28 悪児(オニ)ごっこ②
「いくわよ」
そう一声かけてから風を解放した。3年前の無力だった私はもういない。研鑽を積み、命を摘み取られる側から摘み取る事を“選択出来る”側へと変わった。
――――その姿、見せてもらうわ。
手加減なしに風を叩き付けると、悪児も風を解放してぶつけてきた。
風は拮抗状態だったけれど、やがて消滅した。
――――中々やるわね。
今度は風を練り上げて、剣を作った。影の跳躍も使って、素早く悪児の懐へ飛び込む。
悪児が見えなくても感覚でやれてしまうのは、きっとアカネイラ先生の指導のおかげだわ。そういう意味では3年間無駄じゃなかった。
剣を振り下ろすと、悪児は地面から光り輝く鉱物や水晶の柱を出して、それを盾に身を守った。
「……綺麗。魔法なの? それとも称号?」
私の風の剣で真っ二つに切れた鉱物の中は、宝石のように輝いている。こんな魔法も称号も見た事がなかった。
それから悪児は、私と同じように鉱物で剣を作った。
相変わらず悪児の姿は見えなかったけれど、光り輝く鉱物の剣でそこにいるのだと分かる。
悪児の顔元に剣が近付くと、輪郭が薄っすらと見えた。一瞬見える人影にもどかしさを覚えながらも、攻撃を続けていく。
――――やりにくいわ。
手を緩めることなく次々と攻めているのに、悪児はその攻撃全て受け止める。簡単に受け止めて、隙があれば攻撃もしてくる。
悪児はさぞ屈強な男だろう。剣が当たる度に、手が千切れそうに痛い。しっかり握っていても、気を抜くと弾かれてしまいそうだった。
長引けば長引く程不利になるのは私だ。でも、攻撃を仕掛けようにも悪児には隙がない。反対に少しでも攻撃に後れを取ると、私の方が隙を突かれてしまう。
――――これでも手加減してくれているんだわ。ああ、悔しい……。
「――――痛っ」
風の剣は弾かれて消え、私の手は鉱石の柱に当たり傷付いた。
血が出てる。大した傷じゃない。紙で切ったようなものだから、大丈夫だわ。
もう一度風を練り上げて剣を作ろうとしたその時。
「え?」
悪児は剣を携えたまま私の方へ駆け寄ってきた。
あ……。もしかして、怪我の心配をしているのかしら? でも……。
「油断は命取りなのよ?」
囁くように言うと、優しい悪児の首に隠しナイフを突き立てた。あと1ミリでも動けば、悪児の首は傷付き血を流すだろう。
「脅しじゃないわよ。このまま時間いっぱいまで動かないで」
その1ミリも縮めてナイフを首に付けると、硬い物に当たった音がした。
「え?」
先程まで聞こえていた息遣いがしない。悪児に触れると粉々に壊れてしまった。
――――しまった!! 油断をしていたのは、私の方?
慌てて小光玉で周りを照らす。
どこ、どこにいるのよ……。
「油断は命取りだよ、リコリス。捕まえた」
突然、背後から優しく抱き付かれた。囁かれた耳が熱い。驚きと恐怖と恥ずかしさで、頭の中がぐちゃぐちゃになった。
「僕が誰だか分かる?」
敵意を感じない少し低い声。大人の声に変わっていても、その声が誰の声なのか分かった。だって……。
「ロゼスさ――――」
手で口を塞がれてしまった。
「ロゼスって呼ばないと、離してあげないよ?」
触れる肌、耳から入るその声に、身体が反応して熱は上がっていく。攻略対象者だからじゃない。大好きなロゼス様……ロゼスだから。
にこにこと名前を呼ばれるのを待っているその目に、圧力を感じるけれど……。
「ロ、ロゼス」
小さな声でそう言うのが精一杯だった。
「うん、これからはそう呼んで。あと、この学園ではちょっとした事で揚げ足をとられるから、絶対に隙を見せてはいけない。いいね?」
「はい、分かりました」
「ほら、対等な言葉遣い」
「う、うん。分かったわ……」
ロゼスは終始笑顔で、傷付いた私の手を治癒の魔法で治してくれた。
「ロ、ロゼスは、治癒の魔法が使えるのね」
「ん? いや、治癒の魔法とは相性が悪くて。ユラの方が得意だ」
「でも、今私の手の傷を……」
すっかり傷が塞がった手をロゼスに見せた。
「リコリスとの約束を守るために、あれから僕は必死に頑張ったんだよ。本来使えない治癒の魔法も、無理やり“能力の扉”をこじ開けて、一部を開花させた。リコリスが怪我をした時、その怪我を僕が治せるようにって。他の野郎に治させるなんてそんな事、絶対にしたくないからね」
それってどういう意味かしら……。額面通りに受け取っても良いの?
「ねぇ、ロゼス。どうして私を追いかけたの 悪児ごっこに誘うような真似をして」
「それは……。僕はリコリスに会うのを3年も我慢したのに、キミが僕を見て逃げたからだよ。おかげで末代まで呪いそうだった」
ロゼスはそう言って、私の手にはめてある指輪を触った。
――――指輪? この指輪は、ロゼスのお母さまの形見だわ。3年前に大戦争を止めるという約束をして、指輪を受け取った。『心変わりしていないか、3年後に教えて欲しい』とロゼスに言われた事は、今でもよく覚えている。
それなのに私は野次馬になりたくなくて、螺旋階段から見下ろしたくなくて、挨拶もしないであの神々しい姿から逃げてしまったから……。自分のした事に胸が痛い。
「約束を破ったりなんかしないわ。心変わりもしてない。でも、確かに挨拶をしないで逃げてしまった事については、ごめんなさい。勇気がなくて……。ロゼスとその……4人の未来の王が……その……」
上手く言葉に出来なくて良い淀んでいると、ロゼスは私の言いたい事を汲み取って答えた。
「他の4人はともかく、僕は少しも変ってはいないよ」
ロゼスの情熱的な目を見て、ふと我に返った。
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