43 お茶の時間(ティータイム)①
目まぐるしい2日間とは打って変わって、比較的穏やかな日々が数週間続いた。
朝食を作り、歴史学の授業を受けて、昼食を食べる。それからまた歴史学の授業を受けて、一般女子寮へと帰る。これが私の毎日のルーティンだったりする。
変化があるとしたら、このルーティーンにロゼスやガゼロ、爛諭、ユラが加わる事があるくらいだ。昼食はロゼスと二人で食べたり、そこにガゼロや爛諭、ユラが加わるという形。
授業後には「お茶の時間」を設けて、ロゼスを私の部屋に招く事もあった。その時は必ず、ガゼロ、爛諭、ユラにも声をかけた。
「リコリスと二人きりが良い……」
――――うん、言うと思った。でも、攻略のためには仕方ないわよ、ロゼス。
残念そうに呟くロゼスを宥めて、ダークサイドに落ちないように気を遣い、お互いの親睦を深めようと配慮する健気な私。本当はアラトマも誘いたかったけれど、それはロゼスが頑なに拒否してしまった。理由を聞くと「今はまだはっきりと言えないから、そのうち話すね」と言われてしまった。
そんな理由で、まだアラトマとは話した事がない。
キナナとユートは誘うと必ず「予定があるから」と断られてしまった。取り付く島もない鉄壁のガードは、まだ攻略が進んでいない証拠だろう。課題の一つだった。
お茶の時間を設けてから、私は支配者一族を誑かす女として他の生徒たちから妬まれるようになった。“悪女リコリス”や“毒花女”と陰口を叩かれる。
確かに周りから見たら、男好きだと思われても仕方ない。私の部屋に連日、複数の支配者一族が入っていく光景は、確かに男を漁っているようにも見える。
――――うーん、私の中身は何にも変わってはいないのだけれどね。
前世の私は真面目過ぎる人生を送り、真面目過ぎてつまらないという理由で元夫に浮気された。それでもシングルマザーとなった私の取り柄は、真面目な事しかなかった。子供が巣立ってからは多少羽目を外す事もあったけれど、根っこは変わらない。
それは転生しても同じで、私はこの世界を攻略するために何年も前から努力してきた。その証拠に、私にも努力で得た称号がある。
謹厳実直の盾の称号――きわめて慎み深く真面目で正直な人に贈られる称号。
堅忍質直の盾の称号――何事にも我慢強く耐え忍び、飾り気がなく真っ直ぐな気性な人に贈られる称号。
四角四面の盾の称号――生真面目で、面白みに欠ける人に贈られる称号。
質実剛健の盾の称号――中身が充実して飾り気がなく、心身ともに強くたくましい人に贈られる称号。
主人公特権の見渡せる目の称号を除いて、私は全部で4つの称号を持っている。どれも私の人となりを表す称号だった。うん、分かってる。読み上げるのも面倒ですっ飛ばしたくなる程地味な称号だって。
他の生徒たちにも中身をよく見て欲しいと思ったけれど、都合の悪い真実に目を向けてくれる生徒は、誰一人としていなかった。
――――つらいわ。でも、攻略の最初はきっとそんなものよね……。はぁ。
「リコリス、どうした?」
ボーっと考え事をしている私の顔をガゼロが覗き込んだ。ロゼスも心配そうにこちらを見る。
「あ、ごめん。続けて?」
聞いていなかった事を悟られないように取り繕うと、爛諭は話を再開した。
――――そう、私たちは今、私の部屋でお茶の時間を満喫している。今日のメンバーは、ロゼス、ガゼロ、爛諭、それと私だった。
ユラは初めのお茶の時間以来、ずっと欠席している。何度も誘ったけれど、いずれも断られてしまった。きっと私は攻略を間違えてしまったのだろう。可能性として高いのは、塗り薬の持ち主探しをしている時の言葉や行動ミスだ。今となってはそう推測するしかないけれど……。
そんな自分への慰み物、ステラ島の果実茶を一口飲む。
「う~ん、最高だわ」
先程の気分が嘘のように吹き飛んだ。
3段のティースタンドには、手作りのペテロ帝国風「フラワーケーキ」とペツィート国の「ローストチキンサンド」とユリネス公国の「黒糖餡」を置いた。学園内にあるお店で材料を購入して私が手作りしたお菓子や既製品が、テーブルを華やかに飾る。
私たちはお茶の時間で、何も「うふふ」とか「あはは」と笑い合っている訳ではない。お茶の時間は建前で、本当は戦略会議だったりする。
お茶とお菓子は出すけれど、情報を交換し合ったり、腹の内を曝け出して信頼を築いたり、情報を共有して平和のために協力する事がこの会の趣旨だ。曝け出さなければ信頼を築けない支配者一族の事情を考慮して、表向きは華やかなお茶の時間、裏ではとことん気が済むまで探り合ってもらっている。
ロゼスが嫉妬しないためにこういう形式を取ったという理由もある。
私がロゼス以外の人を攻略中に、ロゼスが嫉妬してダークサイドに落ちて、完全無欠の王の称号の力が暴走なんてしたら、本末転倒、私の未来が遠のく。
――――きっとバッドエンドになるに違いないわ。この匙加減一つで、未来が変わる……。
そんな趣旨で開いたお茶の時間は、今日で記念すべき第3回目だった。
第1回目のお茶の時間はお茶を飲んで、お菓子を食べて、挨拶をして終わった。第2回目のお茶の時間は腹の内の痛い所を突き合って、決闘になった。学園の決闘場を借りてロゼスとガゼロは派手に殴り合った後、やっと2人共素直に「ごめんなさい」が言えるようになった。
それがきっかけで、お互い腹を割って話せるような関係になりつつある。
「――――という事です」
爛諭が一通り説明すると、ロゼスは言った。
「リコリスから聞いた時も思ったけど、こんな噂がペテロ帝国の市街地に出回った事がある。幻の毒は肉体を殺さず、精神のみ破壊すると……」
「実は、私も同じ事を考えていました。ユリネス大公国にも、人間を魔物に変える毒があると平民の間では一時期専らの噂でした。関係があるのか分かりませんが、調べてみましょう」
「……ぺツィート王国では、そんな噂聞かねーな。ま、俺が知らないだけかもしれないから、信頼のおける影にでも探ってもらうか……」
3人がそれぞれ意見した後、私も知っている情報を話した。
「3年前、お父さまの首に葉の模様が浮かび上がった事があったわ……。爛諭が見たものと同じかしら? このような模様だけれど……」
筆を取り、紙に丁寧に模様を書いた。3年前の事であってもこの模様をよく覚えている。夢でも同じ模様を見たのだから、すらすら書けた。
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