プロローグ「俺の世界の終わりには」
——白と赤。
雪が積もる白銀の世界にいた。
体が動かない。
寒いはずなのに、もう何も感じなかった。
視界の端に、何かが見える。
遠い。
ひどく遠いのに、なぜかよく見えた。
白い雪の上に、横たわる体。
俺の、体だ。
——頭が、ない。
ああ、そうか。
だから遠いのか。だから寒くないのか。
不思議と、怖くはなかった。
ただ静かに、そう理解した。
「……っ。」
彼女は、泣いていた。
この子が、ここまで泣くのを初めて見た気がした。
いつも凛としていて、何があっても揺れない奴だったから。
それなのに今、両手で俺の頭を抱えて、声を殺して泣いていた。
冷たい指が、頬に触れる。
涙が、落ちてくる。
呼びかけたかった。
泣かなくていいと、伝えたかった。
でも声が出なかった。
もう死ぬのだから、当たり前だ。
「——————。」
心の中でだけ、名前を呼んだ。
雪が、降っている。
白い世界が、ゆっくりとにじんでいく。
会いたい人がいた。
帰りたい場所があった。
でも、もう、それは叶わない未来だ。
未来は、もう見れない。
それでも、不思議と、空っぽではなかった。
ここまで走ってきた過去だけは、確かに俺の中に残っていた。
後悔はある。
悲しくもある。
願いもある。
——せめて、「彼女」が幸せでありますように。
そう願いながら、俺は過去の中へ沈むように、意識を閉ざした。




