第13話 フレイヤたちとヨーロッパ遠征
ヨーロッパ遠征です!
俺は俺2号。タイの屋台で朝食を食べていると、俺1号から連絡が入った。ガームドさんからの要請でスタンピードがヨーロッパで起こったから急遽向かってほしいという内容だった。それを聞いたメルが、大きな揚げパンみたいなものを両手に持って止まる。
「またなの? 本格的に地球が攻められ始めた感じなの。助けに行くの。でも、ごはん…」
そして、両手にもった揚げパンを2つの動作で平らげる。
「作戦会議の間に食べきればいいさ。どこに誰が行くか決めようか」
そして、南さんからダンジョンの情報が出てくる。どちらも、新規のダンジョンではなく、10階層以上もあるダンジョンということだ。
「わたくしの考えだけど、分かれるのは得策じゃないわ。昨日のアビスヴォーカは潜んでいただけだけど、不意を突かれるのは危険よ」
「確かに。移動もできて隠密行動もできるってなると、アリスと同等のスキル持ちって可能性が高い。かなり危険だな」
「パパ、私が危険人物みたいに言わないでよ。乙女よ? 乙女」
ジェシーはコーヒーをぐいっと飲む。
「何か言ってよ!」
「あぁ、乙女だ。乙女。冗談はおいておいて、確かに4人で行動して、1か所ずつ対処するのは安全だが、時間がかかった場合被害が拡大するぞ。俺は、1か所に3人、残りを1人で攻略するのを提案する。1人の方は、影子の分身を主体に活用することで、無理はせずにスタンピードに対処するのに注力すれば危険度はそこまで高くないと思う」
そこで決まった作戦は、俺2号のフレイヤ、俺4号のメル、俺6号のアリスが1つめのダンジョン側に行き、俺5号のジェシーが残りのダンジョンのスタンピードを引き留める役割をするという話だ。
「インビジブルをずっとつかうのがいいの?」
「1つめのダンジョンは、あえてインビジブルを使わずに対処してくれ。もちろん、アバターを切り替える時は別だが。俺の方はアバターの切り替え前提だから、インビジブルを使って対処する。フレイヤはダンジョンガイダンスを起動して、また世間を安心させてやってくれ」
ジェシーの案に乗ることにして、その後、俺たちは北欧に飛んでいった。タイのギルド側には簡単なメッセージを残したので問題ないだろう。今晩、パーティを開くとか言っていたみたいだが、状況が状況なのでキャンセルとさせてもらったのだった。
到着した北欧は寒かった。俺もアリスに変身して飛んできたわけなので、最初は寒かったが、フレイヤに戻ると震えが止まる。思わず、目の前で震えるアリスをぎゅっと抱きしめる。
「メルもなの」
メルもくっついてくる。フレイムマジックのおかげで俺の周囲は暖かいのだ。
「ダンジョンはあっちで、見えてるけど、あれがモンスター」
アリスが指さした方向は森林が見える。そして、その森林から、人型のモンスターがゆっくりと歩いてきている。
「ゾンビに雪男に吸血鬼? 人型を集められるだけ集めた感じかな?」
「狼男もいるみたい、すごい速度でこちらに突っ込んでくるわ。じゃあ、ダンジョンガイダンスで撮影開始しますか」
そして、また緊急で動画を回す的なエバーヴェイルちゃんねるが始まった。後にモンスターが哀れだと言わしめた1時間がそこから開始された。
メルが一番弱いと踏んだ狼男がフレイヤとアリスを素通りしてメルに鋭い爪を突き立てようとした。しかし、メルは構えをとる。
「はぁぁぁぁ、えぃや!!!」
周囲の積雪が一瞬浮かび上がるような踏み込みの後、狼男の股間が拳で撃ちぬかれていた。小柄なメルと2メートルを超す狼男の身長差による悲劇だろう。パンという乾いた音と共に、その部位が消失していったのをダンジョンガイダンスは撮り逃さない。視聴者の男性陣は、思わず自らの股間を抑えて、「うわー」と声を上げた。コメント欄にも、同情するような声が並ぶ。
俺もフレイヤの姿じゃなかったら、股間を押さえていたかもしれない。危ないところだ。そして、アリスは飛翔する蹴りを放ち遠くにいるゾンビたちの頭をサッカーボールかのように遠くに弾き飛ばしていった。そのゾンビの頭が飛翔する吸血鬼に当たったりするものだから、計算高い攻撃だ。
