第13話 マナとドラゴンスレイヤー
さぁ、ドラゴンへ!
俺は俺4号。メルを担当している。今、スタンピードで出てきたドラゴンから登山者を救助するために知床半島の高い山の登山口に来ている。いや、救助するのはジェシーで、何故かジェシーの指示で、ドラゴン退治をすることになっている。いや、スタンピードのモンスターから町を守るから間違いではないのだが、自衛隊の近代兵器でも倒せるはずなので、なんだか、熱い展開にしたいだけとも限らない状況だ。そして、そんな状況を作ったジェシーは先に、要救助者の登山者を迎えに行った。そして、メルの俺、マナ、影子の分身という3人娘のパーティが残される。安心感のあるジェシーが居なくなって不安を感じたのか、顔色が悪いマナがこちらに声をかける。こうしてみると、高火力のフレイヤ、鉄壁のジェシー、転移のアリスは安心感がある。
「さぁ、行きましょうか」
ひより謹製の武器を持っているが、やはり巨大なドラゴンと戦うのは不安だろう。俺たちは、分身保険なんてものがあるが、マナは死んだら終わりだ。もちろん、今回のフォローについては、しっかりする予定だ。それと、マナの矛には防御機能と緊急離脱用の移動機能が付いているらしい。最近、探索者として役に立ちたいと言っていたマナのために、笹木もひよりに変身して作っていたらしい。
そして、まだ雪が残っている山を登っていくが、さすがに皆が100レベルを超えているだけあって、駆け足で山を駆けていく。これでは、ジェシーのことは言ってられない。もちろん、俺が回復魔法などを掛けているので、疲労なども無視して1000メートル級の山を30分もかからずに登り切ってしまう。そして、雪が残る山頂を赤く染めながら、獣をむさぼるドラゴンがそこには居た。
その姿を確認した後、影子の分身がさらに準備を始める。
「『ぽんぽこ分裂術』」
分身がさらに分裂していき、数十人の集団になった。耐久力は減るが、攻撃力は落ちないため、単純にパーティの攻撃力が上がっていくのだった。
「おらたちがバックアップします」
影子の分身が元気づけてくれる。
「ありがとう」
マナの顔色が少し良くなる。そして、ドラゴンが悠々とヒグマやら鹿やらを貪っている間に、影子の分身たちが姿を消して周辺に散らばっていった。いいタイミングで攻撃を仕掛けるだろう。それにしても、このドラゴンはでかいな。階層ボス、もしくは、ダンジョンボスかもしれない。
俺たちは岩陰からそっとドラゴンを観察する。
「影子ちゃん、メルちゃん。あたし、できるかな」
マナが、ひよりの武器を手に持ち、震えている。
「支援魔法をいっぱい掛けるの。気持ちが高揚して戦えるの」
「必要だけど、なんだか、無謀になってつっこみそう」
「マナは位置取りを気にして、なるべく攻撃を受けないようにしてね。おらたちが、カバーするから、ここぞというときに攻撃を叩きこんで」
その時、武器から声がする。
『しっかりしろよなー。このオレ、相槌ノ矛が協力するんだからな』
「え? 声がする」
マナがキョロキョロと見回す。
『こっちだってば』
「やっぱり、武器がしゃべってる」
マナは手に持った矛をしげしげと眺める。
『そんなに見つめられると照れる。オレが、しっかりとサポートしてやるし、内蔵の魔力で刺突に斬撃、どっちもかなりのものだよ。ハハハ』
なんか、急に喋り始めたと思ったら饒舌だな。
「なんか、こじにーの声に似てる」
「あー、時間が無かったから笹木の声をサンプルに使ったんだ」
「そうなんだ」
なんかマナが嬉しそうだ。
『そんなわけで、ここぞというときに強いの一発食らわせて離脱しようか』
「わかった。あたし、やってみる。づっちゃん」
『づっちゃん?』
矛が聞き返す。
「相槌の矛でしょ? アイちゃんだと女の子みたいだから、づちのほうで、づっちゃん。かわいいでしょ」
マナがそういうと、一瞬間が空く。ローディング中? 困惑中?
