第五十一話「吹雪の止む頃」
MANAを出ると、外はまだ吹雪だった。
早速、サヤにメッセージを送る。
しばらくして、座標が送られてきた。
「エルナ。」
「なに?」
「これからサヤと会う。ザインのこと、伝えるつもりだ。」
「……そう。」
「少しだけ、時間を潰しててくれるか?」
「私も行くわよ?」
「いや。これは、俺が話すべきことだと思う。」
「……そう。」
少しだけ、間があった。
「ジュディ。」
「ん?」
「あんまり背負い込まないでね。」
エルナが真っ直ぐに俺を見る。
本当に心配してくれていることが伝わった。
「……ありがとう。」
—
送られてきた場所は、アンティークなカフェだった。
木の扉を開けると、温かい空気が来た。
角の席にサヤがいる。
棒付きキャンディはなかった。
俺は、適当にコーヒーを注文して、座った。
「……。」
「……。」
沈黙。
どう切り出すべきか、分からなかった。
「ジュディ。」
「あぁ。」
珍しく、名前で呼ばれた。
「私に言ってないこと、あるよね?」
「……。」
伝えなくては、埒があかない。
俺は、意を決して口を開いた。
「今日会ったザインっていただろ?」
「えぇ。」
「……あいつが、クロウを殺した。」
言った。
俺は、コーヒーをじっと見つめた。
サヤの顔が、見れなかった。
「……そうじゃないかと、思った。」
「やっぱり、気づいてたのか?」
「えぇ、なんとなく。勘だけどね。」
また、沈黙。
「ジュディ。」
「あぁ。」
「こっち、向きなさいよ。」
「……。」
俺は、恐る恐る顔を上げた。
サヤの顔があった。
怒っても、悲しんでもいなかった。
「やっと、こっち見た。」
「……ごめん。」
「別にあんたが、そんな顔する必要ないのに。」
俺は今、どんな顔をしているんだろう。
「だって、俺は、その時……」
「あんたに責任はないわよ。」
はっきりと、そう言った。
「なんで、そんなに、割り切れる?」
「兄貴はね。リスクのある仕事で死んだの。ただそれだけ。」
「……それだけで済ますのか?」
「えぇ。済ますわ。……済ます。」
自分に言い聞かせているみたいだった。
サヤは続ける。
「仲間が殺されたから、敵を殺す。そしてまた、仲間を殺された方が、敵を殺す。」
「……。」
「そんなこと繰り返した先にあるのは、誰にとっても地獄よ。」
サヤの目に、涙が溜まった。
この子は、強い。
きっと、ザインよりも。
「わ、私は、やり返さない。絶対に。そんなこと、するもんか。」
サヤの涙が溢れた。
俺は、右手で思わずその涙を拭った。
「……強いな、サヤは。」
「当たり前でしょ。ボンクラ。」
サヤは、無理やり笑顔を作った。
本当に、強い。
「だから、あんたも、人を殺すとか、考えんなよ?」
「……あぁ。誓うよ。」
そのまま、二人でコーヒーを飲み干した。
窓の外で、吹雪が止んでいた。
—
カフェを出ると、エルナが外で待っていた。
「……待ってたのか?」
「別に。暇だったから。」
嘘だ。
でも、何も言わなかった。
吹雪が止み、視界が開けていた。
ノヴァの街並みが、よく見える。
高い建物が、ない。
奥に構えるMANA本社だけが、やけに大きく見えた。
街を、雪山がぐるっと囲んでいる。
綺麗な街だった。
ネオンなど、ところどころに近代的な造形はあるが、カルディアのような雑多なイメージは感じられない。
それだけで、カインの人柄が少しだけ分かった気がした。
「……綺麗な街ね。」
「あぁ。」
吹雪が終わったからか、人々がちらほらと外に出てきている。
どれも、綺麗な服を着ていた。
他の都市のような、貧困は感じられない。
「じゃあ、あそこまで競争な!」
そんな声に、振り返った。
子供達が、笑いながら走っていく。
こんな風景は、平和であればどの世界でも変わらないみたいだ。
「……ジュディ。」
エルナが、静かに言った。
「なんだ。」
「サヤは、大丈夫だった?」
「あぁ。」
俺は、少しだけ間を置いた。
「あいつは、強いよ。本当に。」
エルナが、小さく頷いた。
それ以上は、聞かなかった。
「……そういう話。本人のいないとこでしてくれる?」
後ろから、サヤに釘を刺される。
ごめんね。
三人で、ノヴァの街を歩いた。
雪の上に、足跡が続いていく。
—
昼食は、街の中ほどにある店に入った。
カイラも「乙女は腹が減った」と通信でうるさかったので合流する。
温かいスープと、焼いたパン。
シンプルだったが、悪くなかった。
「思ったより、普通の街ね。」
エルナが、スープを一口飲みながら言った。
「あぁ。怖い雰囲気は、全然ない。」
「それが、答えかもしれないわ。」
「……カインのことか?」
「ええ。ここまで整った街を作れる人間が、ただの独裁者だとは思えない。」
カイラが、パンをちぎりながら頷いた。
「カインさん、声だけで判断してたけど……街見ると、なんか、違う気がしてきた。」
「俺も、そう思う。」
何者かは、まだ分からない。
でも、悪意だけで動いている人間じゃない。
そういう確信だけが、少しずつ積み上がっていった。
「明日、どう動く?」
エルナが、俺を見た。
「まだ、一日猶予がある。交渉が少しでも有利になるように情報を集めよう。」
「……そうね。」
窓の外で、子供が笑いながら走っていた。
雪が、また少し降り始めていた。
—
宿屋に戻ったのは、夕方だった。
三人それぞれ、部屋に戻る。
俺は、ベッドに腰を下ろして天井を見上げた。
今日だけで、随分と色々なことがあった。
——ザザ。
突如、通信が入った。
非通知だ。
「誰だ?」
「ザインだ。」
俺は、舌打ちした。
「なんだよ。こっちはテメェの声も聞きたくねぇんだ。勝手に通信してくんな。」
「お互い様だ。」
ザインが、短く言った。
「カインからの伝言だ。明日、三人で昼食をしたいと。」
「……何が目的だ?」
「信頼だよ。お前が言ったんだろ?」
通信が、切れた。
俺は、しばらくそのまま天井を見ていた。
——信頼。
軽い言葉じゃない。
少なくとも、今の俺達にとっては。
第五十一話、お読みいただきありがとうございました!
今回はサヤの強さが見えた回でしたね。
書いていて、腕っぷしとかだけが強さじゃないよな、なんて思ったりして。
次回、カインとの昼食です。
おそらく楽しい食事にはならなそうですね。
明日も20:10にお会いしましょう!
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よろしくお願いします!




