表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

74/138

73 時は金貨なり

相変わらず前回と変わり映えしない毎日を送っていた。



もちろん前回のやり方を踏襲とうしゅうして、お茶の時間(ティータイム)と称する戦略会議を私の部屋で行い、夜には暗躍活動もした。メンバーは、ロゼス、ガゼロ、爛諭、そして新しくアラトマ、テトラ、ルピが加わり、私を含めた計7人で大戦争回避のために奔走している。


でも、そこにユラはいなかった。考えられるだけの手段を講じたけれど、誘う度にお決まりの如く断られている。お茶の時間(ティータイム)や暗躍活動の参加は当然の事、それに至る“きっかけ”作りさえさせてもらえない。学生食堂で一緒に昼食を取るなんて事も1回もした事がない。前回出来ていた事も、今回は全く出来ていなかった。



温室の一件以来、ユラは頑なに口を閉ざしている。一言目には「ごめん」、二言目には「薬を作っているから、また今度ね」と断られてしまうのだ。1回目もユラの攻略を失敗していた私は、すっかり自信を無くしていた。






「攻略を失敗したのか、何かが足りないのか、どちらかしら……」


考え悩みながら、私はベッドの上で仰向けになった。自室で寛いでいると、どんなに頭を働かせていても気持ちの良い方へ身体がなびいていく。


温かい日差しがカーテンの隙間から射し込んで、私を眠りに誘った。すると、段々と現実が曖昧になって、景色と思考が記憶と混ざっていく。



その時に、私は懐かしい声を聞いた。


「惰眠を貪っている者には、決して幸せな未来など掴む事は出来ませんよ。リコリス様」


リーナの声に意識が引っ張られて、反射的に目が開いた。

視界は暗い。そう思った途端、すぐに明るくなった。




「リ、リーナ?」


そこには難しい顔をして、私からやや強引に引き剝がしたブランケットを持っているリーナがいた。


「リリス様が亡くなり、もう日数も経っています。ブランケットの中に籠るのはやめて、そろそろベッドから降りてくださらないと……」


「え……?」



周りをきょろきょろ見渡すと、ここがどういう場所かすぐに分かった。ステラ島にあるオーレア家の屋敷の中の一室、つまり自分の部屋だ。


私は夢の中で過去の記憶を見ているのだろう。先程のリーナのセリフは以前にも聞いた事があった。お母さまが亡くなり日数も経った頃、私を心配して掛けてくれた言葉だ。忘れるはずもない。気落ちして部屋に籠りがちな私に、リーナは言葉で愛の鞭を打ち続けてくれた。


あの頃の私は、お母さまの死期が近い事をよく知っていたから、心の準備をしていたはずだった。けれど、その準備も空しく心が折れてしまった時期が私にもあった。




「――――ますか? リコリス様」


「……えっと?」


「では、もう一度言いますね」


リーナはそう言って大きく息を吸った。


「いつまでそうしているおつもりですか? 幸せになるために努力するのでしょう? リリス様とお話していたではありませんか!」


叱咤激励の言葉が飛んでくる。リーナは涙を溜め込んだ目で無理やり笑顔を作ると、私の頭に手を乗せた。



――――ああ、そうだわ。あの時、リーナの言葉があったから、私は1年間の引き籠り生活をただ籠るだけでなく、有意義に時間を使う事が出来たのよ。何も分からなくても、拙いながらに魔法を覚える事が出来たのは、全部リーナの言葉のおかげ。言葉は傷付け合う道具だと思っていた私に、リーナは言葉の最高の使い方を教えてくれた。言葉は、人を励まし前へと背中を押してくれる道具だって……。



そんな記憶を夢の中で思い出して、ふと気付く。リーナが夢に出て来たという事は、私はまた立ち止まっていたのかもしれない。



「……心配かけたわね、リーナ」


「いいえ、リコリス様。ただ、まだ終わってはいませんから……。さあ行ってください。時は金貨なりですよ!」



――――金貨?





