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世界はまだ、俺が魔女で聖女だと知らない  作者: 月森 朔
第7章 観測者になった日

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第12話 アビスヴォーカと影使い

アビスヴォーカのお話をすこし

 俺は俺1号。いまは、笹木の姿でガームドさんと話をしている。目の前には俺7号が変身したフラムが居る。すこし前に、マナとひよりも起きだしてきて、パンを食べながら話を聞くことになった。


「マナたちにも共有のために確認ですが、スタンピードのうち3件はギルド側の応援で対処が可能なんですね」

「はい。スイス、フランス、ドイツのスタンピードは対処可能です。しかし、元々、ダンジョン発生時に手薄になってしまった北欧の地域2か所はスタンピードへの対処が遅くなりそうです。不幸中の幸いなのが、該当するダンジョンが町から離れているということです。しかし、町から離れていると探索者への支援もままならないというのが現状です」


 もちろん、軍なども出ていくだろうが、タイと同じで地形が変わるくらいに砲弾を撃ち込むといった対応になる場合が多く、モンスター退治の効率はあまり良くないのだ。もちろん、探索者たちに被害が出ることを考えれば、爆撃なども対処法として取られることもある。


「フレイヤたちを派遣することは可能ですよ。いま、タイで休んでいると思いますけど」

「本当に申し訳ない。連戦になりますが、是非力を貸してください」


 ガームドさんのお得意のテーブルに頭を擦り付けるポーズが際立つ。横に立っている天白さんも同じようにしないといけないのかと、あたふたしているから、止めてあげてほしい。


「頭をあげてください。協力は惜しみませんから。なぁ、みんな」


 俺が、ひよりとマナに話を振る。フラムは日が浅いというか、昨日から参加しているメンバーなわけで話を振るには日が浅い。


「こじにー…笹木さんの言う通りです。エバーヴェイルは、ダンジョン攻略のお役に立つのを方針にしてますからね。ね。ひよりちゃん」


 こじにーでもいいんだけど、マナが言い直す。


「僕も協力するよ。大量の物資が必要になりそうだしね。あ、でも、アビスヴォーカの魔道具の解析が優先かな?」


 フラムも「調査などは任せてください」と微笑んで答える。


「じゃあ、フレイヤに連絡を取ります。場所の情報などはありますか?」


 すると、南さんが資料をフレイヤたちの元に送ってくれるという話だ。フレイヤに電話をかけると、ちょうど朝食を屋台で食べていたらしい。すぐに承諾の返事をもらう。1時間以内にはヨーロッパで新たな活躍が見られるだろう。

 


 そこでガームドさんが手を叩く。


「調査…あぁ、そうだ。忘れていました。天白支部長、あの件を説明してください」


 ガームドさんが天白さんに指示をだす。天白さんは最近、中間管理職っぷりがあがってきたようで、存在感が希薄になりがちだ。しかし、これでも日本で最高益を出している支部長として、かなりの出世頭になってきたらしい。まぁ、それはいいとして、天白さんが端末を操作し、モニターに人物の映像を映し出す。


「実は、名古屋ギルドの周辺で不審なアルバイトをしている人物たちを捕捉しました。性別年齢も様々なんですが、共通してエバーヴェイルのメンバーの写真や動画を高額で買い取るという話を持ちかけるアルバイトでした。彼ら自身は実在の雑誌社から依頼を受けて、写真や動画を入手したら中間マージンとして販売額の半分を得ることができるという契約で動いていました」


 天白さんが何人かの写真を並べていく。全員がカメラを正面にして真顔で映っている。まるで、犯罪者を撮影したマグショットのようだ。まさか、逮捕されてる??


「怪しいけど、そういうこともあるんじゃないかと思いますね。でも、教えてくださるってことは、より危険な話があるんですよね」


 天白さんは、少し間を置く。


「そうです。南くんには既に伝えたんですが、ギルド側はこれをアビスヴォーカによるエバーヴェイルを標的とした諜報活動と判断しました。彼らは全員一般人で、それぞれが契約した出版社は実在するものでしたが、すべて架空の担当者、架空の連絡先、データの送付システム、これらを追いかけた先には何も残っていませんでした。既に何枚もの写真や動画が送られたものと推測できます」


 次にガームドさんが口を開く。


「アビスヴォーカを追っている部門がギルド内にあるんですが、今回の手口が同じなんですよね。情報を集める際に、あえて一般人を交えて手先にするんです。そして、その窓口になっている黒幕は身元が全く分からないというのが今までの状況です。この前のタイのダンジョンで現れた幻影使いの存在によって、手口が明らかになりつつあります」


 この話を聞くと警戒感が増す。何しろ、俺もアバターや影子の分身や変身によって色々と世間を欺いているわけだから、幻影によってできることは山ほど思いつく。俺の周りに既にもぐりこんでいてもおかしくない。やはり、新社屋への移転は早めた方がいいな。



