14 家庭教師(ガヴァネス)との出会い①
第一章の物語はゆっくり単調に進みます。
朝食を終えると、段々とそわそわしてきた。使用人のリーナが何回も「大丈夫ですか?」と私に聞いてくる。
「だ、大丈夫よ」
全然大丈夫じゃないのに、そんな嘘を吐いた。今の私は緊張で変な顔をしているだろう。
椅子から立ち上がり、部屋の中を一周してまた座る。その一連の流れを先程から何回も繰り返している。「思い出の花1」では出てこないアカネイラ先生というキャラクターが気になって仕方ない。
全くのイレギュラーなキャラクターなのか、それとも「思い出の花2」で出てくるキャラクターなのか、それさえも分からない。けれど、今後の物語に影響を与えてしまった事には間違いないと思った。
心待ちにしていた事を知らせるベルが鳴る。
「アカネイラ先生だわ、きっと」
先生の姿を見ればきっと何か分かるかもしれない。部屋から出ようとすると、リーナに止められてしまった。
「リコリス様はここでお待ちください。後でお呼びしますから」
リーナにそう促され、仕方なくここに留まる。それから暫くすると、リーナはアカネイラ先生を連れて応接室に入っていったようだった。というのも、隣の部屋で待機をしていた私は、聞き耳を立ててそれを確認出来た。
――――昔から耳が良いから、こういう時助かるわ。
部屋をそっと抜け出して、リーナに呼ばれる前に応接室のドアを叩いた。
「リコリスです。失礼します」
ドアを開けると、リーナの顔が目に飛び込んできた。百面相の如く表情を変えている。一瞬驚いた顔を見せたかと思ったら、苦笑いをして溜息を吐く。それから、眉間に皺をよせ怒っているような表情も見せた。
――――うん。ごめんね、リーナ。言いたい事は凄く分かるわ。
初めてくる来客には、その人が本当に安全かどうか分かるまでは部屋で待機が鉄則だ。“リーナチェック”をクリアした来客だけが面会を許される。武器の所持や危険な思想がないかどうか。そんな事まで出来てしまうリーナの経歴が少しだけ気になるけれど、そういう仕様だと思うようにしている。
リーナに申し訳ないと思いながらも、私は自我を押し通してしまった。
小声で“ごめんね”と伝えると、リーナの顔が少しだけ綻んだ気がした。
ふと奥の窓際に目線を向けると、赤髪の女性が目に入る。
――――あの人がアカネイラ先生かしら? 目立つ容姿だからモブじゃないわね。「思い出の花2」で出てくるキャラクター? しかも、男性……じゃないよね? 騎士の資格を持っていると聞いたから、ずっと男性だと思っていたわ。恥ずかしい。ジェンダーバイアスのかかった見方は、前世では最も嫌っていたのに。でも、女性でも騎士の資格が取れるだなんて、嬉しい世界だわ。
アカネイラ先生は長い髪を一つに纏め、女性にも男性にも見える身なりをしていた。それがまた魅力的で、赤い燃えるような髪がとても美しかった。
――――先生もあの騎士と同じ風を纏っているのね。
未熟な私でも、その強さを肌で感じられる程の風が歓迎するように部屋の外へ吹き抜けた。おずおずと部屋の中へ入ると、アカネイラ先生の前で足を止めた。
「名をリコリスと申します。アカネイラ先生、今日からよろしくお願いします」
変に力が入り、上擦った声が出る。身体は緊張で固まり、指の先までピンと伸びていた。
――――あ~、自己紹介やっちゃったわ。失敗……。
先生はそんな私を見てクスッと笑った後、「威勢がいいな、リコリス。今日からよろしく」と挨拶を返してくれた。
それが嬉しくて思わず「先生の燃えるような赤い髪、とても素敵ですね」と余計な一言を付け加えて言葉を返した。
「それはどーも。私はペツィート王国出身だから、こんなに髪が赤いんだよ。ペツィート王国の人は例外を除いて皆、同じような赤色だ」
髪をつまみながらアカネイラ先生はそう言った。
「そうなんですね。あれ? でも確かモナス島国しゅっ――――ふぉご」
そう言いかけた私の口をアカネイラ先生は塞いで、にこやかに目で脅している。笑っているけれど笑ってはいない――――そんな複雑な目をしていた。
――――先生を怒らせてはいけないような気がするわ。
事情を察したような顔を作ると、先生はやっと手を離してくれた。
「時間がもったいないから、外にいくぞ」
「は、はい」
「リコリス様、お気を付けて」
アカネイラ先生はお父さまの書斎に寄った後、足早に屋敷から出た。目的地も言わないまま、先生は先頭をずんずん歩いていく。振り返ると、先程までいた屋敷が小さく見えた。
――――どこまでいくのかしら?
先生の背中を見ながらそんな事を思っていると、その視線に気付いたのか、先生は私の真正面で足を止めた。
「……すまなかったな。紙切れには、確かにモナス島国出身と書いた。だが実際はペツィート王国で生まれてすぐに、モナス島国に来たんだ。それからずっとそこで暮らしているから、モナス島国出身と書きたかった。私の母もモナス島国出身だからな……」
「つまり、先生はハーフですか?」
「ああ、そうだ。父はペツィート王国出身。その二人から生まれた私はこの通り、血塗れのような赤い髪色だ」
――――アカネイラ先生は、その赤い髪色が好きではないのかしら?
そんな風に思ってしまったのは、“血濡れ”と表現した時に見せたアカネイラ先生の悲しい目だ。きっと触れられたくない話題なのだろう。
それから私と先生は肩を並べ、歩きながら話した。先生は私に合わせてゆっくり歩いてくれた。
「……この赤い髪は目立つ。私は騎士の資格もあるから、色々と狙われやすい。特にペツィート王国の民は喧嘩っ早いと言われていて、あまり良い印象を抱かない人が多い。特にお前の世話役のリーナはペテロ帝国出身だろう? 敵対国として度々立ちはだかったペツィート王国の民を、快くは思わないだろう。紙切れ一つの書き方で、上げ足を取られたくはないからな」
「そんな……。リーナはそんな事するような人ではありません!」
「……甘ちゃんだな。確かにギルツァ・ゼツ・オーレアが心配するわけだ」
「どういう意味ですか?」
思わず声を荒げると、アカネイラ先生は私の質問には答えずに「ここだ」と言った。
――――ここ? ここって小さい頃に遊んだ広場だわ。ここで何を?
草や木が好き放題に伸びているだだっ広い空間は、子供にとって絶好の遊び場所だ。広場の真ん中は子供がよく踏み歩くせいか、草木があまり生えてはいない。
「あの頃と何も変わっていないわ」
先生は私に離れて待つようにと指示をした後、広場の真ん中まで歩いて行く。そこに辿り着くと、先生は振り返ってこっちを見た。
それから、思いっきり地面を足で叩いた。
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