その言葉で私の夢が閉じていく。リーナの手が私の背中を押すと、意識は激流にのまれていった。押し流された光の先で、私は爽やかな気持ちのまま目を覚ます。



「うたた寝……していたわ。少しだけ夢を見てたような……? 懐かしくて忘れたくない夢だったのに……思い出せないわ」


薄っすらと記憶に残る夢を追いかけても、頭の中を打ち寄せる波に消されていく。でも、心の中は不思議と清々しい。大きな欠伸を一つした後、両手を上げて背中を伸ばした。それからベッドから降りて、まだ明るい窓の外を見る。



――――うーん、今日は何をしようかしら?



こんなにもゆっくりと自室で過ごす事を許されているのは、今日が休日だからだ。生憎、予定なんてものは入っていない。誘われる事もなかったのは、ガゼロ、爛諭、アラトマとはあくまで“仲間”として絆を深めたからだ。


他の攻略対象者の恋愛フラグにはほとんど触れないように接してきた私は、慎重に慎重を重ねて過ごしてきた。それでも私が主人公である以上、思わぬところでフラグは簡単に立つ可能性はあるけれど、自分なりに考えて行動してきたつもりだ。



気持ちはロゼス一択。でも、肝心のロゼスは「あの日」をおそれているのか、私を進んで誘う事はしなかった。教室棟へ一緒に行くという朝の誘いも、昼食時の誘いも全部私からだ。もちろん、私が誘えば毎回喜んで受け入れてくれた。


でも、私はそれを望んではいない。理由は、私からではなくロゼスから誘われたいと思っているから。そんな願望が私の中に渦巻いているから、ロゼスとの思い出作りは進んではいなかった。



「……だって私ばかりがロゼスに会いたいみたいで、それはそれで嫌なのよ。貴族令嬢の皮を被ってでも誘われたい。あ~、何だか私自身も、面倒な性格になってきたのかもしれないわ……」


自分の複雑な乙女心をどう処理していいのか分からずに頭を抱えた。


「欲求不満なんて……末期。はしたないわ。ロゼス不足で枯れそうなんて……」


扱い辛い乙女心を持て余していると、自分が乙女ゲームの主人公である事を嫌でも自覚する。少し前までゲームに向かい乙女心のままにはしゃいで、気ままにプレイしていたというのに、今では運命に翻弄される一人の少女だ。



「やっぱり……会いに行こうかしら。意固地になったって、何にも攻略出来なかったのだから……」


残り間もない自分の時間を意識すると、急に名残惜しくなった。自分の感情に心を搔き乱されてこのまま腐っていくよりも、ロゼスに会いに行こうと重たい腰を上げる。



「こういうの何て言ったかしら。確か……ザ・タイム・イズ・マネー(時は金なり)だわ!」



胸の奥にすとんと言葉が落ちてきた。今の私にしっくりくる力のある言葉だ。それから私は時間を有意義に使おうと思い直し、出かける準備をした。


朝からそのままずっと着ていたネグリジェを脱いで、クローゼットから服を取り出した。ピーロットで買い揃えた服の中から、お気に入りの服を数着取り出すと、鏡に向かい服を合わせる。


普段より顔や身なりを念入りに着飾り終える頃には、窓の外は暗くなっていた。部屋には、私が悩み抜いた証である服や小物で、少しばかり散らかった。それでも誰かのために悩み、着飾るのは悪くないと思える自分がいる。



「片付けは……帰ってからでもいいわよね」


部屋を見渡して、自分に言い聞かせた。その時に、サイドテーブルに置かれた手紙が目に付いた。

読み終えて「頑張って」や「続きは?」と思った方は、ブックマークして下さいね。広告下の☆☆☆☆☆☞★~★★★★★にして評価宜しくお願いします。正直な感想に飢えてます。『111回以上婚約破棄されましたが、まだ婚約者の座を死守しています』☞https://ncode.syosetu.com/n1599he/の方も読んで下さると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