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3 イベント始動前①

第一章の物語は、ゆっくり単調に進みます。

買い物に付き合って欲しい――――それがお父さまの願いだった。

その願いのために、私は外出の準備をし始める。


お父さまはいつものように金襴緞子きんらんどんすの衣装に着替えた。家の中では島の人が着るような砕けた恰好で寛いでいても、外出時は外用の顔に合わせて襟を正す。


そんなお父さまの横を歩くのだから、私もまた外用のドレスに着替えなくてはいけなっかった。

それが結構、憂鬱だった。


使用人のリーナを呼んで、着替えを手伝ってもらわなければいけない。前世で出来た事が、ここでは出来なかった。

ドレス選びも着替えも私にとっては煩わしいものだったけれど、それでもお屋敷の外に出るのは久しぶりで普段よりも興奮している自分がいる。リーナとお話していると、あっという間に準備は終わった。


「行ってきます」


お父さまと腕を組み、明るい太陽の下に出た。久し振りの太陽は容赦なく私の白い肌を照り付ける。


私とお父さまの住んでいるお屋敷は高台にあり、その場所から街と海に続く緩やかな下り道を歩いていく。緑豊かな小道に茂る草花は、私の足をいたずらに止めた。

その度に花の名前を当てるゲームをして、私はお父さまと知恵を比べる。そんな遊びに飽きた頃、耳を楽しませてくれる鳥が私の真上を通り過ぎた。


「お父さま、今ステラ鳥がホロロウ、ホロロウって鳴いたわ。なんて珍しい……」


ステラ島の景色はいつ見ても素敵だわ。


「あっ」


少し歩くと、周りの景色は大自然から海の街へと変わった。

色々な店が立ち並び、仕事に精を出す人達が行き交う活気溢れる姿には目もくれず、専ら私の関心はモナスベリーだ。


「お父さま、見て。モナス島国のモナスベリーがこんなにあるわ。後でリーナにモナスベリーパイを作ってもらわなくちゃ」


山積みになったモナスベリーを見てつい興奮してしまった。お父さまはそんな私の話を静かに笑いながら頷いた。


親子水入らずの時間を楽しんでいると、すれ違う年老いた夫婦がお父さまに深々と頭を下げ、にこやかに挨拶をした。その瞬間、父としてのお父さまの顔は剥がれ、権力者の顔付きになった。



そう――――お父さまはステラ島の権力者だ。


約千年前の大戦争時に、ステラ島国の王族は、ペテロ帝国の当時の王に全員葬られてしまった。戦争が終わった後、貴族で家柄も申し分ないオーレア家は、ペテロ帝国に遣わされてステラ島にやって来た。


武力ではなく地道な話し合いでステラ島の人々の信頼を勝ち取り、繁栄させ、島に貢献してきた名門貴族オーレア家。ステラ島は王族からオーレア家に頭を挿げ替えて存続していると言ってもいい程、その名残が今も根強く残っている。


ステラ島の人々はペテロ帝国には批判的でも、オーレア家には王に対するような尊敬の念を持ち、とても友好的だ。ペテロ帝国の統治制度ガバナンスを快く受け入れているのも、オーレア家がそれだけの信頼を築いてきたからに他ならない。


もうすぐ千年にもなるオーレア家とステラ島の人々の絆は、切っても切れないものだ。



そんな背景もあり、オーレア家の権力者であるお父さまに話しかける人は、私だけではなかった。いつの間にか人だかりが出来ていて、お父さまはあっという間に島の人に囲まれてしまった。


「オーレアさん。この前は、お願いを聞いてくれてありがとう。おかげ様で仲直りしましたよ。今度お店に来た時は、奢らせて下さね」


「この間、言われた通りやったら、大量に魚が釣れたよ。今度お屋敷に届けますよ」


「子供が生まれたから、どうか名付け親になって下さい」


声をかけられる度に、お父さまは律義に立ち止まって挨拶をした。


お父さまみたいに良好な人間関係を築き人心を掌握する手腕が私にもあったなら、前世はもっと生きやすかったかもしれないわ。どうしたら人望が厚いお父さまみたいになれるのかしら? 


お父さまの顔をこっそり覗き込む。

お父さまは街の人に挨拶をする為に、丁度顔を横に向けた。



――――あれは何? お父さまの首元に葉の模様が?


一瞬見えたその模様に酷く眩暈がした。


――――昔からあったものだったかしら。思い出せないわ。やっと心と体がリコリスに馴染んできたと思っていたのに……。



悶々とする私の横で、話し終えたお父さまが声をかけた。


「さて、この店だ」


ピーロットと書かれた看板をぶら下げたお店の前で、お父さまは立ち止まった。

こじんまりとした店が立ち並ぶ中、このピーロットの店は大きくて都会的で、高級感溢れる店構えだ。景観を損なう、とまではいかないものの、明らかに周りから浮いている。


庶民の店ではなく、貴族御用達の店だと一目で分かる。ステラ島にいる貴族はオーレア家のみ。

つまり、オーレア家の為に構えた店だった。


「お父さま、ここで何を買うのかしら?」


淑女レディの服一式だ。リコリス、お前はもう少しお洒落を楽しみなさい。戦争時には出来ない事を、沢山しなさい。それはきっと糧になる」


「はい」


お父さまの言う通りだわ。この恵まれた環境を当たり前だと思ってはいけない。一日一日を楽しみ、大切に過ごそう。


この世界が隠し持っている「毒」の存在が、千年に一度の大戦争を引き起こすかもしれない。それを止めると決めた私の未来は、決して順風満帆ではないのだから、楽しむ時には楽しむべきだわ。


そう心に刻み込んだ。


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