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30 部屋の名前

一般女子寮の中へ入ると、管理室から背の低い腰の曲がったおじいさんが出て来た。私が名前を告げると、部屋の鍵を持って来て「ほい」と手渡してくれた。


「部屋の場所は案内図を見ると良いんじゃがじゃが、じゃがね芋! フォッフォ」


お茶目なおじいさんは私の反応が芳しくないと思ったのか、そのまま管理室に戻ってしまった。


「あ、あの、鍵……。ありがとうございます……」


姿が見えなくなってからそう伝えると、「うむ。花の命は短し、恋せよ乙女」と聞こえたような気がした。うん、聞き間違いかもしれない。



渡された部屋の鍵は、ホテルのルームキーのようなキーホルダーが付いている。部屋番号の代わりに「ドクゼリ」という文字が刻まれていた。


――――ドクゼリの部屋? 何か縁起が悪いわ。


そんな事を思いながら、案内図で場所を確認した。他の部屋には「クレマチス」「シャクヤク」「アマリリス」などの綺麗な花の名前が付けられている。


「どうして私は三大有毒植物のドクゼリなのかしら……?」


主人公なのだからもう少し優遇されてもいいのに……と思いながら、自室へと向かった。私の部屋は3階の一番奥にある。鍵穴に鍵を挿していると、隣の部屋が開いた。


「あ……」


キナナだった。先程よりも少し顔色が良くなっているように見える。


「キナナは、隣の部屋なの?」


「ええ、そうみたい。トリカブトの部屋よ。趣味の悪い名前……」


「私も一緒。ドクゼリだから毒仲間だわ」


「確かに貴女は毒みたい」


「……キナナもね」


私とキナナは同時に笑い合った。ゲームではこんな場面はなかったから、それが嬉しい。教室での出来事が払拭されるくらいには、幸先のいい攻略スタートに思えた。


「……あら、もうこんな時間。それじゃあ私は用事があるから、失礼するわね」


キナナがそう言うと、どこかへ行ってしまった。




自室へ入ると、荷物が積まれていた。数日前に送っておいた荷物が、無事に届いたらしい。


部屋の中を片付けようと視線を周りに向けた時、目に映るもの全てがキラキラしている事に気が付いた。思わず感嘆の吐息を漏らしてしまう程。


部屋はホテルのスイートルームを思い出させる作りだった。広くて綺麗に整っている。調度品も凝っていて、各国の優れたものをバランス良く取り入れていた。


「あ、可愛いランプね。魔法の小光玉ライトも良いけれど、こっちの方がやっぱり懐かしくて素敵だわ」


リビングルームの奥まった所には、調理が出来るキッチンも付いている。


バスルームはガラス張りになっていて、無駄に恥ずかしくなる作りだった。


キッチンもバスルームも、設備は前世と大差がない。そう言う所は便利に設定されていた。ライフラインがどうなっているのか聞くこと自体、この世界では野暮かもしれない。シャワーから水が出る事を確認して、それ以上は深く探らなかった。


私にとっては便利なこの部屋の設備は、きっと貴族の令嬢や令息などには手に余る設備だろう。それは皇族などの支配者一族にも同じ事が言える。執事バトラー女中メイドなど、人間の持ち込みは不可だと規則には書いてある。


絶対的権力を持つ一国の支配者でも、この学園の法律を変える事は難しい。郷に入っては郷に従え、だ。そんな学園で、攻略対象者がどんな風に生活するのかがとても気になる。


「……皆、お店で全て取り寄せそうね」


そんな想像をしてから私は荷解きをした。


「……この荷物をどこに置こうかしら?」


悩みながら考えるのが楽しい。手も頭もよく働く。


――――そう言えば、どうして私の部屋はドクゼリという名前なのかしら? こんなに素敵な部屋なのに……」


この寮の部屋名はどれも前世の花の名前が付いていて、毒を持つ植物と持たない植物に分けられている。そこに何の意味があるのかは分からないけれど、先程からずっと心に引っかかっていた。



このゲームは、乙女ゲームの割に、恋愛一色で染め上げていない。


「思い出の花」は確かに恋愛要素が強かったけれど、「思い出の花2」は恋愛要素に大戦争の話が付け足してある。底知れぬ深さがこのゲームにはあった。


――――些細な事にも意味があると思ってしまうのは、私が「真面目」だからかしら……。


熟考しながらも手早く片付けたせいか、意外に早く荷物を仕舞う事が出来た。それからも怒涛の勢いで夜の準備をしていく。



記録レコード


日記を自動で書き、シャワーを浴びた後、黒装束に身を包む。髪は一つに纏め上げた。冷蔵庫にあった食べ物をつまみ、アカネイラ先生の手紙に目を通した。先生の手紙を全部読んだ後、私はそれを火素ファイアーの魔法で燃やした。


先生へ手紙を書いて、その手紙と返信用の手紙に血を垂らすと、手紙は紅い「手紙花」へと姿を変えていった。


手紙は全て検閲される。


学園の法律に則り、「戦争の火種になる事が書かれていないか」精査される。やましい事をしているわけではないけれど、後ろめたい気持ちはある。だから私は「血」を使い、特殊な方法で手紙を飛ばす。


私の血と血界は相性が良いと、アカネイラ先生は教えてくれた。


なぜそんな事が分かるのかは頑なに教えてくれなかったけれど、手段がある事は良い事だ。称号を持つ皇族などの支配者一族さえ、外との連絡方法を秘密裏に確立するのは難しいと頭を悩ます中、私はすぐに手段を得たのだから。


窓を開けると、手紙花にアウラを添えて飛ばした。


アカネイラ先生の手紙の返事には、今日の出来事を綴った。特に、眠り草の花粉を付けた人物について、身内も含め調べて欲しいと書き添えた。


私はアカネイラ先生の事を信頼している。3年間の修行の中で、私と先生は決して裏切らない仲間となった。先生は条件付きではあるけれど、戦争を止めるために協力してくれると約束してくれた。


「さてと……。暗躍の時間ね」


鼻歌交じりに腕輪を外した。この腕輪には力を制御する装置が付いている。乙女ゲームには似つかわしくない制御装置(しろものに目をやる度に、なんだか可笑しくなった。


――――さっきはこの腕輪を付けた状態での全力の影の跳躍(シャドウリープ)に、ロゼスは追いついてしまったから……。暗躍を始める今からは、これを外していった方が良さそうね。



「行ってきます」


影の跳躍(シャドウリープ)で夜の探索を始めた。

読み終えて「頑張って」や「続きは?」と思った方は、ブックマークや広告下の☆☆☆☆☆☞★~★★★★★にして評価宜しくお願いします。正直な感想に飢えてます。『111回以上婚約破棄されましたが、まだ婚約者の座を死守しています』☞https://ncode.syosetu.com/n1599he/の方も読んで下さると嬉しいです。


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