38 恋に効く媚薬!?
爛諭と別れた私は、午後の授業の為に教室へと向かった。長い事話をしていたので、昼休憩の時間はあっという間に終わっている。急いで教室へ戻ると、リネロ先生は「もう来ないかと思いましたよ」と言って、安心したように笑った。
午後の授業が終わると、階段を下りて中庭へと急ぐ。その頃には空気に夜の粒子がたくさん舞って、薄暗くなっていた。
「今日は、時間が早くなったり遅くなったりしないと良いけれど……」
昨日は急に空が真っ黒になり夜になった。何も見えなくなってしまった中でロゼスと悪児ごっこをしたり、夜中に暗躍して情報を知る男たちを捕まえ、ガゼロに引き渡した。学園に来る途中では、人喰い植物退治もした。
思い返せば昨日は「大変」な1日だった事が分かる。でも、その「大変さ」はきっと「充実」とも呼べるのだ。だから苦ではなく青春。
中庭に着くと昼休憩の時とは違い、もう誰もいなかった。ロゼスに塗り薬の事を確認したいだけなのに、途方もないこの学園の広さに心が折れかける。何の能力も使わないと、この学園での人探しは不可能なのだと悟った。
それでも、夜になるまでは探そうと思い、ふと後ろを振り返ると丁度教室棟へと入っていくロゼスを見つけた。一瞬で生気が戻る。「運」が良い事も、きっと主人公特権かもしれない。私は笑顔でロゼスの元へ駆け寄った。
「待って、ロゼス」
ロゼスが気付いて私の視線とぶつかった。安堵するのも束の間、ロゼスはその視線を逸らし、教室棟へと入っていった。
「え……?」
――――今、目が合った気がしたけれど。勘違いだった? ううん、そんなはずは……。
たった一つのロゼスの動作に、心はあっという間に黒い靄に包まれてしまった。自信過剰だと思われるかもしれないけれど、ロゼスは確実に気付いていたと思ってる。女として長年生きてきた私の勘がそう告げている。
でも、ロゼスが無視したという事実を認めたくなくて、私は僅かな可能性の方へ現実逃避を図った。ロゼスは忙しかったのだと無理やり思い込む。
それでもやっぱり一度考えてしまうと、落ちるところまで考え過ぎてしまうのが私の悪い真面目だ。
重い足を引き摺り魂が抜けた酷い顔をして、私は一般女子寮へと帰った。
外用の靴を脱ぎ裸足のまま寝室へ入っていくと、着替える事もしないで大きなベッドに身を投げ出した。スカートにしわが付く事を気にしていられない程、心はズキズキと痛む。
「あれ?」
スカートの中の物が自分の足とベッドの間に挟まれ、私は違和感を感じた。
「そう言えば……」
ポケットに手を入れて、取りあえず全部を取り出した。
1つ目は、誰かが私の部屋に置いていった塗り薬。2つ目は、ユラが私の為に作ってくれた花形の容器に入った塗り薬。3つ目は、爛諭からもらった小さな瓶に入っている媚薬。
私は媚薬の瓶だけ残して、それ以外をまたポケットに戻した。
「効能が飲むまで分からない媚薬……か」
大人の女性のような雰囲気を纏う美しいその瓶には、毒々しい赤い液体が入っていて飲む気を削がれる。でも、飲まなければ何事もなく日常が過ぎていく事は明白だ。裏を返せば、飲んだら何かが起こる。さっきロゼスに無視された事が、変わるかもしれない。
「……飲んだら死んだりして。そういうまさかの死亡フラグだったら、笑ってしまうわ。それとも、攻略対象を二度と攻略できなくなる副作用があったりとか……? なんてね、こんなくだらない事を考える自分が大っ嫌い……。どうして無視したの? ロゼスの馬鹿……」
たった一つの事がこんなにも私を自暴自棄にしていく。まるで「月の物」が来る前のように、感情のふり幅は大きく揺れた。気に病むくらい好きになっていたから。
「……でも、私には飲む事以外の選択肢なんて無いのよ」
瓶の蓋を取って一気に飲み干した。
多少の事では死なない自信がある。
3年間の過酷な訓練の時、私はドラゴン探しの野宿生活で1回遭難しかけた事があった。その時に初めて「飢える」事の怖さを知った。食料も水もなく、身体と声と思考はどんどんと衰えていく。その時に初めて野草を食べた。その島には、図鑑にも載らないような植物がたくさん茂っていた。ドラゴンの棲む島だから、人が立ち寄らない。研究も進んでいなかった。
植物に詳しいと思っていた私は毒がなさそうな草を選んで食べたけれど、それが間違いだった。腹痛、吐き気、高熱に浮かされて、私は生死を彷徨った。でも、私はこうして生きている。
そして、気付いた。どんな物語だろうと主人公は至って丈夫で幸運なのだと。
「うん、だいじょう――――」
と言いかけて、私はベッドに倒れた。
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