40 媚薬の効果①
それはロゼスがリコリスを発見する少し前の事――――。
媚薬を飲み干した私は、眩暈のような感覚の中で目を覚ました。
この感覚は、前世でも経験した事がある。安物のワインで酔っぱらって、視界がぐるぐる回る感覚とよく似ていた。その末路は死だったけれど。
――――でも、意識は前よりはっきりしてきたわ。爛諭に貰った恋に効く媚薬を飲んで、結果倒れた事を思い出すくらいには……。
やっぱり主人公はそう簡単には死ななかった。
ただ、意識がはっきりしているのにも関わらず身体はいつまでも他人事で、回路が切断されてしまったみたいに自分の意志で身体を動かす事が出来ない。言葉も話せない。
――――これが媚薬の効果? まさかね。副作用の可能性の方が高いわ。
色々考えていると、身体は急に立ち上がり、ふらふらと部屋の中を歩き出した。視界の揺れはいつの間にか落ち着き、周りが良く見える。
――――意識と視界を取り戻したけれど、身体が自分の意志で動かせないわ。どうしてかしら……?
準備運動のような部屋の徘徊し終えても、まだ身体は私のものじゃないみたいだった。
そんな私の身体は、今度は裸足のまま外へ向かって歩き出す。冷たい地面と足が重なると、石が足に刺さった。痛みを感じても足を止められない。
裏庭まで歩くと、今度は草が傷だらけの足を包み込んだ。草の踏み心地など気休めにしかならなかったけれど、今のこの状況ではそれだけでも幾らかマシだった。
――――こんなはしたない恰好でどこへ行くのかしら? 嫌だわ、こんな姿を他の人間に見られたら……。
自分に呼びかけても、身体は相変わらず反応しない。気持ちばかりが焦っていく。
――――どうしたら良いの……?
途方に暮れていると、私の名前を呼ぶ声がした。
「リコリス?」
聞き覚えのある声。この声はロゼス?
私の身体は引き寄せられるようにロゼスの方へ歩いていく。
心の中で慌てふためく私とは違い、身体は感情を表す事もなく淡々としていた。
「リコリス!」
ロゼスがこちらまで走って来て、私の身体を優しく抱き寄せた。それから「ごめん」と低い声で謝った。
「僕の嫉妬でリコリスを無視してごめんね。でも、覚えておいて欲しい。僕はリコリスが野郎の部屋に黙って行く事も、教室で2人きりになる事も嫌なんだ。あと、リコリスが何に巻き込まれているのか、それを僕に話してくれない事も同じくらい嫌だ。僕も大戦争を止めると約束したよね。だから、協力させて欲しい」
ロゼスは自分の醜い所を含めて、気持ちを吐露した。恰好悪い部分を恰好付ける事もしないで、曝け出した。その目はとても悲しそうで。
ロゼスの気持ちに応えたくて言葉を発しようとしたけれど、相変わらず声は出なかった。
「僕の完全無欠の王の称号の力は、厄介でね。僕の意志に関わらず、リコリスの事が手に取るように分かってしまう時がある。それは、僕の感情に隙が生まれた時。その時に称号の力は強まり、知りたくない事まで全部分かってしまうんだ。まるで神にでもなったみたいに。だから普段は付け入る隙を与えないために、称号の原則を支配しているつもりだったけど……。もう時間が……」
夜が落ちた。突然降ってきた暗闇に、私たちは驚く事なくその場にいる。この島が悪戯に時を早めた事をもう何とも思わない。むしろ、自分の意志では動かせない身体を隠してくれて有難いとさえ思ってしまった。
「リコリスの前では僕の感情はどうしても揺れてしまうから」
暗闇の中、ロゼスは優しいキスをしてくれた。ロゼスが私の唇から離れると、その時初めて声が出た。私の声だけど、私の言葉ではない声が――――。
「ロゼス、大好き。ロゼスに無視されて、とても悲しかったわ。ロゼスの事情はよく分かった。今日はずっと私といて。抱いて……」
――――へ? ちょ、ちょっと待って。誰か私の口、止めて! いきなり何を言い出すのよ……。
言葉が勝手にロゼスに伝えられる。私の許可もなしに大胆な言葉が口から飛び出すと、私は恥ずかしさで悶え死にそうになった。
身体は心や意識を無視して行動している。遂には、身体はロゼスを強引に草の上に押し倒した。
「リコリス?」
ロゼスは驚いたような表情を見せた。それもそのはず、私は普段の何十倍もの力でロゼスを押さえ付けている。
――――この力は、きっと媚薬のせいだわ。どうしよう、このままじゃロゼスを襲っちゃう!
ロゼスは抵抗もしなかった。
――――抵抗してよ、ロゼス。これ以上、私に黒歴史を刻ませないで。
心の中で泣き叫び、荒れ狂った。けれど、それも空しく私の身体は罪を重ねていく。
――――前世も現世も、真面目に生きてきたわ。真面目に……。
涙を拭おうにも、動かせる手など一つもなかった。出来る事は、声にならない叫びを心の中で吐く事だけ。
――――結ばれるなら、私は順序を守りたい派だったのに。こんなすっ飛ばしは、お断りよ。こんなのロマンティックでも何でもないわ!
そんな抵抗も空しく、私の身体は制服を脱いだ。私の意志に反して事は進んでいく。不幸中の幸いは、この島が空を夜に染めてくれた事だけ。
けれど、見えなければいいという訳じゃなかった。ロゼスを押し倒して、あられもない姿でいるこの事実だけで、どうかなりそうな程私は追い詰められていた。
――――ロゼスは一体どこまで見えているの?
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