナに指示をしたという理由も追記してあった。
船員になりすました理由は、お節介な事をして娘に嫌われたくないとの思いがお父さまにはあったとの事。内密に行って欲しいとお父さまから指示があったらしい。
この理由を不審に思ったリーナは、アカネイラ先生に先ず相談した事も手紙には記載してあった。アカネイラ先生とリーナは、私の知らない所でいつの間にか仲良くなっていたようだ。
これらの事は、私が納得出来ないと思っている手紙に書いてあった事だ。ここまでの内容なら不審な点はない。問題はその後だ。
『眠り草の花粉で良く眠ってしまい、遅れて下船しました。原生林の中を歩いていると、外来凶毒種の人喰い植物に襲われました。私はお父さまの罠に嵌められたのでしょうか? それとも、裏で誰かが糸を引いていて、お父さまにそんな事をさせたのでしょうか? アカネイラ先生、どう思いますか? 私は真実を知ってはいますが、先生の口から本当の事が聞きたいです」
腹を探るつもりで書いたこの質問文には、どういう理由か回答がなかった。
最初は返事をし忘れたのだと思い、もう一度手紙を送る事にした。でも、その質問文だけには返事を貰えなかったから、やっと書けない理由があったのだと気付いた。駄目もとで書けない理由を尋ねたところ、やっぱり返事はなかった。
――――今考えてもやっぱり不審だわ。それでいて真相が分からないから、考えるだけ不毛。しかも、時期をずらして同じ手紙を5通送っているのに、毎回返事が同じとか違和感ありまくりよ。
5通目の手紙を最後にして、私は手紙を出すのを止めてしまった。知りたい答えは粘ってもこれ以上貰えないのだと判断し、アカネイラ先生の手紙をサイドテーブルにポイっと放った。
「この学園から出られない限り、アカネイラ先生たちがどういう状況なのか探る手がないのよね」
縋るような思いで空を見る。今の私では出来ない事も、やり直し後の私なら出来るかもしれないと思いながら、天命を待つ命に想いを寄せた。
「次はきっと……」
前を見ると、特別寮がもうすぐそこに見える。
「…………あ! ロゼスに会いに来た理由、考えてなかったわ……。どうしよう」
恋愛経験が浅いせいか、真面目だからか、私には「会いたい」という想いだけで男の人の部屋を訪ねていいという考えはない。逆に、こんな夜に約束もなしに突撃するのは迷惑ではないか、とさえ思い始める。
――――理由、理由。当たり障りない理由は……。「死亡フラグにより死ぬ日」が近いから、思い出作りのために来ましたとか!?
なんとも冴えない理由を思い付いて、特別寮の中へと足を踏み入れようとしたその時だった。
「リコリス?」
読み終えて「頑張って」や「続きは?」と思った方は、ブックマークして下さいね。広告下の☆☆☆☆☆☞★~★★★★★にして評価宜しくお願いします。




