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5 ペテロ帝国の騎士と花紅柳緑(かこうりゅうりょく)の王との出会い①

第一章の物語はゆっくり単調に進みます。

長い橋を走り抜けると、そこはステラ島の双子島――モナス島国がある。モナス島国は、ステラ島がまだステラ島国だった頃から深い繋がりのある国だ。その繋がりは今も絶えることなく、互いの島の人々は家族のように想い合っている。


出入りが自由に許されている2つの島ではあったが、モナス島国はペテロ帝国の支配が他の小国に比べて強く、制限も多い。モナス島国でペテロ帝国の兵士をよく見かけるのは、当たり前の光景だった。




モナス島国へと続く橋を渡り終えると、左へ進んだ。道を阻むように立てられた低い柵を乗り越えさらに進むと、道はどんどんと細くなり景色は鬱蒼としてくる。


「今は平時でも、気は抜けないわね……」


不安が頭を過る。


モナス島国を支配しているペテロ帝国は、広大な領土を持ち周りの小国を支配下に置いている帝国だった。その国家を指揮するのは、非情で冷酷無比と名高い皇族だ。兵士もまたそんな皇族に倣って簡単に剣を抜くのだと知れ渡ると、モナス島国の人々はペテロ帝国の兵士を避けて歩くようになったと伝え聞いた。


太陽を遮るように枝を広げた木々の下を抜けて、枝分かれした小道を少し進むと、そこで足を止めた。紋章飾りを首から下げているので、遠くからでも一目で分かる。


「ペテロ帝国の兵士だわ……」


気付かれないようにそっと道を迂回したけれど、どの道を選んでもペテロ帝国の兵士にぶち当たる。


強国であるペテロ帝国の噂は沢山あり、どれも良い噂は聞かない。次の大戦争が起きるとしたら、ペテロ帝国の暴走が原因だろうとまことしやかに囁かれている。


「でも、普通の乙女ゲームじゃない所がこのゲームの“売り”なのよね」


弱点(マイナス)でもあるけれど。

歩きながらそんな事を考える。


わざわざこんな物騒なゲーム設定を気に入る乙女(ファン)がどこにいるのかしら? あ、だから乙女ゲーム界のマイナーなのね。 


少なくとも私には思い出深い大好きなゲームには違いないけれど、好き嫌いが激しく分かれるゲームではあった。


そんな「思い出の花」のゲームは、1~3まで発売されている。


「思い出の花1」のゲームが単なる恋愛攻略ゲームに対して、「思い出の花2」は血生臭い大戦争開幕の物語だと粗筋には書いてあった。どの国よりも先に隊列を成して、乱れなく行進の足音を刻むのはペテロ帝国だと書いてあり、物語の方向性を憂いた記憶がある。


「思い出の花3」は、結婚物語だ。「思い出の花1」と「思い出の花2」を通して結ばれた攻略対象者と、その後のストーリーが展開される。言わばおまけの物語。


生憎「思い出の花2」「思い出の花3」をやる前に生を終えてしまったから、詳しくは分からない。ただ「思い出の花1」の舞台も決して煌びやかな世界ではなく、それとなく漂う毒や死の匂いは付きまとっていた。その毒の正体が「思い出の花2」で明らかになると粗筋には書いてあり、攻略対象者の死を匂わせるような言葉書きが添えてあった。


それを考慮すると、平時だと思われる今も誰かが暗躍して命を狙ったり、裏で糸を引いていてもおかしくはない。元々、そういう物語だ。


――――うん、それがこのゲームの評価がきっぱり分かれた理由だわ。


攻略対象者が死ぬ可能性だなんて、乙女ゲーム歴が貧相な私でもあるまじき設定だって分かる。それでもこのゲームが好きなのだから、攻略するしかない。


そんな感想を添えつつ、今後、剣の切っ先を向けられる可能性がある事を覚悟した。




隠形(ハイド)


ペテロ帝国の兵士に絡まれないように、魔法を自分にかける。その効果は、自分の姿を隠してくれる事だ。


この魔法は、引き籠り生活をしている時に覚えた魔法だった。お父さまの書斎から魔導書を持ち出した所までは良かったけれど、上級の家庭教師ガヴァネスがいない私には、どれも難しい事で。