『お、おおう。まぁ、いいや。じゃあ、よろしくな。ちなみに強力な攻撃は10回が限度だ。2、3発は練習に使え。防御に使うと、回数も減るからな気をつけろ』
そういうわけで、準備が整った俺たちはドラゴンに相対する。すると、こちらに気づいたようで、手に持っていた死骸を投げつけてくる。それを難なく避けたが、赤い点が雪の上にバラまかれて、スプラッターな情景になる。
グルゥゥゥゥゥ
ドラゴンの喉から地面を揺らすような重低音が響く
「マギア・コア、エーテル::アストラル。グラディア・コア、オーラ::ドラゴン」
マナの自信につながるならば、最上級じゃないほうがいいんじゃないかと考え、マナへの支援は、最上級の1つ手前に留める。まぁ、それでもかなり強いのだが、マナが傷ついてほしくないから、これで良い。
マナが走り出すとドラゴンが口を開く。中に炎が渦巻いている。しかし、その口をぎゅっと閉じる力が働く。
「お口はチャックね!」
数人の影子が糸を使ってドラゴンの口を締め上げているのだ。
「切れないって、どれだけ硬い皮膚なの」
ぐっと閉まった口を不快そうに振るうドラゴン。糸に気を取られているドラゴンの眼前には、マナの矛が迫る。
『さー、いっぱつめ! どーん』
笹木の声に似た矛の声が聞こえると、ドラゴンの腕がはじき返した。しかし、その腕にははっきりとした切り傷が見える。上手く受け流したのか、傷は浅い。
「傷いれられたわ」
マナが一撃離脱してくるので、俺も攻撃に加わる。今度はマナに意識が向いており、ドラゴンが突撃の姿勢を見せる。さすがに影子の糸では防げそうにない質量だ。そこで、俺が足元に潜り込む。
「幸子師匠直伝、秘技32連撃、はぁぁぁぁぁぁぁあああああ!」
固い皮膚だろうが、中身があればそこにはこの攻撃が効くだろう。足の関節裏に与えた攻撃によって、ドラゴンがバランスを崩すが、連撃を撃ち終わる前にドラゴンが足を跳ね上げた。俺は回避しようとするが、下の土まで弾き飛ばしてこようとしてくるので、いくらか受けるつもりで身構える。しかし、そこにマナが飛び込んできた。
「メルちゃん!」
『おいおい、さすがにこれは防御するぜー』
俺とドラゴンの間に割り込んだマナが、矛を掲げてバリアのようなものを張った。そこに土砂がぶつかって壁のようになる。矛の機能のようで、調子にのった俺みたいな声が聞こえる。なんか、恥ずかしいなコレ。
「ありがとうなの」
俺はマナの背中に礼を言う。
「メルちゃん、下がって立て直そう」
俺はマナと一緒に距離を取る。ちょっと踏み込む位置が良くなかったかもしれない。32連撃のうち10発までは攻撃を入れられた。マナと一緒に離脱している中、影子の分身がその間に同時攻撃をしている。
「「「遠山流忍術 赤雷」」」
10人くらいが重ね合わせたのだろう、ドンという落雷みたいな音が響くとドラゴンの動きが止まる。ダメージがどれくらい入ったのかはわからない。
マナは金沢ダンジョンに籠った後、少しだけレベルあげをしていたと言っていたが、結構レベルを上げたんじゃないだろうか。体の切れが上がっている。もちろん、俺の支援もあるが、それを差し引いてもレベルアップをしているんじゃないだろうか。
俺がそんな思案をしている時に影子の掛け声が聞こえてきた。
「つぎの組よーい」
なんか体育祭みたいな掛け声が掛かると、攻撃を加えた影子たちが離脱し、次の影子たちが現れる。
「「「遠山流忍術 金剛」」」
地面から影子の太ももくらいはありそうな太さのトゲが何本も突き出してくる。ドラゴンは思わず咆哮し、羽ばたくと空に飛んでいく。
「ああ、飛んじゃったの」
でも、その羽ばたきもぎこちない。影子の糸が羽を固定化していっているようだ。10メートルくらいに飛び上がったドラゴンは、高度を維持できずに地面に着地する。周辺で暗躍する影子にうんざりしたのだろう、何かを放射した。
グギャァァアアアアアアアアア
魔力がこもった咆哮だ。相当な苛立ちが見えるし、影子の分身の半数が巻き込まれて消えて行ってしまった。
「やっぱりゾンビアタックしかないですね」
影子の分身をさらに増やしながら、ドラゴンの周辺にまた布陣する。
「今から、一斉攻撃して気をそらすから、メルとマナで大打撃入れて」
「わかりました!」
マナが矛を構える。
『魔力のチャージ完了。大打撃を加えるなら首だ! 首を狩るぞ!』
矛が吠える。うん、声かえてもらおう。ちょっと恥ずかしい。
その直後、影子が上空から降ってきた。
「「遠山流忍術 水斬り」」
「「遠山流忍術 赤雷」」
水に雷とドラゴンに降り注ぐと、影子が糸をドラゴンの節々にひっかけていく。動きが鈍くなったところに、マナと俺が向かっていく。
「秘技32連撃、はぁぁぁああああああ」
今度は動きつつ、拳を叩き込んでいった。すると、グローブの魔力が衝撃となって前方に放たれていく。それは、ドラゴンの中に響き、高い音を出していく。30発目を叩くころには、目の前にあるドラゴンの腹の一部が抉れるように爆ぜる。そして、俺にはドラゴンの返り血が降りかかる。
マナの方からは、相変わらず矛の声が聞こえる。相槌というよりも合いの手だろう。
『にはつめ、さんぱつめ!いいぞ、いいぞ、うろこが削れてるよ! さぁ、ためろためろ力をためろ』
マナが影子のサポートでドラゴンの背中にとりついている。首に何度か攻撃を入れている状況だ。
「大技をお願い!」
ドラゴンが再度、咆哮を上げようとしている。
「マナの邪魔はさせないの」
俺は、足の部分に再度16連撃を加える。影子たちもダメージを稼いでくれている。
「スパイク・スラッシャー!」
マナが声を出すと、ドラゴンの首の半分が削れるくらいの穴があいた。そこから、大量の血が噴出する。
『魔力切れ。離脱を推奨』
その声に、少し戸惑ったマナが離脱していった。しかし、ドラゴンは消滅していない。
「さぁ、おらの見せ場ですよ」
その時、影子が仕掛けた糸が黄金に輝く。そして、その糸を持った両手を交差させる。
「受けたダメージを返す大技! 新遠山流忍術 糸車」
その声の背後では、ドラゴンの体がこま切れになってバラバラと地面に落ちていった。
「よかった。倒せた―」
マナがその場でへたりこんだ。
「マナ、影子、お疲れ様なの」
俺もマナの傍に向かう。怪我はなさそうだが、回復を掛けておく。
そこに拍手の音が聞こえてくる。ジェシーだ。ゆっくりと歩いて近づいてくる。
「おー、もう倒したんだな。よくやったな」
「ありがとうございます。できました」
マナがいい笑顔を見せる。
『俺という相棒ができたからな! 感謝するんだぞ』
うん、この矛の声、ほんと変えよ。影子もジェシーも同じ顔をしているのだった。
マナの活躍が書きたかった回。