「アビスヴォーカが特定のクランを狙ったことはありますか?」


 天白さんが答えてくれる。


「正式な記録ではありません。しかし、1つのクランが消滅したことはあります。アビスヴォーカが出現した前だったので、因果関係は判明していません。しかし、Sランクの探索者を複数抱えて居ながら、不遇のクランだったと記憶しています」


 ひよりがコーヒーを飲んでいる手を止める。


「不遇というと?」


 天白さんはひよりに向き直り、手元のメモを呼んでいる。事前に調べてくれていたようだ。


「ある国のお抱えだったんですが、元々が紛争の孤児が集まったクランだったらしいんですよね。探索者としての能力が高かったんですが、国との折り合いが悪かったらしいです。孤児の救済と引き換えに過酷な探索を強いられていたらしいです。そのうち内戦で国自体が崩壊して、そのタイミングでクランが消滅しました。ちなみに、そのクランの名前は、オーファンネストというものでした」


 聞いたことがないな。ダンジョン出現後、世界的に混乱もしていたから、色々な話があるだろう。


「すみません、そのクランとアビスヴォーカとの接点が見えないんですが」


 俺の質問に天白さんが端末を操作してぼやけた男性の写真を映す。


「これは情報の確度が低いため、多分に予想が入っています。その内戦を起こしたのがアビスヴォーカだったと言われています。そして、内戦の中、最も反抗したのがオーファンネストだったと言う話ですので、アビスヴォーカが手を下し、クランを消滅させたのではないかというのが通説です。ちなみに、この写真がその首謀者といわれている男です」

 

 ここまでいくと、都市伝説みたいなものだなぁ。そこで、ガームドさんが補足する。


「この首謀者は通称 影使いと言われていました。私はこの前の幻影使いが逃げた時に染みだした黒いモヤがあったのが、その影使いの能力なんじゃないかと疑っています。すみません。話が散らかってしまいましたね」


 ガームドさんが頭をポリポリとかく。


「いえいえ、俺がアビスヴォーカがクランを狙うかって言う質問をしたんで、色々知れたんでよかったです。アビスヴォーカがエバーヴェイルを敵対視しているとすれば、ちゃんと対策が必要です。ちょうど相談したかったんです。俺の案なんですが、新しい社屋に引っ越して、防御を厚くしようかと考えているんです」


 そして、マナへの提案が一番難しい。傷ついてほしくないが、俺は生き延びる自信があるが、マナは危険だと思っている。


「マナには俺とひよりとフラムと一緒に金沢ダンジョンの隠しエリアに行ってほしい。あと狙われる可能性の高いマナの家族も一緒に来てもらえると安心できるんだが」

「新社屋にいくんじゃないんですか?」

「いや、新社屋はいわばオトリだよ。もし、敵意のあるやつが侵入したりするのを待ち受ける。そして、もし外部から攻撃を受けたとしても、例の新社屋周辺は開けているからね被害も少ないと思う」


 マナは少し考える。


「こじにーは、ここが狙われると考えているんですね」

「そう考えてる」

「分かりました。こじにーとひよりちゃん、フラムさんを守る人が必要ですからね。両親にもなんとか連れ出します」


 不安げなマナだが気持ちを切り替えて俺の案に納得してくれた。家族まで連れ出す意味を感じ取ってくれたのだろう。頭のいい子だ。こうして、新社屋への引っ越し日が急遽7日後にきまった。フロアの改修は必要最低限が整っているので、問題ないだろう。


「あの、では私のチームは新社屋でいいんですか?」


 南さんが当然の質問をしてくる。


「ああ、すみません。そこも説明していませんでした。南さんのチームも同じく金沢ダンジョンに入ってください」

「え、でも、そうしたら誰が新社屋を使うんですか?」


 そこで俺は計画の全貌を話す。皆が唖然とする中、ガームドさんは馬鹿笑いをし始めた。そして、その話が終わるころには、食後の運動とばかりにフレイヤたちがヨーロッパに遠征していたのだった。


珍しく笹木じゃない新キャラの予感です。

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― 新着の感想 ―
新社屋に行くのは分身体影子たちだけかな? マナたちに変身した個体もいれば傍から見たらちゃんとメンバーが使ってるようにも見えるし。
>そのうち内戦で国自体が崩壊して、そのタイミングでクランが消滅しました。ちなみに、そのクランの名前は、オーファンネストというものでした  もうね?  もうね?  フラグの匂いしかしないのよ。  白々…
笹木限定ではあるけれど、ダンジョンに居た方が移動にも集合にも都合が良いという……つくづく、ジェシー親子はチートですねぇ。
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