第26話 アビスヴォーカと派閥
情報収集のターンですね。
俺は俺1号。先ほどまで新社屋のロビーにて20人ほどの男たちと戦っていた。いや、俺は新人受付嬢として受付嬢の先輩たちに守られていただけだ。俺が死ぬほどの強い襲撃者がいないかと思って直接手を出さなかったが杞憂だったようだ。一般人な感じの老若男女が、小銃を抱えた目出し帽の男たちを蹴散らすのは圧巻だった。
そして、ラボ側は無傷で制圧したらしいので、そちらに移動する。
「さて、じゃあ、誘拐されちゃいますね。そして、この人がこの中で一番の事情通らしいので、残ってもらいます」
美人OL達に首元に手を添えられた目出し帽の男たちが呆けて立ち尽くしている様子は異様だ。
「じゃあ、その一番事情通な人は戦闘で脱落したということで、記憶を操作してください」
美人OL達が頷く。最近だが、影子の使うマインドコントロールを使いこなし始めたおかげで短期の記憶をすり替えることが可能になったのだ。
「わかったわ。じゃあ、みなさん行きますよ。あ、気絶したほうがいいですか? わかりました」
ひよりに仕切られて、ひよりの誘拐劇が始まる。ひよりは横たわり目を瞑る。すると、中の男の1人によって背負われる。そして、事情通と言われた1人の男を除いて非常階段の方へと向かっていった。背負われて出ていくひよりを見送り、俺は残された事情通の男から情報を引き出すことに専念する。
立ったままなのも何なので、机を挟んで椅子に座る。さながら尋問スタイルだ。周囲は警戒した美人OLが周囲を取り囲んでいる。彼に目出し帽をとらせると、普通な感じの日本人男性だ。
「よろしくお願いします。受付嬢の吉良です。あなたは、アビスヴォーカのメンバーでいいですか?」
「ああ、そうだ」
「今日は隼人ひよりさんを誘拐しにきましたね」
「ああ、そうだ」
素直に質問に答えてくれる。
「ロビーで人を何人も殺すことは作戦通りですか?」
「ああ、そうだ。エバーヴェイルへの見せしめになる」
「いつも簡単に人を殺すんですか?」
「ああ、そうだ」
頭が痛くなる。どうしたら、そんな残酷なことができるのか。
「アビスヴォーカの本拠地を教えてください」
「…知らない。幹部の場所は教えてもらえない。一時的な拠点ならば何ヶ所かわかるが、常に場所を変えている」
なんだか一問一答では長くかかるな。もう少し自発的に喋ってもらいたいので広く質問してみるかな。
「アビスヴォーカの最近の活動について教えてください」
「ダンジョン神からダンジョンの活性化の神託があった。スタンピードも起こりやすくなるため、アビスヴォーカもそれに乗じてギルド側の戦力を削ぐ活動を行っている。エバーヴェイルは、最近のギルドに対する貢献が高いため、最大の攻撃目標に上がっている。しかし、戦闘員のレベルも高いため非戦闘員を誘拐し脅迫による活動休止を狙うことになった」
やはりエバーヴェイルはアビスヴォーカから睨まれていたか。しかし、彼は良くても現場指揮官といったところなんだろう。深淵派などの単語は出てきていない上、エバーヴェイルがギルドに貢献していることを理由に活動休止を狙っていると言っていた。アビスヴォーカの幹部ならば、エバーヴェイルもダンジョン人とつながっていることを知らされているか、勘づいているだろう。
「影を操るホロウという少年。犬や鳥になれる女性も仲間ですか?」
「仲間? 俺は仲間と認めていない。やつらはアビスヴォーカのお荷物で、オーファンネストのガキたちだ。ファーストが力を与えたっていうのに殺しもできない甘ちゃんたち。おかげで俺たちが動くしかない」
オーファンネストというと、アビスヴォーカに滅ぼされたクランだったはずだが。組み込まれていたのか。