「わたくしも頑張りますわ」
俺は爆発する火球を放つフレイムバーストを選ぶ。それは、周囲を巻き込んで爆風で攻撃する。いきなりにぎやかになってくる。
素早い動きができる狼男はメルやアリスに討伐され、その他は固定砲台として10メートル上空から魔法を放つ俺に倒されていく。きっとダメージで言えば炎の爆発の方が与えているんだろうが、メルに拳で股間に風穴をあけられて消滅していく狼男に同情の声、せっかく飛翔して奇襲したのに、アリスのハイヒールで背中を踏まれて消滅していく吸血鬼に嫉妬の声が上がっていく。
あまりにコメントが多くなってきたせいで、ダンジョンガイダンスの新たな分析機能がコメントを整理してくれる。
『アリス様を女王様と呼ぶ声が多いです。魔女に聖女に女王様のチームというパーティ名に推奨されています』
なんというか楽しそうで何よりだ。アリスも気にした様子もなく、ハイヒールでモンスターを踏んづけていった。
そして、その溢れ出したモンスターたちの大部分を倒し終えると、ダンジョンの攻略に向かった。このダンジョンも完全攻略をしてしまっても良いらしい。タイのダンジョンでは、ユニークスキルが育たなかったので、期待したいところだ。
そして、ダンジョンに向かうと軍事施設のような様相で、鉄条網の中に大きな鉄の扉が据え付けてあった。しかし、それは壊されてしまっているわけで、屑鉄が散乱している状況だ。さっきのモンスターたちが壊したんだろうかと思ったが、そうではないらしい。
「いるわね。あっち。サイズ的にフロストジャイアントってとこかな」
アリスが指さした先には山かと思うほどの氷の巨人が居た。しかし、結果を言うと、俺との相性がとてもよかったこともあり、物量で攻めてきていた人型のモンスターよりも倒しやすかった。多重でかけたフレイムストームの炎の渦のなかで暴れまわって苦しみもがき倒れていく様をダンジョンガイダンスが映していた。
「また、コメントが変な方向に行ってるの。『モンスターが可哀そう、そっとしておいてあげたらよかったのに』なんて書いている人もいるの」
モンスターがあまりにもあっけなく倒されたので同情してしまったのだろうか。でも、フロストジャイアントってダンジョン発生時に町を破壊しまくった危ないモンスターなんだけどなぁ。
「ダンジョンに潜るわよ」
そして、俺たちはダンジョンに入っていったが、入った途端、雪原エリアに降り立った。もちろん寒いのだが、さらに急激に温度が下がっていった。体感できるくらいの下がりようだ。ダンジョンガイダンスが凍りついてしまった。その時、アリスが姿を消すと、目の前に山小屋が出現し、温度低下が緩やかになる。どうやら、ジェシーに変身して、安全地帯を出してくれたらしい。インビジブルを解除した後は、そこにアリスがいる。
「罠かしらね」
「影子で警戒を行ってるわ」
アリスはこの短時間で影子の分身も出していたらしい。さすが、アメリカで過酷なダンジョン生活をしていただけあって俊敏なアバター捌きだ。
「周辺には誰もいないわ。ダンジョンの環境をいじって逃げたってところかも」
「寒いの。ちょっと上着を出すの」
メルはE&Sで作った防寒具を出してくる。アリスにも手渡す。フードに猫耳がついているのが好きらしく、2人とも猫耳が生えた。その後、凍結していたダンジョンガイダンスを解凍しつつ、ダンジョン内をアリスと影子の分身が探ってくれる。結局、モンスター以外に怪しい者はおらず、途中に残った階層ボスやモンスターを相手にしながら、ダンジョンボスまでたどり着くのだった。
結果を言えばダンジョンボスでさえも相性が良く、あっけなく倒すことに成功した。でも、フレイヤじゃなければ苦労していただろう。ちなみに、期待したユニークスキルのアップデートは発生しなかった。そんながっかり感を知らない視聴者は、辺境のダンジョンが1つ消えたことに沸いたのだった。
幸子さん直伝の技はクリティカル狙いですね。




