24 リネロ先生の長~い挨拶②
端役を見るリネロ先生の目は鋭く、端役はそれに怯える様子を見せながらも質問した。
「この学園の法律、ペトロトリア法についてですが……。ペトロトリア法は、各国の支配者一族、貴族、力のある若者を生徒に向かい入れ、同じ歴史を学び、武術や魔法、風や称号で力を競い、その中で互いの違いを理解し、生涯の友を作るために作られた法律だと聞いています。この世界は千年毎に大きな大戦争を繰り返してきました。それを止めるために第3賢者によってこの学園や規則が作られ、各国はそれを守っています。次の千年に例え血を流し合い剣を向けるとしても、心のどこかで学園の事を思い出し、歴史を変えて欲しいという先人たちの思いが集まったこの学園のはずが……。何かその……矛盾していませんか?」
「はい? 矛盾なんてありませんよ。大3賢者の規則にケチを付けるつもりですか?」
まだ習っていないペトロトリア法を端役はすらすらと説明した。遠回しな発言で矛盾を指摘すると、リネロ先生はそれを笑顔と言葉で切り捨てた。
他の生徒の反応はそれぞれで、教室が一時的に騒めいた。
端役の言っている事は正しい。
千年毎に起こる大戦争の連鎖を断ち切るために、第三賢者がこの学園とペトロトリア法を作った。各国の皇族などの支配者一族や貴族、力のある若者が、この学園で身分関係なく学び競い互いの違いを理解したら、きっと歴史が変わると考えたのだろう。
でも、リネロ先生は平時には「ペトロトリア法に則って行動して下さい」という割には、戦時には簡単に手のひらを返す事を暗に認めている。
私も端役も、その矛盾に気付いてしまった。
――――時代と共に、ペトロトリア法もこの学園の存在意義も、名ばかりになってしまったのかしら……? 学園の先生たちも、学園の意味やペトロトリア法を放棄している? こんな風に考えてしまうのも、リネロ先生の態度のせいだわ。
本来ペトロトリア法は、戦時にこそ発揮されるものだ。時代と共に「平和を願う法律」が人によって毒されてきた事がやりきれない。
黙ってしまった端役の代わりに、手を上げた。
「リネロ先生、私からも良いですか?」
敢えてリネロ“先生”と呼んだ。これは宣戦布告。
私の言葉に先生は眉を顰めると、「どうぞ」と素っ気なく言った。
「先生、ペトロトリア法は本来、戦時の時に発揮する法律です。先程の言い方だと、平時だけだと誤解されます。戦時にこそペトロトリア法を思い出して欲しいと第3賢者は願ったはずです。同じ学園で学んだ仲間に向ける刃を収め、今一度考え直して、平和のために行動して欲しい――――これがペトロトリア法の真髄です」
アカネイラ先生から教えられたペトロトリア法を、自分なりの解釈を付けてリネロ先生に告げた。間違った事を何も知らない生徒たちに教えてはいけない。そんな思いで発言した。
生徒たちは私の言葉に熱心に耳を傾けてくれた。そんな様子が嬉しくもあり、恥ずかしくもあり。
「……さすがです。ペトロトリア法の事を知っている生徒がいる事にも驚きですが、完全に解釈している生徒がいた事にも驚きました。ペトロトリア法はこの学園の歴史学で学びます。担当は僕です。興味がある方は、どうぞ僕の授業を履修してくださいね。続きは授業で議論しましょう。さて、次は履修科目についてですが……」
そんな風に上手くまとめられてしまったけれど、私はもっとリネロ先生の話を聞いてみたいと思った。
――――リネロ先生の考えはアカネイラ先生とは全然違う。もっと深い奥の方にリネロ先生の考えがある気がして、つい覗いてみたくなる感じだわ。
それから先生は履修科目についての説明を簡単に済ませると、学園内の探索と寮の荷物の整理、履修科目の選択表の提出、この3つを今日までの課題として指示をした。
「それでは今日はこれで解散です。授業は明日から。今日中に今言った事をやっておいて下さいね」
そう告げると、リネロ先生は足早に教室を出て行ってしまった。先生の足音が遠ざかると、生徒たちは思い思いに話し始めた。
この学園の裏側を今日初めて垣間見た彼らの口は、止まる事なく饒舌だった。
――――初日から結構ヘビーな話だったから、仕方ないわよね。
教壇の上に置いてある選択表の紙を取りに行きながら、そんな事を思った。
選択表には受けたい授業科目が書いてある。歴史学、魔法学、武術学、戦争学、動物学の5科目が主要教科で、その中から履修したい科目を選択していく形式だった。
バランス良く履修する事も、1つに絞ってとことん極める事も可能で。
もちろん、私はたった1科目。歴史学だけをとことん極める事に決めた。
魔法学と戦争学は、これ以上学ぶ事はないというレベルまでアカネイラ先生に教わったから、もうやる必要はない。
動物学は、相性がある。時間をかけたからと言って上達する訳じゃない。動物との相性が全て。馬の扱いには慣れたものだし、ペガサスや鳥獣の扱いも一通りアカネイラ先生に教わった。そこまでが私の上限だから、これ以上の授業は意味がない。ドラゴンと心を通わせるなんて、たぶん一生無理。
武術学も、剣だけなら騎士レベル一歩手前まで到達している。それ以外の武器はからっきし駄目だったけれど、戦場では武器など1つで充分。
残る歴史学も一通り学んではいるけれど……。
隠された歴史がまだあるかもしれないという期待を込めて、私は歴史学一本に絞った。リネロ先生の裏の顔は何だか見るのも怖い気がするけれど、歴史学の事には詳しそうだ。
選択表を書き終えると、教壇に選択表を提出してキナナの席へ急いだ。
「キーナナ」
声をかけるとキナナはびくっと肩を揺らした。
「履修科目、何にしたのかしら?」
「えっと……リコリス。貴女、怒らないの?」
キナナは申し訳なさそうな目をしてこっちを見ている。
「私を置いて先に行ってしまった事かしら?」
「ええ」
「怒ってないわ。だって私、はしたなく爆睡していたでしょう?」
「そうね。これでも一応、起こしたのよ」
キナナの弁明を聞いて嬉しくなってしまい、思わず抱き付いた。
「起こしてくれて、ありがとう。優しいのね、キナナは」
抱き付く私を手で押しのけながらも、キナナは少しだけ笑った。
――――仲良くなれそうで嬉しい。ゲームの中のキナナだけを見て、悪女や悪役令嬢などと決めつけなくて良かったわ。
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