殺しもできないという事からホロウの立ち位置が少し見えてくる。思い出してみると、千種が攫われた戦闘で、ホロウの操るモンスターたちは分身を倒せていない。影子がレベルの割に動きがいいだけでなく手加減をしていたのだろう。スタンピードを使ってサンフランシスコを襲撃したアビスヴォーカとの違和感の理由がわかった気がする。
「オーファンネストは何人いるんですか?」
「今では10人に満たないはずだ」
この辺りは千種から聞き取りができそうな話なので質問を変える。
「ファーストとは誰ですか?」
「俺たちの指導者だ。会ったことは無いが強力なスキルを選んだ人物に授与できる」
聞いたことのないスキルだ。ユニークスキルなのだろう。ファーストが深淵派の傀儡の可能性が高い。
「ファーストの目的は何ですか?」
「知らない」
個人の目的は語られていないこともあるだろうな。
「アビスヴォーカの目的は何ですか?」
「ギルドをぶっ潰して大国から利権を奪って成り変わるんだよ」
あれ。ホロウの言うことと違うな。彼は利権を敵視していたが、それを奪って甘い汁を吸おうという話はしてなかった。
「ダンジョン神が作る平和な世界にむけて協力するのが目的なんじゃないですか?」
「同じことだろう。ダンジョン神によってダンジョンが溢れた時、その混乱に乗じてギルドを解体に追い込み、新たな秩序を作り上げるんだ。そのついでに、莫大な利益を得られるわけだ。いま、割を食ってる小国なんかは裏で協力している」
ホロウが見たアビスヴォーカは理想の部分なんだろう。実際には、ギルドの利権に絡めない国などを誑かして、ギルドを攻撃しているのがアビスヴォーカの真実なんだろう。
「ダンジョン神から、いきなりダンジョンが増えてスタンピードが増加すると、動植物が死滅するかもしれないという話は聞きましたか?」
フラムから得た情報を確認してみる。
「いや、知らない」
アビスヴォーカは聞こえのいい情報だけもらっているのかもしれない。
深淵派が魔力濃度の上昇に向けて現地住民の中でアビスヴォーカにスタンピード発生の片棒を担がせている。さらに邪魔になりそうなギルドを攻撃し、弱体化させている。
アビスヴォーカは、ギルドに成り変わり、将来得られる利益を目指してテロ活動を続けている。その中で、利益重視の多数と、オーファンネストからなる理想の世界を目指す少数という図式が見えてきた。
「あなたたちの協力者を教えて」
「知らない。戦闘部隊には教えられない事だ。だが、いろんな国、ギルド内部にもいる」
ギルド内部はやっかいだなぁ。ギルドに影子を派遣社員にでもして探らせるか。尽きない話となるが、ここまで情報を得られたらいいだろう。
オーファンネストを揺さぶって何なら引き込んでしまおう。そして、アビスヴォーカを丸裸にして、解体まで持っていければいいなと考える。
その時、取り囲むOL1人から報告がある。ロビーで捕まえた男たちを引き取るためにギルドから応援の戦闘部隊が来たそうだ。引き渡したのが、返り血を浴びた見目麗しい受付嬢たちのため、苦笑していたらしい。
その後、ラボにギルドの戦闘部隊がやってきたので、ひよりが誘拐されたことを告げる。先ほどの男の話から新社屋の罠についてはガームドさんを始めとする一部の関係者にしか漏らしていないので、引き続き罠を張り続ける。
「ひよりさんを助けてください」
そんなわけで俺は、可愛らしいピンクのハンカチで涙を拭う。
「警察にも協力依頼だ。マスコミには情報統制の連絡が必要だ」
ギルド側の担当者は沈痛な面持ちで指示を出す。
「ひよりさん、無事でいて」
ぐすぐすと泣き出す俺を周りのOLさんが慰めてくれる。
決して、2メートルくらいあるガームドさん直轄のギルドの猛者がおろおろする姿を楽しんでいるわけではない。ちょっとかわいいと思ってはいない。本当だ。
今年もお世話になりました!
9月から書き始めて多くの方に読んでいただいて嬉しかったです。
正月も書ければ書きますので、よければ読んでください!