魔導書を無理やり解釈した結果、やっと拙い魔法が使えるようになった。


こんな魔法でも無いよりかはマシだわ。

ペテロ帝国の兵士をけて、透明になった身体で道を歩いていく。


「ん!? 何だ?」


すれ違った時に、スカートの透かし模様(レース)がペテロ帝国の兵士の足に触れてしまった。兵士は不思議そうな顔をして、辺りを見渡している。


大丈夫。魔導書を信じるなら、凝視されなければ私の姿は見えないわ。


そう言い聞かしても、体は緊張して足はもつれそうになった。手汗で手は汚れ、心臓の音は耳まで聞こえてきた。


何とか道を切り抜けると、少し離れた木の陰で体を休める事にした。足がスムーズに動くまで、汗が引くまで、心臓の音が小さくなるまで。何でもいいわ。緊張して疲れてしまったから。





しっかり休むと体の調子は良くなった。その場を離れようとした時――――。


「おい、待て」

「痛っ」


突然後ろから強く引っ張られた。乱暴に引かれた腕に痛みを覚え、すぐに後ろを振り向けなかった。威圧感が背中越しから伝わってくる。


気配なく私に近付いた事を含めて、その人のくらいがどれ程のものか分かってしまった。


――――厄介な人に捕まってしまったわね。どうしようかしら。


覚悟を決めて振り向くと、そこにはペテロ帝国の騎士の姿があった。


兵士の装備は、安物のような素材で作られた身軽に動ける軽装備。それに比べて、騎士は素材に拘った高級感のある重装備をしていた。それでも騎士の動きは軽快な足取りで、とても重そうな装備を身に着けている事など感じさせなかった。


顔は身体を完全に鎧で覆っているので見えない。ヘルメットのような鎧の被り物にバイザーを付けていて、頭部を完全に覆ってしまっている。


騎士の情報を読み取るために、私は上から下まで観察していく。


やっぱりこの騎士のくらいは、今までに会った人の中で一番高いわ。


噂通りのペテロ帝国の騎士ならば、私にいつその刃を向けてもおかしくない状況にある。

私のお父さまが「ゼツ」の位を持つ貴族であり、私がその令嬢であったとしても――――非情で冷酷無比な皇帝に仕える騎士ならば「自分より下位の貴族の娘」という理由で剣を振るうだろう。


位とは、それ程この世界では重要なものだった。


騎士であろうと貴族であろうと、その者の行い次第で位は変動し、上下関係は簡単にひっくり返る。下位の者は、上位の者の理不尽な行動を罪には問えなかった。問えるとしたら、それは支配者一族だけ。


そんな社会的地位を表す「位」は、大人になると与えられる。


この「思い出の花」の世界では、この「位」を表す言葉と4つの力、そして挨拶の仕方だけは国境を越える共通認識だった。


もちろん例外はある。


アンドーラ国は少し特殊で「位」が存在しない国だった。厳密には「治者」か「治者ではない者」という区別しかしない国だ。それ以外の事については、共通認識と差異はないとお父さまの書斎の本で読んだ。


名前に「位」を表す言葉がない人は、平民と皇族や王族、大公などだ。平民は名前に「位」がないのは、地位がないからだ。反対に、皇族などは名前に「位」を入れる必要がない。


平民を除いて、位の中で一番低い下位を表す言葉は「ロウ」だ。

私のお母さまは、リリス・ロウ・オーレアと言って、名前に「ロウ」の字が入っている。


お父さまは、以前はギルツァ・エン・オーレアと呼ばれていた。この「エン」は中間の位。


それからお父さまは努力を認められて、この前ギルツァ・ゼツ・オーレアとなった。「ゼツ」の意味は、高い位を意味している。


引き籠り時代に読み漁った書物には、「ゼツ」よりも高い位が最高位であると書かれていた。生憎あいにく、それが何かまでは記されていなかった。


お父さまの書斎の本棚には幅広い分野の本が取り揃えてあったが、どれも入門書ばかりだったのがいけなかった。深い知識を知りたい私にとっては、どれも中途半端で物足りない。それでも基本だけは押さえる事が出来た。


私の知識は浅くても、この騎士が最高位の持ち主だと分かるのはそんな理由が半分。もう半分は、このゲームの主人公たる私自身がそう強く感じているからだ。

読み終えて「頑張って」や「続きは?」と思った方は、ブックマークや広告下の☆☆☆☆☆☞★~★★★★★にして評価宜しくお願いします。

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