72 とある日の暗躍活動記録の裏で~ロゼスとガゼロ編②
決闘場は夜には施錠される。しかし、今日だけは違っていた。ロゼスは予め先生の許可を取り、施錠しないよう手配していた。
先に着いたガゼロは施錠されていない事を確認すると決闘場の中へ入っていった。誰もいない闘技場の真ん中で、静かに殺気を立てながら待ちあぐねる。
「遅せぇ」
赤の野獣には夜の闇がとても良く似合った。黒曜石の瞳に一筋の金色が現れると、余計に獣染みた姿になる。夜の太陽の光を夜雲が隠すと、残忍酷薄の王との姿に相応しい姿が垣間見れた。夜雲が流れ夜の太陽がガゼロを照らすと、影が地面に映る。その影はガゼロとは一致しなかった。影の頭には二本の大きな角が生えている。
そんな影を見つめてガゼロはフンと鼻を鳴らした。
急に風の向きが不自然に変わる。それは何の予兆もなしにガゼロに向かってきた。
「チッ、挨拶もなしにいきなりかよ!」
ガゼロは突進してくるロゼスから右方向へ避けると、そのまま攻撃へと転じた。その身のこなしの柔らかさは獣のそれと同じだった。灼熱の神炎を刃に見立てて、ロゼス目掛けて切っていく。神炎の刃を防いだのは、ロゼスを守るようにして地面から現れた鉱石の柱だ。
「またこれか……」
鬱陶しい、とガゼロが呟いた。
「……ガゼロ、怒っていいよ。でも、僕は攻撃は止めない。これは八つ当たりだから」
リコリスとの約束をキャンセルしなくてはいけなくなった事。リコリスが今日の暗躍活動を引き受けなくてはいけなくなった事。その事でロゼスはかなり怒っていた。しかし、その怒りの理由はそれだけではなかった。入学日にリコリスを通して見えたやり直しの記憶には、嫉妬で狂いそうな場面があった事をロゼスは覚えていた。
青い目が紅く煌めく。
「質問。ぺツィート王国では、どういう時に首輪を渡す?」
質問しながらも攻撃の手は緩む事がない。2人は普通に会話をしながら攻撃を続けた。
「首輪? チョーカーの事か? 答えが聞きたいなら吐かせてみろよ。皇子様?」
挑発するような発言をしたガゼロの目は、戦いを楽しんでいる目付きだった。興奮が増す度にガゼロの雰囲気が変わっていく。風貌も獣染みていく。
それはロゼスも同じだった。目は血のように紅く、髪は銀髪へと変わった。態度も言葉遣いも乱雑になっていく。
「戻れなく……なっても……いいのか……よ」
ガゼロは荒い息遣いでそう言った。
「それはお前もだろ? 先に獣に喰われろ」
一歩間違えば両者とも称号の力に喰われる恐れがあった。度胸試しのような危うい行動はさらに続いていく。ガゼロの神炎は手から炎が出ていたが、いつの間にか人間の姿ではなく、口から火を吐く双角の肉食獣になっていた。
「それがお前の本当の姿か」
神炎に身体を焼き尽くされながら、ロゼスは言う。ロゼスの身体は真っ黒な炭と化していた。焦げ臭い匂いが充満する。ロゼスの身体の中の水分は全部蒸発しているのだろう。しかし、ロゼスにとってさほどダメージを受けているとは言えなかった。
「……それだけ?」
挑発を挑発で返す。
「ガルルゥゥ――……」
ロゼスが手で払うと、炭はあっという間にボロボロと落ちていった。火傷の跡一つない無傷な肌が露になる。
「こんな弱くちゃ困るな……。お前には少し期待していたのに」
ロゼスはそう呟いて、指を一本立てた。双角の肉食獣はその指先をじっと見ている。一見何の変哲もない指の先には凄まじい力が集まっていた。
勝負は一瞬だった。
ロゼスは防御する事もなく、その指先を獣の目に押し中てた。獣になったガゼロは防御もしつつロゼスの腹に噛み付く。その開いた傷口の中に神炎を吐き出した。
両者は数分ほど痛みに耐えながら立っていたが、やがて倒れた。称号の力を攻撃ではなく回復に回している。
獣はやがてガゼロの姿に戻った。ロゼスの目と髪色も本来の姿を取り戻していく。暴れまわり冷静になった事で2人は称号の力を抑え込んだ。
「チッ。俺の負けか、手加減しやがって」
「殺したら聞けないからね。チョーカーの事」
「そんなに気になるか? あれはぺツィート国の王族が大事な人に渡すお守りだ」
「……男女間でも?」
「いや、男女間ならお守りの意味と、婚約の意味がある」
「ああ……、だからか。首輪を見た途端、無性に苛ついたのは……」
「? 見た事があるのか?」
ロゼスはガゼロの質問には答えなかった。以前見たリコリスの辿ってきた道を思い返しては拳を強く握り締めている。ガゼロはそんなロゼスを不思議そうに見ていた。
「ガゼロ、一つ忠告しておく。そのチョーカーを絶対にリコリスにはするな」
「へぇ? もしかして俺に取られると思ってるのか? ハッ、精神が脆いな、皇子様は」
「お前がリコリスにチョーカーを渡すと、リコリスが死ぬ。それはお前も不本意だろう?」
「どういう……意味だ? それは」
何も答えないロゼスに対しガゼロは睨み付けた。黒曜石の瞳に一筋の金色が現れると、「何企んでやがる」と吐き捨てる。
「さあ」
不都合な真実を隠してそれだけ伝えると、ロゼスはその場から消えた。八つ当たりをして気が済んだ訳ではない。むしろ蓋をした感情が燻り出して抑えるのが難しくなっている。
特にチョーカーの話となると世界を滅ぼしたくなるような感情に襲われた。チョーカーはトリガーにはなっているのだろう。ガゼロに警告を促しただけではロゼスの不安は払拭されなかった。
ロゼスの頭の中には、ガゼロがリコリスにチョーカーを付けなくてもきっと結末は変わらないという考えが根底にある。それでも出来る事は全てしたいというロゼスの願いは、夜の闇に溶けていった。
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