41 秘薬の効果②
「大丈夫。見えてないから」
私の意識に呼びかけるように、ロゼスは優しく言った。
「ごめん、こんな事されて僕の理性も限界なんだ。でも、おかげでリコリスがどういう状況なのか分かったよ。今、魔法を解いてあげる」
ロゼスは私の手を握り「繋がる」と言った。すると、私の意識と身体は繋がり自分の意志で身体を動かせるようになった。
ホッと胸を撫で下ろすと、涙が零れた。安心して泣くのは初めてかもしれない。その涙をロゼスは優しく拭ってくれる。
――――暗闇で見えなくても、きっとロゼスには分かっているんだわ。今私がどんな顔をしているのか、何をして欲しいのか、そんな事まで全部。
ロゼスは上半身を起こすと、私を怖がらせないように頭を優しく撫でてくれた。でも、ロゼスの手は先程から不自然に止まる。
――――あ、そう言えば「理性の限界」だって言ってた気がする。
「え、えっと……」
ロゼスの上に跨っていた事に気付いて慌てて移動した。暗闇の中だと分かっていてもあられもないこの姿は、今更ながらに羞恥心を煽ってくる。咄嗟に後ろを向いて、小さな声で「ごめんね」とロゼスに伝えた。
「……大丈夫。僕も順序を守りたい派だから」
「え……!? こ、心を読んだ……の?」
「称号の力で仕方なく、だよ? あんな事されたらさすがの僕も感情に隙が出来る。でも、もう制御出来ているから」
ロゼスはさらりと言った。
――――なにそれ、恥ずかしいわ。
後ろを向いて座ったままロゼスから制服を受け取ると、素早く着替えた。心を落ち着かせるために深呼吸もする。
「い、いつから……心が読めたの?」
「抵抗してよって所からかな? 僕が隙を見せたから、称号の力でリコリスの事が分かってしまった。好きな女の子にこんな事されたら、流石の僕でも冷静にはいられないからね」
暗闇でもロゼスが嬉しそうなのが分かる。
――――ズルいって思ってしまうのは私だけ? 不可抗力かもしれないけれど、ほぼ全部心の中を読まれていると思うと……。ぐぬぅ~。
身体は熱く火照り、心の中は吹雪いている。そんな不思議な現象が私の身体の中で起こっていた。でも、事の原因は私にある。
「そ、そもそも私が勝手に媚薬を飲んだのが原因だから、私にも非があるわ。ごめんなさい、ロゼス」
「いや、僕の方こそごめん。無視して悪かった。ちゃんと言葉で伝えるべきだったね。僕が無視してしまった原因、聞いていたかな?」
「意識ははっきりしていたから、覚えているわ」
嫉妬する原因にもなった事を、直接聞きたいと先程ロゼスは言っていた。その事を思い出して、私はやっとロゼスに向き合った。暗闇で良く見えもしないロゼスの顔をじっと見つめて言った。
「うん、ロゼスには全部話す。誤解されたくないもの」
周りを小光玉で照らすとお互いの顔が良く見えた。目が合うとぎこちない笑顔で私たちは笑い合った。
それから私は、これまでの事を一つずつ話した。全部を話すのに結構な時間がかかったけれど、ロゼスは真剣に聞いてくれた。私が話している間中、ずっと手を繋いで。
シラー・ペルビアナ号に乗ってから今起きた事までの全部を話し終えると、ロゼスは暫くの間黙ったまま空を見上げていた。何かを考えているロゼスの横顔はいつまででも眺めていられる程、素敵だった。
ふとロゼスが沈黙を破る。
「……確かに大戦争を止めるには、僕たちは圧倒的な数の差で不利だ。でも、未来の王と呼ばれる僕たち5人が友、仲間、同志となり手を取り合えば、可能性はあるか」
「うん、それに未来の王の支持者は多い方が良いわ。仲が良い事を示せば生徒同士の衝突も少なくなると思う」
「なるほど」
「仲間にキナナ・レーベルとユート・サーベルを付け加えて欲しいけれど、良いかしら?」
「……理由は?」
「諸々の事情を知っているような気がするの。何か大事な事を知っているような……。裏付けがあるわけではないけれど」
「分かった。リコリスには今まで通り、信頼を築き、仲間に引き入れるという大役をお願いしよう。僕はその間に情報を集める。それと、リコリスが誰と仲良く話をしていても、嫉妬しないように努力する。その代わり、僕がダークサイドに落ちる前に手早く引き入れてね」
ロゼスは余裕がなさそうな顔をした。そんなロゼスがたまらなく愛おしい。思わず顔が綻んでしまう。
「誰かを想い、嫉妬したり心を痛めたり、時にダークサイドに落ちてしまっても……。私はロゼスの一途さが好きよ。たくさんの花を渡り歩く裏切りの蝶は、大嫌いだけどね」
ロゼスの愛情は、称号のせいで狂気染みているのかもしれない。普通じゃない感情を向けられる可能性も秘めている。けれど、私はそれで構わないと思った。
ロゼスの事を知る度に感情が揺れる。それはロゼスも同じ。お互いを大切に想う気持ちが、同じ方向を見ている。
それに、困難にぶつかった時に、話し合いをして解決できるこの過程すら私には愛おしい。こんな私を好きになってくれてありがとうと感謝したい。
前世で簡単に裏切った元夫の事を私はやっと可哀相だと思えるようになった。あの男性は、一途に思い続けられる程の人に出会わなかったのだから。
――――まあ、許さないけどね。
「えっと、その……」
「うん?」
ロゼスは珍しく口ごもっている。顔が少し赤い。
「そんな風に言われるなんて思ってなくて、嬉しかった。ありがとう……。話を戻そうか。葉のような模様と毒については、僕の方でも調べておく。リコリスのお父さんの事も。ペテロ帝国にいる僕の信頼できる部下、ルカスに連絡を取ってみる。信頼の足る者にだけ、情報が共有出来るようにしよう」
「ルカス……。ルカス・ジュ・エネフィラ……。ロゼスの特別騎士ね。学園に気付かれないように連絡する手段が? 」
その名前を聞くと、心が騒めく。
「もちろん、機密だから今は言えないけど……。いつかは絶対話すからそれまで待って欲しい」
「……分かったわ。でも、最終目標は学園の生徒全員を仲間に引き入れる事よ」
私がそう言うと、ロゼスは頷いた。
「毒されてない限り、仲間に引き入れる努力はしよう。未来のために」
「うん」
話が上手くまとまり寮に帰ろうと歩みを進めたその時――――。
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